第4話 俺の妹友が『清楚系ビッチ系清楚』な件。

(前回続き)


 

「三つです」


 ……コイツはもう! なんなの、なんなの! もう!


「それで、一つ目の条件ですが」


「この交渉を他の人には言わないこと。二人だけの秘密です……」


 人差し指で自分の唇をなぞりながら、西川さんが続ける。


「わたしがこうしてお兄さんをよろこばせてることも、ナイショ、ですよ?」


「……おう」


 言いたいことはいろいろあるが、とりあえず頷いておく。


「そして二つ目は、……」


 息をのむ俺に、西川さんは小首を傾げて、綺麗な笑顔を見せる。


「まだ秘密です」


「はあ?」


「ちょっと待って、どういうこと?」


「今はまだ言いたくありません。でも、言えないけど、お兄さんに従ってはもらうというものです」


「――大分えげつないヤツだった!」


「ダメですか? 交渉破談にしてもいいですけど?」


「…………」


 言いたいことは山ほどあるが、ここは耐えろ! 耐えろ俺! 


「……わかった」


「…………っ」


 俺の返答を聞くなり、西川さんの表情が変わる。さっきよりも緊張(?)してるような。


「……なんでそっちが動揺してるんだ?」


「してません。……思い違いです」



◇◇◇




「ごほん」


「それで、……最後の、三つ目ですが」


 少しだけ、沈黙。そして、何やらゴソゴソスマホを取り出し、


「れ、連絡先を交換……しませんか?」


「え?」


 予想外の条件に、俺は完全に拍子抜けする。


「そんなでいいの? なんだ俺、てっきりもっと……」


「……それでどうなんです? ……その、交換してくれるんですか?」


 なぜか視線を合わせずに言う西川さん。意図がよくわからないので、俺はとりあえず自分のスマホ画面に自分のQRコードを表示し。


「ぜんぜん構わないよ。どうぞどうぞ」


「…………っ」


 その瞬間、西川さんの挙動が、見るからに固くなった。


 ピっと、QRコードが読み込まれ、


「……済みました」


 未登録の連絡先『ほのか』から『どうも』と素っ気ないメッセージが来たので、とりあえず即承認してみたが。


「………………」


 そのまま、ギュッとスマホを抱きしめて動かない。


「さっきから様子がおかしいけど、どしたの?」


「……べ、別に普通です」


「そうかなぁ?」


「――ッ、あの、少しこっち、見ないでもらえますか」


「……どうして?」


「あ……ッ」



 何も考えずに覗き込むと、国民的美少女の焦った表情が目に飛び込んでくる。顔全体が赤く上気して目も潤み、心なしか視線がせわしない。



 ――えっと、この反応ってもしや。



「まさかとは思うけど、……俺と連絡先を交換できたことに、照れてるの?」



「――な――ッ!」



 みるみるうちに小さな顔が真っ赤になり、綺麗な眉根がハの字に歪む。その光景があまりに美しくて、俺は思わず息を呑んだ。



 ――おかしいおかしい。


 ――『清楚系ビッチ』じゃないの?



 あれだけ俺をからかっておきながら、自分は連絡先一つで真っ赤になって。



 ――この子、めっちゃ、ピュアじゃん!



「……え、と、図星?」


「……ち、違います! てか、近いです……、……お兄さんっ」


「……ッ」


「……うぅ……お兄さん、ガン見しすぎですッ」



 ――あまりのギャップに、ちょっと萌えた。



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