第10話
「ええ……。でも、あなたには効かないでしょうけど……」
彼女は挑発するように言った。
「どうかな?試してみるがいい……」
老人は余裕の表情だった。
「では、遠慮なく行かせてもらいます!」
ルミアは老人に向かっていった。そして、激しい攻防が始まった。
(すげぇ……。まるで踊っているみたいだ……)
俺はその光景に見入ってしまった。
「くっ……。なんて強さなんだ……」
俺は思わず呟いた。
「すごい……。これが上級冒険者の戦い……」
ルミアも同じ感想を抱いたようだった。
(こうなったら……。あれを使うしかないか……)
俺はそう決意すると、呪文を唱えた。
「ダークネス・スフィア!」
黒い球体が出現し、それが一直線に飛んでいく。しかし、老人に当たることはなかった。
「残念……。外れだ……」
老人は不敵な笑みを浮かべながら言った。
「くそっ……。どうして当たらないんだ?」
俺は悔しさに歯噛みする。
「ふふ……。今のが本命じゃないだろう?」
老人は見透かしたような口調で言った。
「ちっ……。ばれてたか……。だったら、これならどうだ!アブソリュートゼロ!」
今度は氷系最強の魔法を放つ。しかし、これも老人には届かなかった。
「ふっ……」
老人は不敵な笑みを浮かべると、俺に向かって剣を振ってきた。
「くっ……」
俺はギリギリのところでそれをかわすと、距離をとった。
(まずいな……。このままじゃ勝てないぞ……)
俺は焦りを覚えていた。
(考えろ……。何か策があるはずだ……)
俺は頭をフル回転させる。すると、あることを思い出した。
(待てよ……。確かあいつはさっき俺のことを『契約者の器』とか呼んでいたな……)
俺は自分の手を見つめた。
(もしかすると、この指輪が関係しているんじゃないだろうか?)
俺は左手の中指にはめている指輪を見つめた。
(確かめる価値はあるかもしれないな……)
俺はそう思うと、再び老人と対峙した。
「どうやらまだ諦めていないようだな……。それでこそ倒しがいがあるというものだ……」
老人は嬉しそうだった。
「当たり前だ……。こんなところで終わるわけにはいかないからな……」
俺は強気な態度で言い放った。
「そうか……。ならば、全力を出させてもらおう!はああああっ!」
老人は叫ぶと、今までよりも速い動きで攻撃を仕掛けてきた。
「ぐはっ!」
俺は防ぎきれずにダメージを受けてしまう。
「大丈夫ですか!?」
ルミアは心配そうに駆け寄ってくると、回復魔法をかけてくれた。傷口が塞がり、痛みも消えていく。
「ありがとう……」
俺は礼を言うと、立ち上がった。
「まさか……。もう回復したのか?」
老人は驚いている様子だった。
「ああ……。おかげさまでね……。だけど、そっちこそ大丈夫なのか?だいぶ疲れてるように見えるけど……」
俺は皮肉を込めて言った。
「ふん……。このくらい大したことではないわ……」
老人はそう言うと、さらに激しく攻撃を仕掛けてきた。
「くっ……」
俺はなんとか攻撃を捌いていった。だが、徐々に追い込まれていってしまう。
(くそ……。やっぱり、あの指輪の力に頼るしかないか……)
俺は覚悟を決めると、右手を前に突き出した。
「な、何をするつもりだ!?」
老人は警戒するような目つきでこちらを見た。
「あんたが教えてくれたんじゃないか……。これは切り札だって……」
俺はニヤリと笑う。
「ま、まさか……。貴様!」
老人の顔色が一変した。
「そうだ……。そのまさかだよ!」
俺は指輪に魔力を流し込んだ。すると、体がどんどん熱くなっていくのを感じた。やがて、体中に力が溢れてくるのを感じる。
「こ、これが……。伝説の力だというのか……」
老人は動揺していた。
「へぇ……。これがそうなんだな……」
俺は感心しながら呟いた。
「な、なんということだ……。だが、いくら力を解放したところで、所詮は人間に過ぎないのだ!」
老人は叫ぶと、攻撃してきた。だが、俺は難なくそれを避けると、逆に反撃した。それは見事にヒットする。
「ば、馬鹿な……。何故だ!?」
老人は信じられないという表情をしていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は渾身の力で拳を振り下ろした。
ドゴッ!鈍い音が響く。
「ぐはっ……」
老人はそのまま地面に叩きつけられた。
「やった!」
ルミアは歓声を上げた。
「まだ終わってないぞ!」
俺は叫んだ。
「なんですって?」
彼女は目を丸くすると、老人の方を見る。そこには確かに起き上がろうとする老人の姿があった。しかし、その顔からは戦意は完全に失われていた。
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