第五章 仲良し幼馴染編

第1話

 とある日の、とある少年の部屋の中で。

 男女が二人きりになっていた。


「……シない?」


 そのうちの一人、妖精のように可憐な容姿の少女が……

 少年の顔を覗き込みながら、そう言った。

 前かがみになったことで、僅かに下着と胸の谷間が覗いている。


「う、うーん……」


 少年は視線を逸らしながら、誤魔化すように唸る。


「ねぇ、しよ?」


 たじろぐ少年の腕を、少女は引き寄せる。

 少女の柔らかい胸の感触に、少年は戸惑いの表情を見せた。


「い、いや……でも……上手くできるかどうか……」


 自信がなさそうに、恥ずかしそうに少年はそう言った。

 いつになく大人っぽい表情を見せる少女に戸惑っているようだ。


 一方で少女は少年のそんな気を知ってか知らずか……


「私がリードしてあげるから……ね?」


 その蠱惑的な唇を動かした。







 ある日のこと。

 当たり前のように一颯の部屋に上がり込んできた愛梨は、開口一番に言った。


「あれ? これ、アルバムじゃん」


 一颯の部屋に無造作に積まれていた分厚い冊子。

 その正体はアルバムである。


「あぁ……少し、懐かしくなって。昨日の夜頃から、見てたんだ」

「へぇー」


 愛梨は一颯の返答を聞き流しながら、アルバムを開く。

 そこには幼い頃の一颯と、そして愛梨の姿が映っていた。


「うわぁ、懐かしい! これ、運動会の時のやつだよね? ……何年生だろ?」

「大玉転がしは確か、二年生だった気がするぞ」


 そこには賢明に玉を転がす一颯と愛梨の姿が映っている。

 今にしてみると、顔つきも体付きも幼く、可愛らしい。


「一颯君、可愛いなぁー。この頃の一颯君って、女の子みたいだね」

「……悪かったな、女顔で」


 今はさすがに「女みたいな顔」と言われることは少ないが……

 幼稚園児、小学生の頃は女の子と間違えられることも多々あった。

 

 また、昔は小柄で虚弱体質、色白だったことも、それに拍車をかけていた。


「いや、褒めてるんだよ? 可愛いって」

「俺は男だからな……可愛いと褒められても」

「へぇ。そういうの気にするのね」


 愛梨はそんなことを言いながら、別のアルバムを開く。

 そこにもやはり運動会の写真が貼られている。

 これは小学三年生の頃のものだ。


 愛梨は次々とアルバムを開き……学年ごとの運動会の写真を並べた。


「この頃は私よりも背が低かったっけ。いやぁ、本当に可愛い。タイムマシンで誘拐したい」

「タイムパトロールさん、犯人はこいつです。……人の幼少期の写真に欲情するな」


 さすがに本気で昔の幼馴染に欲情しているわけではないと一颯は思ってはいるが……

 それはそれで居心地が悪い物だ。


「そんなこと言って……実は一颯君、ロリだった頃の私に興奮して、見てたんじゃないの?」

「そんなわけないだろ」


 一颯はため息をつきながら、一枚の写真に目を向ける。

 五年生の頃の写真だ。

 愛梨が一颯の肩に手を回してピースをし……そして一颯の方は少し恥ずかしそうにしている。

 この頃はギリギリ、愛梨の方が背が高かった。


「こうしてみると……私、まあまあ、発育いいね?」

「……反応に困ることを聞くな」

「ちなみにこの時の私、下着つけてないと思うわ。いわゆる、謎校則というやつがあったし」

「……今は改善されているといいな」


 愛梨の言葉で一颯は少しだけ、昔のことを思い出した。

 

 愛梨は他の子よりも発育が早く……

 背も高ければ、胸もそれなりに――同年代の小学生と比較してだが――大きかった。


 しかし本人が言うように、体操服を着ている時にブラジャーは付けていなかった。


 当時の一颯は少し早めの思春期に突入していたので、そんな状態の愛梨に抱き着かれたりして……恥ずかしいと感じたのだ。


「全く、一颯君。照れちゃって……」


 ニヤニヤと笑いながら愛梨は一颯を肘で突く。

 愛梨もまた昔のことを思い出し、一颯が妙に照れていたことを思い出したのだろう。

 ……もしかしたら、昔から分かってやっていたのかもしれないが。


「しかし、愛梨。そういうお前は……随分と小さくなっちゃったな」


 少し腹が立った一颯はそう言いながら、愛梨の頭をポンポンと叩く。

 今の一颯の身長は百七十五センチ以上……男性の平均よりも高い。

 一方、愛梨は百五十五センチ……女性平均以下だ。


 要するに愛梨は成長期が早かったが、終わるのも早かったのだ。


「むむ……」

「どうした、愛梨? 気に障ったか?」


 一颯はぐりぐりと愛梨の頭を撫で回す。

 すると愛梨は少し拗ねた様子で頬を背けた。


「……私はこれくらいの身長が気に入ってるの!」


 それからしばらく考え込んだ様子を見せて……

 一颯の腕に自分の腕を絡めて言った。


「ちなみに……私、こう見えてもDカップだから。こっちは平均よりも大きいよ?」

「……変な申告してくるな」


 一颯は少し強引に――愛梨を傷つけないように気を付けながら――腕を振り払った。

 そんな一颯の態度に愛梨は満足そうな表情だ。


「全く、照れ屋なんだから」

「……」


 何となく、一颯は負けた気持ちになった。

 

「……続き開けるぞ」


 一颯は強引に話すを逸らすために、アルバムを開く。

 するとそこにはプールの写真が。


 構図は運動会と同様で……一颯に抱き着く愛梨と、恥ずかしがる一颯がいる。


「やっぱり照れ屋」

「うるさい」


 そんなやり取りをしながら、アルバムを眺めていく。

 こうしてみると……二人で一緒に写る写真が多い。


 もちろん、一颯単独の物や家族写真、他の友人との写真もあるが……

 圧倒的に愛梨との写真が多かった。


「何か、既視感あると思ったら……うちにあるアルバムと、内容殆ど同じじゃない」


 そう言って愛梨は肩を竦めた。


「習い事も一緒だったしな」


 学校の行事で一緒になるのはもちろんだが……

 ピアノ、水泳、空手など、習い事も一緒だったし、スケジュールも被るから遊ぶに行くのも一緒。


 これでは写真が被るのも当たり前だ。

 二人は常に一緒に写っている。


 とはいえ、中学に上がった頃から少し構図に変化が出始める。

 小学生の頃までは一緒に肩を組んだり、腕を絡ませたりという構図が多かったが……それが格段に減った。


 二人で並んで微笑んでいるだけ。

 そういう構図が増えていく。


「お前が慎みを覚えたのはこの辺りか?」

「別に……私は今も昔も、慎み深い乙女だけど? 一颯君が変に意識するようになっただけでしょう?」


 愛梨は女性らしくなり、一颯は男性らしくなった。

 そしてお互いに異性として意識することも増えた。


 それゆえの距離感だ。


「……」

「……」


 幼馴染は異性であり、そしてすでに次の生命を生み出すことができる体になっている。

 そんな当たり前の事実を再確認し、二人は少しだけ体を熱くさせる。


 そして幼馴染を相手にそのような情欲を抱いたことに、罪悪感と、そしてほんの少しの背徳的な官能を抱くのだった。



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