第16話

…冷静、ですか?いえ、咄嗟のことでしたから…。でも、そうですね。もしかしたら私、祖母の体が弱ってきた頃から、無意識のうちに、いつか、そう遠くない未来に、こんなことが起こるんじゃないか、って、想像して、起こった時にはどうすれば良いか、何度も繰り返しシミュレーションしていたのかも…。

やっぱり私、意気地なしです。そんなことぐだぐだ考えている間に、それこそお祖母ちゃんの首根っ子掴んで、お祖母ちゃんがいくら嫌がろうが、力ずくでも病院に連れて行けば良かったんです!そしたらお祖母ちゃん、今でも生きててくれてたかも知れなかった!手は掛かるかも知れないけれど、私の目の前で、にこにこ笑ってくれて、私のこと、「葵は本当に良い子だね」って…。

……本当に、…何度もごめんなさい…。本当に、今日、私、変なんです…。もしかしたら、随分久し振りに、こうやって、自分の話を聞いて頂けて、その、…いつもより少し、気が高ぶっているのかも知れません。

…大丈夫でしょうか?…いえ、私がじゃなくて、伍代さんが。

あの、ちゃんと取材になっていますか?……大丈夫、ですか?…え、もっと酷い状態の人って…。それって、…一体、どんな感じなんですか…?

…いえ、ライターさんも、その、守秘義務、ですか?そういう類いの約束は、取材される側の方とされるんでしょうけれど…。まあ、正直、半分以上、怖いもの見たさですけれど。

…え、取材の途中からひたすら泣きっぱなしで、時々間欠泉みたいに叫んでいた、って…。その方には失礼ですけれど、良く伍代さんご無事で…。あ、そういう訳ではなかったんですね、むしろ積極的に取材に応じて下さる方だったんだ。良かった…。

じゃあ、私みたいなのは、まだ扱いやすい部類に入るんですね?…良かったです。ちょっとだけ安心しました。


……ふうぅ…。……すみません、せっかくのジンジャエール、温くして炭酸飛ばした上に一気飲みしたりして…。

あはは、そうですね、…それは、自分が飲むために注文したんですけれど…。

あの、私、本当に物知らずで申し訳ないんですけれど、…こういうところって、持参のペットボトルの水とか、飲んで良いものなんでしょうか?

ええ、一応、持って歩いてるんです。あの事件の最中、水もろくろく飲まないで歩き回って、それでまた酷い目に遭いましたから…。買い物、宅配でお願いする度に、数本単位で注文して、こまめに補充しています。…あ、やっぱり、ケースでお願いした方が、単価考えるなら安上がりですか?重たそうだから、ケースで持って来て頂くの、気が引けて。

え、…あ、そうですね。確かにネット通販なんかでも日用品、洗剤やらなんやら、重たそうなもの、扱ってますもんね。そうか、そういうふうに考えれば良いんだ。そうですよね…。

ええ、確かに、うち、スペースの問題はないんです。…そうですね、後は気分の問題、ですね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る