第9話 清楚系ビッチな妹友とデートすることになった件。その①



 ――清楚系ビッチな妹友と、デートすることになった。



(……どうしよう、デートなんて、全く経験がない!)



 家のリビングで悶々とする俺。目の前では、風呂上りの結衣がコーラ片手に身体をくねくね。


「あぁ、糖分が染み渡るぅ―」


(いや、相手は小学生だ。緊張してどうする。でも、一応お詫びのつもりだから、無策でブラブラするってのも失礼だし……)


「おッふぁッ、ドーパミン、ドバドバぁーッ」


(……)


「なぁ、結衣」


「ふぇ? なしたん、おにぃ?」


「……小5の女の子って、どんなデートが好みなの?」


「……ロリコン?」



 ◇◇◇



「……とりあえず、甘いものが食べたいかなぁ! 結衣ならッ」



 ――妹からの助言にのっとって、西川さんをケーキバイキングに誘うことにした。


 待ち合わせの週末、正午、……の20分前、俺は駅地下の時計塔の前でそわそわしていた。


(……落ち着け落ち着け。デートと言っても相手は西川さん。要は、結衣だと思えばいいんだ!)


 そう思い立った瞬間、ふいにひんやりした感触。途端に視界が真っ暗になり、



『……だぁーれ、だ♡』



 視界を奪われた状態での耳元攻撃に、全部ぶっ飛ばされた。


「~~~~ッ!?」


「ふふ、……今日はとっても早いんですね? ……お兄さん?」




 ◇◇◇




 ――清楚系ビッチの妹友と、地下街を歩く。



「ねぇ、あの子超可愛くない? お人形さんみたい」


「どっかで見たことある気が。……芸能人かな」


 

(……う、周囲の視線が、めっちゃ気になる)



 ちなみに西川さんは、地味な色のオーバーサイズニットとスカート、帽子に伊達メガネという変装コーデ。


『……気にしないでください。慣れっこなので』


『……えと、街に出る時はいつも?』


『そうですね。……ホントはもっと、お兄さんを悩殺しちゃうような、可愛いカッコがしたかったんですけど?』


 ふふ、と伊達メガネの奥で、西川さんが悪戯っぽく笑う。


『……大変、なんだな』


『まぁ、なので普段は、あんまり出歩かないんですけど。……でも、今日は特別です。……だって』


 視線が外れ、西川さんの動きが少しぎこちなくなる。俺の胸がドキドキと音を鳴らす中、ゆっくりと向き直り、


『……えへへ♡』



 ――なんだこの子、死ぬほど可愛いくね? ///





 ◇◇◇





(……落ち着け俺! 小5だ、結衣だ! 未だにウ〇コ見つけて喜ぶようなお子様だ。意地でもキュンなんてするか。……よし、俺は兄貴でこの子は妹。――西川さんは、妹!)



「いらっしゃいませー、何名様ですか?」


「あの、予約していた小方おがたです」 


「お待ちしておりました。2名様ですね?」


「はい。お願いしま……」


『……あのー』


 受付のお姉さんが、急にひそひそと耳打ちをしてきて。


『……しつれいですが、お二人はカップルさん?』


「な、え、か、カップルぅっ!?」


『もしそうなら、カップル割が適用されるけど、……ん……?』


 お姉さんの視線が、西川さんに向けられ、訝しげな表情になる。その幼さに対してか、それとも有名子役と感づかれたか。とにかくマズい、と思った俺は、とっさに西川さんを指さして叫ぶ。



「――い、妹ですぅッ!」



「……あ、え?」


「妹はまだ小学生なんで! ほら、大人1名と小学生1名の方が、カップル割より安いですよねッ?」


「……か、かしこまりました。では、こちらへご案内いたします」


 受付から移動するお姉さんの背中を見て、俺はほっと安堵する。



(……よかった。これで余計な詮索をされずに済みそう……)



「……お兄さぁーん?」


「え、あ、はい」


 振り返ると、西川さんが笑っていた。でも、



「……ふぅーん?」



 ――目がまったく笑ってない……だとッ!?

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