アナザー2-4 「ベッドの上のダイレクトおっぱい」
ふと気がつくと俺はベッドの上で柔らかいモノに包まれていた。いや、包まれていた、じゃないな。挟まれていた、と言った方が状況的には正しい。
なにがどうなってかはわからない。そもそもいつベッドに入ったのかさえ、記憶にない。
ともかく、右腕を下にして横になった状態の俺の顔を上と下から挟み込むようにして圧がかけられてる。
結構な圧がかかってるはずなのに不思議と痛みはない。むしろ風邪を引いたときに使う水枕のようにふよふよと、けれども水枕よりも反発力がある感触が伝わってきてずっとこのままでいたいくらい居心地がいい。
頭を動かしてると、たまに耳のフチで少し硬いなにかが当たる感触が若干気にはなるけど、おそらくそれが何かってのは気にしたら負けな気がする。なんせサワッと軽く触れたかもわからないようなときでさえ、普通に話してたときより僅かに上擦った声が漏れて来るのだ。視界が塞がれてほかの感覚が敏感になってる今、そんな声を意識し出したら理性が壊れそうだ。つまり、コイツの思うツボ。断じて負けるわけにはいかない。
何度目かもわからなくなったが、起きてるか確認するために由香の脇腹のあたりを突っついてみる。
「んっ!」
ふに、と柔らかい脇腹に指が当たるとピクッと反応した。
が、それだけ。
すぅー……すぅー……と小さい寝息が頭の上を通り抜けていく。
「一緒に寝る、ってそのまんまの意味かよ。まったく」
「んふ〜」
寝言で返事。呆れるくらいに呑気なものだ。
俺の脚に絡まった由香の脚がすりすりと俺の脚を撫でてくる。
創司のヤツはこれが日替わり、か。
ハーレムが羨ましいと思ったことは1度や2度じゃないが、こうしてみると固定できないってのは、それはそれでデメリットもあるんだな、と思う。まあ、アイツはスカートの中で寝るってのができれば案外誰でもいいのかもしんないけど。
右腕が痺れてきた感覚がして少し身体の位置を変える。ピッタリくっつく由香と俺との間にほんの少しだけ隙間が空いて冷たい空気が入り込んでくる。けど、それも一瞬。すぐに由香がくっついてきた。
一緒に寝る、ってだけだけど、案外ゲームと現実は違うところは見つかるもので。あれこれやってみてわかったのは、結構腕が邪魔になるってこと。身体の下に通してるイラストとかあるけど、実際に通してみると、これが思ったより重い。逆に首の下に通すのであればそこまでじゃないけど、頭を抱き抱えるようになる。つまり、今の俺状態。立ってるなら楽なことも寝っ転がると随分勝手が違う。
ちなみに、この状態。抱きしめるようにするより、お尻の方に手を伸ばした方がラクまである。
ということで、手を由香のお尻に置いてみる。
いや、言い方がアレだな。お尻の方に手を伸ばしたら本当にお尻を触ってしまった。
「ん……?」
触ってみて気づいたけど、何かがおかしい。
顔を上げて由香が着てるものを確認してみる。
「このまま寝るのは無理」
って言って着替えた由香が着てるのは、下に降りて調達してきた俺のサイズに合わせたシルクのシャツ。これ1枚で最大紙幣が5人分のシロモノだけど、由香は迷いなく黒いカードを出して一括決済。
金持ちの行動力やべえ、と思った瞬間だった。
閑話休題。
そんなわけで由香が着てるのはシャツが1枚。ブラは……たしか「締め付けが〜」とか言って着る前に取ってた。つまり、俺の顔が挟まってるこれはシャツ1枚越しのダイレクトおっぱいである。片方2キロ。掬い上げるようにして持っても手に余った俺の感想は「すげえ……」という感嘆の一言だけだった。
「男子ってみんなそう言うんだよね〜」
と笑われたけど、あの重量と質感にはそれしか出てこなかったんだから大目に見てほしい、と思う。
で、本題の下なんだが……。俺自身は由香が着替えるシーンを直接見ていない。
一応、履いてるかどうかは聞いたけど、「童貞クンの想像と妄想と希望にお任せします」だと。ふた昔前の芸能人かよ。
ただ触ってみてるけど、下着の感触がまったくない。ヒモだろうとTだろうと、履いてればなにかしらの感触があるはずだけど、その感触がまったくない。そうなると1つの推測に辿り着くしかない。
――まさか……履いてない?
一気に俺の中で何かスイッチが入ったような、なんとも表現できない感情が湧き上がってくるのを感じた。
気になる。けど、動けない。
動かせるのは手だけ。それも腰からお尻にかけてだけでそれ以上は侵入できる余地はない。しかも、その手もお尻の感触の良さに貼り付いていて、剥がせそうにない。
顔はダイレクトおっぱい、手はダイレクト(?)お尻。
どっちがいい?と聞かれれば、俺は間違いなくダイレクトおっぱいをとる。
この感触。挟まれてしかも枕にできてるんだぞ。どこかの南の島にいるジジイが挟まれて貧血になったアレとは格が違う。
……いや、お尻も……悪くない、か?
ダイレクトおっぱいとは感触が違うけど、こっちはこっちでおっぱいとは別の吸い付くような手触り。これはこれで捨てがたい。
「ううむ……」
思わず声が出るレベルで悩ましい。
というか、由香のヤツ、こんなにあっちこっち触ってるのによく起きないな。俺だったらもう目ェ覚めてるぞ。
「童貞だからって試してるな……?」
反応なし。
って言っても、相手はホストを手玉に取って投げ捨てた百戦錬磨の経験者。俺ごときのテクニックでヒイヒイ言わせることなんてできるわけがない。いや、仮にできたとしても、上には上がいる。
そうだ。落ち着け。ビークール。ステイクール。
深呼吸をして落ち着こう。
すぅ〜……はぁ〜……
谷間の中に籠る甘い由香の匂いを纏った空気を吸い込んで吐き出す。
こう表現すると変態じみてるような気がしなくもないけど、状況が状況だ。仕方ない。
っていうか、いい加減この状況から抜け出したいんだけど。
ずっとダイレクトおっぱいに挟まれてるから暑くなってきた。
「由香?そろそろ離してほしいんだけど」
「……」
反応なし。
試しに抜けようとしてみる。が、馬鹿力の前に非力な俺は脱出できず。
くすぐりは効かないんだよなぁ。
――と、俺が絡み合った足を動かしたときだった。
「んんっ!?」
一際大きい由香の声が部屋に響いた。
ほんの一瞬、由香の身体に力が入ったのを感じたけど、由香の腕の拘束が解けた。
この一瞬を逃さず起き上がった俺に由香が甘い声で一言。
「……は、はんそくぅ」
「どこがだよ」
っていうか、やっぱり起きてた。
「あ、あんな焦らし、されたことなっ……いんだけど……」
はぁ……はぁ……と小さく息をする由香。
「知らんわ。って言うかいつから起きてた?」
「ん〜ほとんど同じくらい?最初に逃げ出そうとしたあたり」
由香の声を聞きながら時計に目を向ける。午後4時。昼寝というにはだいぶ寝過ぎだった。
「はぁ……ふぅ……で、どうだった?一緒に寝てみて」
「思ったより思ったとおりにいかないモンだな」
「でしょ」
自分でも雑な感想だな、と思ったけど、由香にはそれで伝わったらしい。
「あ〜……よく寝た!すっご!めっちゃスッキリしてんだけど!」
ベッドの上で伸びをした由香は窓の方に向かっていった。
「寝てないからとかじゃなくて?」
「そうじゃなくて!ここ最近で一番よく寝れた!!」
なんだかよくわからないけど、寝る前より声に勢いを感じる。
「それはそれは。よござんしたね」
「いや、ホント。マジでよかった!めっちゃスッキリしてる!お礼にちゃんとモテる男にしてあげるわ!」
由香はその大きな胸を張ってドンっと強く叩いた。
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