第10話 清楚系ビッチな妹友とデートすることになった件。その②
「……むー」
――清楚系ビッチな妹友が、デート先でものすごく不機嫌。
俺をジト目で睨みつけながらも、モフモフと頬張り、ひたすらにケーキの皿が重なっていく。
(どうしよう、気まずい! 何この地獄みたいなデート!)
「……あの、西川さん?」
「……なんれふか、――『お兄さん』?」
その強調する感じが、なんか怖いんですけど。
◇◇◇
「はぁ。やっと終わった……」
終始気まずかった空間から解放され、俺は思わず一息つく。西川さんはといえば相変わらずしかめっ面で、
「あの……もう終わりですか?」
「え、まさか! そうだ、西川さんの行きたいところはあるッ?」
……エスコートもへったくれもねー。
自分のデートスキルの無さに絶望していると、
「……カラオケ……」
「え?」
「……カラオケ、とかどうですか?」
正直、願ってもいない良案だと思った。しかし、問題が一つだけあって……。
「……俺、初めてなんだけど、それでもいい?」
「……」
うわ、恥ずい。高校生にもなって。
思わず顔が熱くなるが、
「……それは、……意外ですねっ」
なぜか西川さんは瞳を輝かせて応える。
「……そう? 見た目通り、ただの不健康なガリ勉だけど?」
「そうなんですか? ……ぜんぜんそんなイメージないです」
「……で、どうしよう? やめとく?」
「いえ、行きましょう、カラオケ」
「急にご機嫌だね。……好きなの?」
「そんなとこです、ふふ」
◇◇◇
「あッ」
カラオケに向かう道中、すれ違う人の列とあわやぶつかりそうになり。
「大丈夫?」
「はい。……ありがとうございます」
「なんかさっきより人が混んでるな」
「週末だから、ですかね?」
「っていうよりむしろ……」
歓楽街寄りだから、だろうな。何気に駅地下よりも治安悪げだし。
「?」
そのことに気付いているのかいないのか、西川さんはキョトンとした表情。なんだか、危ういな。
「はい」
「……え?」
「手。はぐれて迷子になったら困るでしょ?」
「……ッ! …………あッ、ちょっ」
「ほら、いくよ?」
「…………っ、///」
◇◇◇
――知らなかった。
――カラオケって、めっちゃ密室じゃん! なんか照明も暗いし!
「……ずっと変装してたから疲れちゃいました。……んー、おっきなソファー気持ちい」
「……」
『……緊張、してるんですか? お兄さん?』(囁き)
「なッ、そんなわけ」
『リラックスしていいんですよ? だってここ、2人きりですから』
ごくり。と喉が鳴った。
『嬉しくないんですか? こんなに可愛い子がすぐ近くにいるのに♡』
「……」
相変わらずこの子は、こうやって俺のことをからかってくる。
「…………、キミは、どうなの?」
「え?」
「キミの方こそ、俺と2人きりになったら、嬉しいと思うの?」
『……、……わかりませんか?』
「……」
清楚なのかと思えば、ビッチっぽい発言もしてくるし、正直、最近はこの子のことが一層わからない。……それに。
「ごめん、聞かないとわからないよ。言ってたよね。『俺のことは別に好きじゃないって』」
「…………」
「確かに言ったけど、……あれはそういう意味じゃ、ないですから」
「じゃあ、どういう?」
訊いてしまってから、個室の空気が張り詰めたことに気付いた。
「あれは、その……、えっと」
西川さんがその可憐な顔を赤に染めて、一度視線を逸らす。少しだけ間が開いた後、意を決したような表情と、すぅ、と鋭い呼吸の音。俺も思わず胸が高鳴って、
「――お兄さんっていうよりは、伊集院くんを避けたかっただけです……っ」
……伊集院くぅぅ――んッ!!(泣)
その後。空気に耐え切れず、ひたすら歌って時間を過ごした。(ちょっとハマった)
◇◇◇
「お兄さん、今日はどうもありがとうございました」
「いえいえ。……ええと、送る?」
「大丈夫です。まもなくお迎えが来るので」
「……迎え?」
「ほのかー!」
「あ、お母さん」
現れたのは、西川さんを大人にしてかなり派手にした感じの美人。
「こんばんわ、小方くん。結衣ちゃんのお兄さんよね? ……いつも娘がお世話になっています」
「あ、すみません、こちらこそです。今日はその、えと」
急な保護者との面識に焦る俺。無礼なく挨拶できるよう、頭をフル回転させるが。
「ふふ」と微笑んだ西川母が不意に距離を詰め、
『……それで、どこまでいったの?』(耳元)
「ブファッ! ええっ?」
「ちょ、お母さんッ! 何ベタベタしてるの! お兄さんもッ!」
「べべ別に、甘いもの食べてカラオケ歌っただけです。やましいことは何も」
「そうなの? ふぅーん」
全身を舐めるような視線のあと、
「ところで小方くん、聞くところによると君は成績優秀で、学業は常に学年上位だとか?」
「どこからそんな情報を? ……まぁ、一応は」
「そうなの。……じゃあ、適任ね」
「え?」
意味がわからない俺に、西川母は爽やかにほほ笑んで、
「小方くん、……この子の家庭教師になってくれないかしら?」
「……え」
「「――ええぇぇぇ――ッ!? ///」」
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