第11話
「ど、どういうことなんだ……。何故、勝てぬ……」
老人は困惑しているようだった。
「さあな……。俺にも分からないよ……。ただ一つ言えることは、あんたの負けだということだけだ……」
俺は冷たく言い放つ。
「そんなはずはない……。私はまだ負けたわけではない!」
老人は再び立ち上がってきた。しかし、その足取りはかなりおぼつかないものだった。
「もういい……。終わりにしよう……」
俺は老人に近寄ると、胸に手を当てた。そして、一気に魔力を込める。
「うぉぉぉぉ!!」
老人は叫び声を上げるが、もはや抵抗する力は残っていなかったようだ。
「くそっ……」
そのまま気絶してしまった。
「終わったか……。それにしても、とんでもない相手だったな……」
俺は一息つくと、呟いた。
「ええ……。でも、あなたのおかげで勝つことができました……。本当にありがとうございます……」
ルミアは深々と頭を下げてきた。
「そ、そんなかしこまらなくていいから……。それより早くこの老人を縛ろうぜ」
俺は照れ臭くなり、話題を変えた。
「はい……。分かりました」
ルミアは笑顔で応じると、ロープを取り出し、老人の体を縛り始めた。
「これでよし……。後はこの人をどこか安全な場所に運んでおきましょう」
ルミアはそう提案してくる。
「そうだな……。それが一番だろうな……」
俺は同意すると、老人を背負い上げた。
「では、行きますよ……」
「ああ……」
俺達は街へと向かって歩き出したのであった。
「んっ……。ここは一体どこなのだ?」
老人は目覚めると辺りを見回した。
「目が覚めたみたいですね……」
ルミアは微笑むと話しかける。
「お前さんは確か……、あの時の娘ではないか……。どうしてここにいるのだ?」
老人は不思議そうにしている。
「実は私が助けを呼んだんですよ」
「なに?本当なのか?」
「はい……。あなたのことを街の人達に伝えに行ったんです」
「そうだったのか……」
老人は納得したように言った。
(あれから三日くらいしか経ってないけど、もう随分昔のことに感じるな……。それだけ色々あったということなんだろうか?)
俺はふと思った。「それで、そちらの男は誰だ?見覚えがないのだが……」
老人はこちらを見ると、尋ねてきた。
「ああ……。彼は私の命の恩人ですよ。名前はポラリクと言います。ほら、前に話したでしょう?森でゴブリンに襲われているところを彼が救ってくれたって……」
ルミアは丁寧に説明してくれた。
「おお!そういうことだったのか……。私はてっきり……」
「てっきり?」
ルミアは首を傾げた。
「いや、なんでもない……。それよりも、今はどうなっているのだ?まさか、またあの男と戦わなければならぬというわけではあるまいな?」
老人は不安げに尋ねた。
「安心してください。あの人は今、眠っています。ですが、いつ起きるか分からない状態なので、油断はできませんけどね……」
「そうか……。ならば、良かった……」
老人は安堵した様子を見せた。「あの……。お聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
俺は気になっていたことを聞いてみることにした。
「なんだね?」
「どうして、こんなところで暮らしていたんですか?」
「それはだな……。元々はここに住んでいたわけではなく、とある場所にいたんだ。だが、そこを追われる形となり、仕方なくここで暮らすようになったというわけだ……」
「追われたとは、いったいどういうことなのでしょうか?」
ルミアは心配そうな顔をして尋ねる。
「そうだな……。あまり詳しくは言えないが、私にはどうしても成し遂げたいことがあったのだ……。そのために、どうしてもあの場所を離れなければならなかった」
「そうなのですか……。それはどんな目的なんですか?」
「それを聞くのはあまり良くないと思うぞ……」
老人は厳しい表情をした。
「確かにその通りかもしれません……。でも、私も彼には助けられました……。だから、少しでも力になりたいと思っているんです!」
ルミアは真剣な眼差しで訴える。
「そこまで言うなら仕方があるまい……。実はな……」
老人は観念すると、ゆっくりと語り始めた。
「なるほど……。それはとても難しい問題ですね……」
ルミアは考え込むような仕草を見せる。
「うむ……。それに今の我々だけでは、とても実現は不可能だろうな……」
老人はため息をつく。
「何か解決策はないのかな……」
俺は呟いた。
「一つだけ方法があるとすれば、勇者様の力を借りることじゃろうな……」
「勇者って、魔王を倒したっていう伝説の?」
俺は驚いて尋ねた。
「ああ……。そのとおりだ。彼の力が借りることができれば、あるいは可能かもしれない……」
「しかし、勇者様は現在、行方不明だと聞いていますが……」
ルミアは困惑しているようだった。
「うむ……。そのはずだが、ひょっとしたら、この近くにいる可能性もある。試しに呼んでみる価値はあるんじゃないか?」
「そ、そんなことができるんですか!?」
ルミアは目を丸くする。
「まあな……。昔はたまに使っていたものだ。といっても、私一人ではできないから、誰かに協力してもらう必要があるが……」
「そうですか……。分かりました。では、お願いします」
ルミアは頭を下げる。
「分かった……」
老人はそう答えると、呪文を唱え始めた。そして、しばらくすると、空から光の柱が現れた。
「これは一体……!」
俺は驚きの声を上げた。
「これが勇者召喚の魔法だよ。これで、勇者様を呼び出すのだ」
老人は誇らしげに言った。
「す、凄いですね……。これって、あなたにしか使えない技なのですか?」
俺は恐る恐る質問をする。
「いや、そんなことはないよ。ただ、使える者は限られてはくるな……。少なくとも私はこの魔法以外を使うことはできないだろうし……」
「そうなのですね……」
「さて……。そろそろいいか……。準備ができたようだぞ……」
老人はそう言って、指差した。
「えっ?」
俺達は同時に上を見上げる。すると、そこには剣を持った少女の姿があった。
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