第17話

それはともかく、持参の水なんて…。あ、そうですよね。こういうところって、それでご商売されているんですもんね…。

ええと、それじゃ私、後で自分の分はお支払いしますから、また何か飲み物、お願いしても構いませんか?あと、何かちょっとつまめるものも。

…ええ、いえ、一応、腹拵えはしたんですけれど、私、あれから、…あの事件以来、一回一回の食事、それほど食べられなくて…。ええ、病院の先生には、このことも。でも、お腹は減るので、ちょこちょこつまむしかないんです。変でしょう?

…そうですか?ありがとうございます。

あ、ありがとうございます。…ええと、サンドイッチなんてありますか?…ええ、本当に、簡単につまめるものが良いんです。

よろしければ、伍代さんもご一緒にいかがですか?一人で頂くのは気詰まりですし、…それに、本当にあまり入らないんです。昔は祖母に「あんたは痩せの大食いだね」って言われていたくらいなのに…。……すみません、本当に何度も…。ええ…ええ、大丈夫です…。

……あ、注文、お願いします。ええと、…このミックスサンドを。あと、飲み物ですね。…オレンジジュースと、あと、一緒にお冷やを、…伍代さんもお冷や、頼まれます?

じゃ、お冷や二つ。オレンジジュースは氷抜きでお願いします。


……すみません。人心地つきました。

ええ、ご覧の通り、本当に入らないんです。食べ散らかすみたいで、非常に申し訳ないんですけれど。…あの、私、ゆっくり頂きますので、本当にもしよろしければ、伍代さんも手を伸ばして下さいね。どうぞご遠慮なさらず。

あと、代金、ちゃんとお支払いしますね。

…え、経費、ですか?

そういうのは、その、…ちゃんと採算が取れる場合だけでしょう?…え、そうなんですか?本当にそういうものなんですか?

いいんですか?…私、このまま、すっかりご馳走になってしまいますよ…?

本当に大丈夫なんですね?…私の話…?…本当に、本当にそれでいいんですね?

何だか、自分の話を聞いて頂ける上に、ご馳走にまでなれるだなんて、話が旨過ぎるような気がしますけれど…。

分かりました。伍代さんはお大尽で、私は芸人なんだと思うことにします。芸人ったって、せいぜい前座身分が良いところですけれど。立て板に水どころか、横板に餅の、拙い芸ではございますけれども、精一杯相務めさせて頂きます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る