第32話
私、先程、学校の成績は良い方だったって申し上げましたけれど、…確かに平均して見れば成績は上位の方でしたし、それに、自分でもそれなりに努力していたつもりですけれど、でも、教科ごとの得手不得手はどうしても…。国語、特に古文や漢文は、それこそ、テストの前日に軽くノートを捲って、テストの出題範囲と、いわゆる「テストに出すぞ」って言われた箇所を確認するくらいで何とか、…ええ、普通にクラス一位、学年でも上位成績で、廊下に張り出されるくらいで、…あの、これ、繰り返しますけれど、私にとってはごく当たり前のことで、…例えば、鷺が亀に「貴方は何故空が飛べるんですか?」って訊かれるようなもので…。鷺の方からしてみれば、亀が、それこそ普通に、地面すれすれのところを小回り良く、上の塞がった溝の中でもどんどん進んで行ける特性を持っているっていう方が、余程驚異に思えるようなものなので…。いえ、自分を鷺に例えたのは、…例えば、燕みたいな機動性は自分には似つかわしくないって思いましたし、それに、単なる個人的なイメージですけれど、鷺って、ただ飛べるだけで、あんまり器用そうじゃないな、って…。ええ、私、本当に不器用です。別に、昔のCMのコピーを真似するつもりじゃないですけれど。…すみません、また何だか、話が妙な方向に…。
ええと、…つまり、国語、特に古文の成績に比べると、理数系教科、特に数学は、はっきり言って不得手科目でして、自分は頑張ってるつもりでも、どうも…っていう感じで…。で、また、国語の成績がそういう、他の人の目にも入る状態なので、余計に、…「国語の成績はそれだけ良いんだから、数学も、本気で頑張ればもっと出来るはず」って…。英語も、私、普通にそれなりの点数で、ちょっと運が良ければ廊下にっていう辺りだったので、「主要三教科の内で、数学だけ出来ないのは…」っていう、…数学も、別にそこまで酷い点数を取ってた訳じゃないんですけれど、何て言うか…「妙な具合に出来ない奴」として、変に目を着けられたような状態だった訳です。
これは私の勝手な想像ですけれど、一番の本音の部分では、「元々の頭の素地は悪くないらしい上に、数学は他でもない自分が教えているのに、何故その数学だけがこんな成績なのか…」って思われてたんじゃないか、って…。勝手な想像、って言いましたけれど、実際、テストを返す時なんかに、そういうことを仄めかして言われた覚えもありますし。確かに、押谷教職員が数学を担当していたクラスは、数学の成績が全体値としては伸びていたらしいので、その中で、他の教科の成績は悪くないのに、一人「伸び悩み」状態の私は、…特に返り咲きを狙う教科担任にとっては、はっきり言って目障りな存在だったんじゃないかって思います。で、対するこちら側も、当の教科担任の、そういう思惑がどことなく透けて見えるので、何とはなしにですけれど、内心反発を覚えて、一層数学っていう教科に対しての張り合いが失せる、っていう…。
……そうですね、これ、完全な悪循環の構図です。
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