アフター69 「一周回ってやっぱりこうなった」
由香と四郎くんの紹介をカンタンにした後、あたしたちはお見合いの仲人よろしく2人を残してファミレスを出た。
「任せちゃってよかったの?すっごい雑な紹介だったけど」
駅までの通りに出たところで、あたしは創司に聞いた。
四郎くんを知ってるのは創司くんしかいないし、呼びつけたのも創司くんだったから由香と四郎くんの紹介を創司に丸投げしたら、ビックリするほどテキトーすぎて、一緒に聞いてた由香の紹介はあたしでもなにを紹介したのかわからないレベル。
四郎くんの紹介にいたっては、サブカル系に全財産を突っ込んでるヤバいオタクってことくらいしかわからなかった。
「いいんだよ、あのくらいで。どっちにしろ俺の話なんてロクに聞いてないんだから」
「そういう問題じゃないでしょ」
あたしが創司の肩を叩くと、創司はあたしの頭にぽん、と手を置いた。
「絶妙にわかったような、わかんねえようなくらいでいいんだよ。ちゃんと説明したら話題がなくなるだろうが」
「あ〜……」
そう言われればたしかにそうかもしれない。いや、でもだからってあんな雑な紹介ある?
そう思っちゃうくらい雑な紹介だった。
まあ、でもあのくらいでいいのか。由香は童貞くんを食べることしか考えてなさそうだったし、四郎くんは四郎くんで由香のおっぱいに釘付けだったし。
たしかに。まともに聞いてる?って聞く方が無粋かもしれない。
「まあ、あれでダメならどーやったってダメだし、上手いこといけばあ〜よかったっすね〜で終わり。それ以上もそれ以下もねえよ。そんなの気にするくらいなら残った3万をどう使うのか考えてくれっての」
そうだった。朝ご飯を食べたらちょっとは減るんじゃないの?って思ってファミレスに入ったのに、会計をしたらまさかの5000円以下。リーズナブルなのは助かるけど、使いたい限って使いきれないのは困る。
「でもなんだかんだ居座ったからお店、そろそろ開くんじゃない?」
「つってもまだ30分はあるぞ」
そう言われて時計を見たら9時半。日が昇り始める時間に外に出たから4時間はファミレスにいたらしい。とはいえ、4時間経とうがどうしようが、9時半は9時半。開店まではまだ時間がある。
「っていうか、今日も1日まるまる使っていいの?」
創司の時間というか、一緒にいる相手は順番で日によって決まる。曜日ごとでいいんじゃない?みたいな話もあったんだけど、それは大学1年の大型連休で大崩壊することが発覚。罰ゲームと夏休みまでの順番を決める仁義なき戦いによって日ごとの順番になるように再設定された。
それからは連休ごとに順番決めの熾烈なバトルが繰り広げられるんだけど……今はそこは重要じゃないし、話がズレたから割愛。
ともかく。
創司と一緒にいる時間は日で決まってる。あたしが今日だから、順番的には最初に戻って雫かな?
「いいってよ。昨日のイレギュラーの振替だと。まあ、花火は見れねえけどな」
「終わっちゃってるもんね」
「今ごろほのかにコッテリ絞られてるだろうなぁ」
「……」
うん。なんか意図はしてないけど、他意がありまくりな感じになった気がする。
「それ。怒られてるってことで、文字通り絞られてる、って話なわけないよね?デキちゃったわけだし」
「どうだろうな。文字通り絞られるのも絞るのもいるわけだし、何よりほのかだぞ?」
「……たしかに。オモチャが手に入ったって言ってたよね?」
「人はどうやったってオモチャにはならないはずなんだけどなぁ」
創司が空を見上げた。
どうしよ。このままあっちの2人が〜なんて話になったら。
あり得ない話じゃないだけに、背筋に冷たいものが走る。
「まあ、そんなことは置いといて。残りどうする?」
「ん〜……」
って言われてもね。正直欲しいものもなければ行きたいところもないんだよね。困ったことに。
「雫とかだとどこに行くの?」
「雫か?あ〜……アイツは高い店。主に食う方の――」
とみんなのあれこれを聞いたけど、やっぱりピンと来るものはなく。
「ん〜なんかなぁ。そんな気分じゃないんだよなぁ」
「めんどくせえな」
「うっさいな。しょうがないでしょ。気分じゃないんだから」
まだ朝だし、そもそも寝てないしでどこかに行くなんて気力がないのは当たり前じゃないの。って言っても、3万は使わなきゃいけないわけで。
「欲しいものもねえ、行きたいとこもねえ……どうしろと?」
首を捻る創司を見てあたしは思った。
「別にこの時間で使い切んなきゃいけないってことじゃないよね?」
「ん?ああ。それはそうだけど」
ってことはだ。
思い立ったあたしは創司の手に指を絡ませて駅とは反対方向に歩き出した。
で、たどり着いた場所はあたしの家。
「どこに行かされるのかと思ったら……汚部屋か」
「汚くないんだけど!?」
いやまあ、前回創司が来たときは突発すぎて片付けとか何もしてなかったからガチで散らかり放題だったからそう言われるのも無理はないんだけど。
「終わったら来る予定だったでしょ。だからちゃんと片付けてる」
「クローゼット開けたら崩落、みたいな?」
「しないってば。霞じゃないんだから」
鍵を出して自動ドアを開ける。すぐにやってきたエレベーターに乗って8階へ。
なんだろう。なんだか緊張してきた。
朝帰りは何度もしてるし、なんならいつも通りのルートで創司がいるだけなのに、心臓の音がよく聞こえる。
「なんか緊張するんだけど」
「なんで」
「わかんない。綺麗にした部屋を見られるからかな」
部屋の至る所に散乱してた下着とか服は全部片付けた。ゴミも全部捨てたし、掃除機もかけた。布団もマットレスも干してベッドメイキングも済ませたし、お風呂も準備してある。
完全完璧、準備万端。
いや、なんかそのつもりだったけどさ?なんか待ってました感出過ぎじゃない?大丈夫かな。引かれない?それはないか。
っていうか、こんなしっかり準備したの初めてかもしれない。大学時代は連れ込むってより外泊だったし、社会人になってからは校舎の中。もしかしてちゃんと準備した部屋に入ってもらうの初めて……?
ヤバい。なんかわかんないけどヤバい。
「穂波」
「ひゃい!?」
ヤバい。ビックリして変な声が出た。
「着いたんだけど?」
「え?あ、ああ!そうだね!うん、行こっか」
「……緊張しすぎだろ」
後ろで創司が何か呟いたけどあたしはそれどころじゃない。
もうないでしょ、って思ってた初めてがこんなところに転がってるとは思わなかった。
震える手を押さえつけながら玄関のドアを開ける。
「へえ。マジで綺麗にしたじゃん」
「でしょ」
思ったよりちゃんとした評価をもらったあたしはちょっと安心。
そういえばこういうのも今までなかった気がする。
なんか告白されて付き合って、よくわかんないままぶち抜かれて、よくわかんないままポイだったからかな。
「思ったよりちゃんとしてるな。入ったらすぐに脱ぐと思ってたんだけど」
「ま、まあ。今回はね。さすがにそんなことしないよ?」
いつも?いつもは聞くまでもないでしょ。
と、足元、ドアの隙間から紫色のヒモのようなモノが目に入った。
「――っ!?」
慌ててあたしはそれを取ってポケットに突っ込んだ。
なんで!?片付けたはずでしょ!?
そんな動揺してるあたしを創司が見逃すわけもなく。
「なるほど。まあ、たしかに穂波は好きかどうかってのは置いといた方が良さそうだな。まずは運動。で、寝るっと。たしかに睡眠不足じゃまともに考えらんないもんな」
うんうん頷く創司だけど、そうじゃない。いや、そうかもしんないけど、そうじゃない。
「い、いや。ちょっと待って?そういうわけじゃ――」
「ほう?じゃあどういうわけか説明してもらおうか?」
あっという間に壁ドン。創司の顔しか見えなくなる。
「まだ心の準備が――」
「心の準備なんてさせるヒマもないくらいすぐ食うヤツがなに言ってんの?」
「ぐぅ……」
その通りすぎて辛うじて出たのはぐうの音だけ。
あたし含め散々ヤリまくった創司はもうあたしよりも上になってしまった。
歴戦のあたしよりも上ってなんだろ?
好きかどうか、なんてもうどうでもよくなってきた。どんな風に思われたっていい。今はこのままでぜんぶ収まるんだから。
重なった息に緊張がほぐれてく。
「朝からお盛んだな。先生のくせに」
「創司だって他人のこといえないでしょ」
「そりゃあ、こんなものぶら下げられればなぁ」
なにかは言わない。沽券にかかわる。
「こんな予定じゃなかったんだけど」
「ま、いつも通りがしっくりくるってことで」
あたしたちはそれから満足するまでお互いの欲に沈み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます