第6話

マンションの方はって言うと、購入資金の大方は祖母が出していて、名義は祖母と母の共同だったんです。母は、祖母の一人娘で、父は昔でいうところの入り婿、いわゆる「マスオさん」の、そのまた一歩進んだ状態、母と結婚した段階で、自分の名字も変えることになった人でしたから。……ええ、母と離婚した時点で旧姓に戻って、その名前で新しい家庭を…。ですから、その協議なり裁判なりで出た決定は、妥当と言うか、当然のものだったのでしょう。それにそもそも、そんなところで新しい生活を送るなんて、父はともかく、父の再婚相手が嫌がったでしょうから。

それはともかく、父が家から出て行った後、母の再婚は、当時まだ六ヶ月だった再婚禁止期間の後で改めて、ということになりました。同居も、少なくとも私の小学校二年の学年が終わるまでという条件の下で、私は母と二人で暮らしていたんです。

そこへ、休みのたびに母の再婚相手がやってくるわけです。あちらには、もしかしたら、私と親睦を深めようと言う考えもあったにはあったかも知れませんけれど、私から見れば、まだ頑是ない子供の自分なりに精一杯愛している、唯一無二の自分の母の元に、…嫌な言い方をすれば、「しけこむ」とでも言うのでしょうか?小学校低学年の娘からすれば、その、母の再婚相手は、私の最愛の母を誑かして、父と母と、それにほんの子供とは言っても、他でもないこの自分とで、一生懸命築いてきた家庭を、家族を、あっさりと破壊した上に、私の父の座に勝手に居座って、私から母の愛情を取り上げた当の相手にしか見えませんでした。

……そうですね、今思うと、まるっきり小型版の『ハムレット』です。それで思い出しましたけれど、また母が、…恋をしている女性なら当然のことなのかも知れませんが、父が出て行ってからは、ハムレット王の死後、王弟クローディアスに求婚されてからの王妃ガードルードじゃありませんけれど、何だか、…大っぴらにと言うか、子供の私の目にもはっきり分かるくらいに、あからさまにそわそわし始めていて、家にいる間も、あまり私のことは構わなくなりました。私がたまに甘ったれてみせても、態度が何だか上の空で…。もしかしたら、自分は父に続いて母にも見捨てられるんじゃないか…っていう、恐怖にも似た暗い感情に囚われて、夜中、自室の布団の中で、何度も一人で涙ぐんだ記憶があります。

とにかく、そんな相手ですから、私としては出来る限り顔を合わせたくなんてありません。でも、…まあ、昼間は学校の図書室なんかで時間を潰すわけですけれど、日が暮れたら帰らなきゃいけない…。また、季節は冬で、日が暮れるのが早いんです。薄暗くなった帰り道をたどりながら、子供心にも情けなくなったのを覚えています。

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