アナザー2-2 「初対面から4時間後。これが?」
「ふぉおおおお!!!ヤバい!!!メッチャある!メッチャあるぅぅ!!!」
ところ変わって俺の部屋。
創司の超が付くほど雑でテキトーな紹介からなぜか俺の部屋に移動して由香が上げた声がコレである。
なんか即堕ち2コマみたいなアレだけど、大丈夫。まだ健全。
「わ。ドグマとかあんじゃん!マジ!?うお!?カフェテラも!?ヤイバもあんじゃん!ヤバー!」
……この人、ホントに穂波ちゃんと同い年か?
いや、深い意味はないんだけど、言動の尽くが大学生のそれに近い。それもタチが悪い陽キャ側。
「マジで漫喫できるヤツじゃん!やばー!マジで読んでいいの!?」
「あ、ああ。汚さなければ」
「っし!っしゃあ!!」
ガッツポーズするほど?っていうか、そんなデカい声出すと壁貫通すんだけど。
いや、ホント。どうしてこうなった?
俺はちゃんと思い出すため、ファミレスでの出来事を振り返ることにした。
「よろしくね?って言われても何をよろしくすればいいのかわからないんだけど」
ラノベやマンガで似たようなシーンは見たことあるが、現実でこの事態に遭遇するなんて誰が考えただろう?
「そこはまあ……いろいろだよ。いろいろ。あ、何か食べる?奢るよ」
「いや。さすがに会って早々奢られるってのは――」
なんて言ってる間に由香さんは注文用のタブレットを取って、トントントーンとタップしていく。
「ほい。とりあえずドリンクバーは頼んだから。ほかもどうぞ」
と見せてきたタブレットには、たしかにドリンクバーの文字が入っていた。
「いや、いらない……」
「ファミレスに来てなにも頼まないってヤバい人だと思うけど」
「……」
それはそう。その通りすぎてなにも言えなかった。とはいえ、別に所持金がないわけじゃない。
「割り勘とか考えなくていいよ」
「いや、でも――」
渋る俺の腕を由香さんが引っ張った。
「学生ごときでイキがってるクソ女どもと一緒にすんな。大丈夫。ホストに突っ込む分がまるまる浮いて使い道がなくなったカネだから」
「ホスト……?」
「あ……」
由香さんの顔が明らかに「余計なこと言っちまった」みたいな表情に変わった。
「ホスト行ってる人、ですかね?」
「や。行ってた。けど、もう足を洗った。ついさっきだけど」
「ついさっき?」
「もうどうでもいいかなって。思っちゃったらなんかホントにどうでも良くなっちゃった」
「ふうん」
無意識でゲロっちゃったせいか、ホントにどうでも良くなったのか、由香さんはここに来るまでの話をした。
「――ってなわけで、さっきもう行くのはやめたって決めた」
「そんだけ突っ込んだのに?」
「そんだけ突っ込んだからってのもある。まあ、突っ込まれたのも数えきれないほどあるけど、ぶっちゃけそんな気持ちいいものでもなかったし。っていうか、むしろヘッタクソでさぁ〜」
「ぶっちゃけすぎでは……?」
「いや、だって事実だし」
由香さんはクスっと笑った。
「いや、だって、聞いてよ。知ってるかわかんないけどさ。シテるときに声が出てんの、あれさ。されてる方は全然気持ちよくなってないからね」
「え……」
「人によるとは思うけど、少なくともわたしはそう。感じてる演技。そういう動画もそう。演技だよ。そういうね」
「ええ……」
知らなかった事実だけど、知りたくもなかった……。
「ま、そういうわけで、行くのやめたから。けど、行くのやめたらその分お金は余っちゃうんだよね。ってことで、キミは払わなくていいから」
「はあ……」
「って言ってもそれじゃあ、気が済まないってなら、わたしのお願いを聞いてもらおうかな」
ってなわけで、今の状況である。
「途中から読めなくなったがマンガが読みたいからって、そんなはしゃぐようなもの?読むなら電子書籍だってあるでしょ」
俺に背を向けてしゃがんだり立ったり、寝転んだり、いろんな体勢で本棚を物色してる由香に聞いてみた。
「って思うでしょ?わたしもそう思って買ったんだけどさ。な〜んか読まないんだよね――っと、あ!ヤバ!?マジか!?21巻!?そんなに出てんの!?」
いや、そんな毎回ビックリするようなものじゃないと思うんだけど。
ちなみに由香「さん」じゃなくて由香、と呼ぶようになったのは、本人からの希望。
「これから家に行く仲なんだからいいでしょ」
と、まったくもって意味がわからない理由だったけど、特に断る理由も、呼び捨てに抵抗もなかった俺はすぐに呼び方を変えた。
「よっし!じゃあ、この辺からにしようかな」
部屋に入って2時間。ようやっと読む本を決めたらしい。本棚の上の方から5冊を引っ張り出してテーブルの上に置いた。
「ガチで全然寝てないから落ちたら起こして」
「いや、だったら帰って寝ろよ」
なんで寝落ちしたヤツを起こさなきゃならんのだ。めんどくさい。
が、そんな俺の思いはあっさり否定されてしまった。
「だ〜め。穂波たちになにしたか教えるって言っちゃったもん。今日1日はちゃんと付き合ってもらうから」
お、横暴すぎる……。まだ知り合ってから4時間も経ってないのに、この図々しさはどこから来るんだ。
「っと。そうだ。その前に――」
そう言って由香が近づいてきた。
「なに?」
「お手洗い、どこ?」
「お手洗い?出て左のドアだけど」
「や。悪いんだけどさ。連れてってくんない?割とギリギリなもんで」
「……」
タハハ……と笑う由香に言葉が出ない。
だってここに来るまでの間でトイレに行くチャンスなんていくらでもあった。なのになんで我慢したのか。まるでわからない。
「えっと……もしかしてそういう趣味の方?」
なんと言っていいかわからないけど、とりあえずなんとなく距離を取っておく。
「ちっが……!んんっう!?」
否定の言葉より大きな声が部屋に響いた。
「む、ムリ!は、早く!!」
「え!?ムリ!?すぐそこだからもうちょっと我慢しろ!!」
「いいから連れてって!!」
下腹部を押さえる由香を引っ張ってトイレにぶち込んだ。
「はあ……」
いや、もうなんだかなぁ……。
流れはじめた水の音を聞きながら俺は壁に寄りかかる。
別に女子に幻想とかそういうのがあるわけなじゃない。
誰かを好きになるのだって当たり前にあることだし、キスもその先の経験だってしてるヤツがいるのだって当然だと思ってる。
ただ、いくらなんでもコレはないだろ……。いや、そういう趣味っていうならさもありなん、っていうのかもしれないけど、今のところないわ。ない。
俺と8つも上なのに、他人ん家でまさかのお漏らし
もう頭を抱えるしかない。
物音がしてガチャっと鍵が開く音が聞こえて、ドアが開いた。
「あ〜っぶなかったぁ〜」
切羽詰まった声だったのが、気の抜けた声に変わった。
「間に合った?」
「……一応?」
なんで疑問系?
「久しぶりにスカートでよかったと思ったわ……パンツだったらアウトだった」
「それはそれは」
――パンツ?下着でアウトっておかしくね?
と一瞬思ったけど、イントネーションがちょっと違ったから、パンツスタイルの方か、とすぐに思い直した。
「あ。言っとくけど、ガマン耐久もトイレ以外でするのも趣味じゃないから」
「そうですか」
説得力なんてかけらもないですけどね。
「信じてないでしょ」
「信じられる要素が1ミリもないし。あったら教えて欲しいんだけど。スカートだったからお漏らし回避しました報告だってしなければ、それ以上評価が落ちることなかったのにしちゃったし。そんなの聞かされた俺はどう反応すればいいわけ?」
「……いや、まあ、そう言われればそうだけども」
由香は叱られた子犬のように縮こまった。
「いやでもさぁ。あそこで私がトイレに行くって言ったら逃げたでしょ」
「そりゃあ、いくら創司の紹介って言ってもね。むしろあれで連れていく方がおかしいっていうか……」
「うっ……!?た、たしかに……」
言われて見れは喋りすぎたかも、とかなんとか由香は言ってるけど、かも、じゃねえんだよ。「かも」じゃ。
とりあえずここまでの出来事を創司に報告するかな、と思いながら俺はテーブルがある部屋に戻った。
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