ひとりぼっちのセカイから

@nono626

第1話

「ぶんぶん、はろーゆーちゅーぶ!」


ー え、なに。急にどうしたの? ー


 突然だった。ビデオ通話に切り替えて突然のハイテンション。

…いや、ビデオ通話に切り替える前、今日は特別な用意があります!、って言っていた時点でそわそわしていた気もする。


「アハハ、すみません。ちょっとテンション上がっちゃいまして〜、今通話に使ってる機材もそれっぽいものだし」


ー 何かいつもと違うの? ー

それっぽいって何っぽい系?。


「いや明らかに違うじゃないですか!。今使ってる機材すっごい高価なものなんですよ!。学生の私たちじゃとても手が出ないような!」

うーん、確かに。そう言われるとイヤホンから聴こえる音はいつもより立体的に聴こえてゾワゾワするというか。なんというか凄い…、はっきりとは説明できないけれど明確にいつもとは何かが違う、質の高さというかそれっぽい感がした。


「し・か・も!、1人で会社に忍び込んで運び出して来たんですから!」


ー とは言ってもそっちでは誰にも見つかることはないでしょ? ー


「たしかにこっちのセカイは私以外は人っ子ひとりいないセカイですよ?」

「だけどですねぇ、んーなんて言ったらいいかなぁ。まるで…、そう!、まるでさっきまで何事もなく過ごしていた人類が突然姿消したみたいな感じなんですよね〜」

「飲みかけのコーヒーがそのまま机のうえに置きっぱなしになってたり、テレビがつけっぱなしのままなってたり」


ー テレビはつくの? ー


「んん?。…あー、テレビ電源はつくんですけど番組は何にも映らないんですよね〜。パソコンもスマホもネットに接続出来ないし。不思議と電気とか水道とかは機能してるみたいなんですけど。外部、先輩のいる普通のセカイとは完全に断絶しちゃってる感じですね」


ー でも、僕が拾ったスマホとは繋がってる ー


机の上に鎮座するスマホを見る

学校の帰り道、何気なく立ち寄った公園で拾ったスマホ。

警察に届けるか迷っていた際に突然鳴ったときは驚いたものだ。


「…そうですね。唯一の例外は先輩。先輩が拾ったスマホと、私がこっちのセカイで目覚めた時に持ってたスマホ。それが唯一のそっちのセカイとの通信手段ですね」


先ほどから僕も彼女もスマホスマホと言っているが果たして本当にスマホなのかも分からない。

いや、見た目は明らかにスマホとしか言いようがない形状をしている。

しかし、ろくにアプリも入ってないければネットにもつながらない。せいぜい出来る事は通話くらいだ。しかも、スマホに登録されている彼女とだけ。

そのうえ、何故かバッテリーはけっして切れることがないファンタジーな代物だ。


「ほんと、なんなんでしょうね。誰が何のためにこんな事をしたのか、どうして私と先輩が選ばれたのか。私たち特に繋がりもない、なんならこうなってから初めて先輩が同じ学校の上級生だって知ったくらいだし」


実は僕の方は彼女のことを一応知っていた。

4月、めちゃくちゃ可愛い娘が入学してきたということで騒ぎになっていたからだ。

友達にのせられて僕も彼女のいる教室を覗きにいったが噂にたがわぬ可愛さだった。

その時はこう思ったものだ。ああ、僕みたいな地味な奴がこんな娘と関わり合いになるなんて一生ないんだろうなと。

そう彼女と僕は住む世界が違った。僕は特にとりえもない地味でリアルな一般学生。それに対して彼女は物語に出てきそうな美少女。

それこそこういう不思議な事に巻き込まれても不思議ではないほどの。


ー 本当に心当たりはないの?。実は超能力があったり、ウサギ型の生物と魔法少女の契約をかわしたりしてない? ー


「…いやいや、何もないですってば。漫画の読みすぎですよ。私はちょっと可愛いのが取り柄なくらいな普通の女子中学生ですよ?」


彼女は照れことなくちょっとドヤ顔ぎみでそう言ってのけた。

クスリと笑いがこぼれる。

臆面もなくそう言える彼女が可愛らしく、微笑ましくもあり、羨ましくもあった。


「あ〜、先輩今笑いましたね?。なんですか?、まさか先輩可愛くないって思ってるんですか?。ほら、よーくみてくださいよ。360°どうみても可愛いでしょ」


彼女は椅子に座りながらクルクルと回った。彼女の亜麻色の髪がふわりと舞う。長い髪に邪魔されてかえって彼女の顔は見えなかったがそうやってはしゃぐ彼女は可愛かった。

「ほら、ほらどうなんですか?。可愛いでしょ。可愛いって言いなさい!」


ー うん、可愛いよ ー


彼女はどうも褒めてもらいたがるというか、かまってもらいたがるというか、そういう傾向がある。彼女の親や友達の話を聞くに愛情に飢えているような気がする。特に今はひとりぼっちのセカイで暮らしているのだ。そういったものに飢えるのも当然のことかもしれない。



「えへへ、よろしい!。…あーえー、それでなんでしたっけ?。あーそうそう、誰が何のためにって話ですよね。うーん、まあ考えたって埒が明かないですけどねえ。あまりにも突拍子がなさすぎるというかファンタジーすぎるというか。先輩じゃないですけどそれこそ漫画の世界の話ですもんね~」


彼女の言う通り今の状況はあまりに突拍子がなく非現実的だ。理屈や道理を求めるのは無意味なように思える。しかし、今の状況はそれでいて恣意的だ。彼女のいるあちらのセカイは他者と隔絶されているにもかかわらず、水道や電気、食事など生活に必要なものは完備されている。

どう考えても自然偶発的なものではなく誰かの意図が介入しているとしか思えないあまりにも都合の良い状況だ。

特にこのスマホ。

机に置かれたスマホを撫でる。

僕にしか扱えないスマホだ。

一度親に相談したことがあるのだが、どうやら僕以外には彼女の声は聴こえなく電源がついているようにもみえないようだ。

…なんだがそれだけ聞くと僕の頭がおかしくなったのかと思える状況だ。実は彼女の声も映像も全て僕の妄想なのでは?

いや、ポジティブに考えよう。今の状況が全て僕の妄想だと言うならば僕はとんでもない想像力の持ち主ということだ。もしそうだったならば将来小説家になろう、うん。

…恐ろしく思考が脱線してしまったがとにもかくにも今の状況は何ならかの意図を感じざる負えない状況だ。そうであれば考える糸口はある。

それを伝えようと顔を上げると彼女がニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「私のこと放置してずいぶん長いこと考え込んでましたね~」


ー あー、ごめん ー


僕の悪い癖が出てしまっていたようだ。

友達と話していてもつい考え込んでしまって、いや急に黙るなよ、とよく怒られる。


「まあ、考えてるときの先輩の顔嫌いじゃないですけどねー。ほら、先輩の何にも考えてなさそうなアホっぽい顔でも少しは賢そうにみえますから」


珍しく褒められてる!

いや、限りなく馬鹿にしているように聞こえるが尊敬のソの字もない彼女の場合はこれは間違いなく褒めているのだ。


ーえ、そ、そう?。賢く見える? ー


調子に乗ってキメ顔で考える人のポーズを決めてみた。



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