第18話
約御一名様による盛大な拍手、誠にありがとうございます。…うふふ、お分かり頂けます?
…良かった。やっぱりこういうの、分かって頂けないと、ただ恥ずかしいばかりじゃなくて、悲しく…って言うより、虚しくなりますから。
あの人、…ええ、その、例のあの人です。あの人ね、こういう、落語を始めとする寄席演芸は分かるらしいんですけれど、古典文学やら、それから歌舞伎とか、寄席演芸以外の、いわゆる伝統芸能全般、全く興味ない人で…。「ねぶとうなる」なんて言うんですよ。あの人、京都の出身なのに…。
あ、出身地なんか、あまり関係ありませんね。単純に、個人の資質の問題ですね…。とにかく、その時ばかりは、っていう訳でもありませんけれど、私、がっかりしちゃいました。
ええ、ぜひ勉強して好きになってくれ、なんて言うつもりは、端から、毛頭ありませんでした。そりゃ確かに、自分の好きなものが、相手も好きで、一緒に楽しめたら素敵だろうな、とは思いますけれど、…でも、いちいちそういうの、相手と擦り合わせようなんて思ったら、その間に人間一人分の一生なんかあっさり終わっちゃいますよ。
それよりは、相手の好きなものと、自分の好きなもの、互いに尊重し合って、それぞれ、お互いの好きなものの領域には必要以上に干渉しない…って、そういう風に決めて置く方が、よっぽど建設的だと思いますけれど…。
伍代さんもそう思われます?良かった。
あの、…大変失礼な質問ですけれど、伍代さん、ご結婚は…?
あ、そうなんですね?そうか、…伍代さんの旦那様って、どんな方なんだろう…。きっと格好良い、素敵な方なんでしょうね?
…ええ!?…仕事中はともかく、家じゃトドみたい、って…。随分な仰り様ですね。…事実って…。きっと旦那様、今頃くしゃみなさっておいでですよ?
ええ、私、大好きなんです。寄席も歌舞伎も。
…正確には、大好きだった、なのかな。
あのね、私が、歌舞伎や寄席を好きになったの、多分予想はついておいでだと思いますけれど、祖母の影響なんです。
だから、なのかな。…祖母が亡くなってから、歌舞伎も、寄席演芸も、一切観たくなくなってしまいました。
…ええ、これも、担当の先生にはお話ししています。
どんなに面白そうな演目が上演されていても、どんなに贔屓だった役者さんや芸人さんが出ていても、劇場や寄席に足を運ぶどころか、テレビやラジオで放送していても視聴したくない、…って言うより、視聴する気が起きないんです。
…まあ、一生このままって決まった訳ではないでしょうし、昔の歌の文句じゃないですけれど、そのうち何とかなるだろう、とは思っていますけれども。
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