第13話 清楚系ビッチな妹友に家庭教師をすることになった件。その③




「…………ハアァァ……」



 西川さん宅近くの公園。ブランコに腰を下ろした俺は、――うなだれていた。



「……ヤバイヤバイと思っていたけど、まさか12位に転落なんて。……マジかぁ……、ツラ……」


(『勉強という単純化された結果を出すことしか、自分の価値を高める方法ないでしょ?』……って、超ブーメラン、笑えない……)


 先ほどの西川さんの様子を思い出す。家庭教師してわかったけど、西川さんはぜんぜん落ちこぼれじゃなかった。名門小は進度がめちゃめちゃ早く、完全に中学校の内容だっただけだ。


 しかも、ちゃんと高得点をとってくるあたり、正直エリートとしか言いようがない。……俺とは違って。


「……ホント、何にもないな……俺」


 西川さんのように才色兼備でもなければ、結衣のように楽観的にもなれない。


「なんか、……もうやだ」


 ――俺は何も成し遂げられない、名門小を落ちた時から、何も……、



『……疲れたんですか? ……おにいさん……?』


「……!」


 首筋に温かい体温と柔らかな二の腕の感触。いつもの息遣いが間近に感じられて。


 ――気がつくと、後ろから抱きしめられていた。




◇◇◇




「……西川さん? なんで」


『……様子がおかしかったから、ついてきたんです。体調でも悪いかと思ったんですが。……こんなとこにいるなんて、……まったく困ったお兄さんですね?』


「……うるさ……、……ッ?」


 ぎゅ、と西川さんの腕に力がこめられ、後頭部に重い感触。


「ちょ、あの、何して?」


『……返してます。わたしがいっぱい時間を吸い取ってしまった分』


「……それは」


『……なのにお兄さんは、一言もわたしを責めなかった。それがお兄さんの優しさとか気遣いだってこと、……ちゃんとわかってます』


「……」


『……「何にもない」なんて、そんなことないです』


「…………」


『結果なんて出なくても、いいんですよ。……それでもわたしは、お兄さんがいいですっ』


「……ッ」


『お兄さんがどんなに落ち込んでても、わたしが必ず側にいます。才能とか関係ありません。だってわたし、もう……決めてますから』


「……え?」



『……いいですか、お兄さん、大事なことなので、よく聞いてくださいね?』



 すぅ、と短い呼吸音。そして……。



『――わたしが幸せにしてあげるから、お兄さんは安心してたくさん挑戦して、ちゃんと……幸せになってください』



「…………」


『……それが……あの時の約束の、二つ目の条件です……』


「…………っ」


『……よしよし、お兄さん。……またがんばりましょうね?』


 西川さんの小さな手が何度も何度も往復し、……優しく俺を撫でる。


『お兄さんの手を煩わせないように、わたしもがんばりますから』


「……」


『……ぜったい幸せにします。……これでもエリートですし』


「……」


『……疲れたらまた、いつでもこうしてあげますから……ね、お兄さん?』


「……ッ!」


「……お兄さん?」


「ちょっといい加減、マジで離れてっ」


「……すみません、出しゃばりすぎましたか?」


「……」


「……ごめんなさい、イヤでした?」


「…………」


「お兄さん?」


「………ッ! ///(マジ照れ)」


「……!」


「……ッ」


「……っ」


「……そんな、……急に、ずるいです……お兄さん」


「………………うるさい」


「……ッ」


「……っ」



●●●



「           」


「……お父さんー? 気持ちはわかるけど耐えてー。いいとこだからー」








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