アフター61 「なんかいろいろおかしいところいっぱい」
布団で簀巻きにされて猛り狂う女の子が光次の従姉だってわかったのは、みんなで晩ご飯を食べてからしばらくしてのこと。
『あれ、夏海姉ぇじゃん。なんでそんな格好してんの?』
創司の「もうめんどくさいからほのかに聞くか」の一言であっさり判明してしまった。
「ん。知り合い?」
『そっそ。光次の従姉。んでもって愛人』
ふうん。愛人ねえ……。
え?愛人!?
「ちょっと待ってどういうこと!?」
『どうもこうもないよ?この前光次んトコに挨拶に行ったらたまたまいてさ。んで、まあ、バレちゃったんだよね』
なにが、なんて聞かない。ほのかのことだ。内容はともかく、考えられる方向性なんて一つしかない。
『で、まあ、なんていうの?なんてことすんの!?って光次に詰め寄ったわけ。んで、なんだかんだあって売り言葉に買い言葉になって――』
こうなった、と。
いや、意味わからん。なんでよ。違うじゃん。そこは年上としてガツンと返すとこじゃないの?なんで堕ちてるのよ。おかしいでしょ。
『食いまくって飽きたんだって。穂波ちゃんと一緒だね』
「いや、食いまくってって、そこまで食ってないし」
「経験人数3ケタ超えてんのに何言ってんの?」
「え……先生……」
「いや!3ケタは行ってない!」
まだ2ケタだし!――たぶん。
童貞くんたちの反応が楽しくって途中からカウントするの忘れちゃったからイマイチわかんないけど、まだ2ケタなはず。
それに最近はすっかりそれもご無沙汰で、もっぱらコイツらといる時間の方が長くなってきたし!
つまり、カウントは更新してない!だから大丈夫!そこ!ドン引きしない!大丈夫だってば!!
数字は増えてるかもしんないけど、ケタは増えてないって!!
「ん。最近は女子で遊んでるって聞いたけど。それもカウントに入れて」
無表情な雫の視線がこっちに向けられて、あたしの背中に冷たい何かが伝った。
あ、あれ……?お、おかしいな。雫さん、なんで知ってるのかな……?
「穂波ぃ〜?」
「い、いや!ちょっと待って!」
「ん。待たない。正直に話して」
「近い近い!なんなの急に!」
「いたいけな男子に飽きたからって女子にいくのはダメじゃない?知ってる?同性でもセクハラって思われたらセクハラだよ?」
「そんな人を犯罪者みたいに……」
双子に花音まで加わってあたしを責めてきた。
ちゃんと合意の上でシたからセーフだっての。ってか、あたしからは声をかけたりとか、ボディタッチとかそういうのはしてない。いや、女子のノリでしたことはしたけど、ぜんぶ向こうからしてきたからノリに合わせてあげたの。だからあたしは悪くない。乗せてきたから乗っかっただけ。貫通もしてない。みんなまだバージン。一部貫通してる子もいたけど、あたしが原因じゃないし。だからセーフ。ね?セーフでしょ?セーフって言え。
「ん。性犯罪者はみんなそう言う。素直に自供して。今ならまだ間に合う」
「ちょっと!?」
なんてこと言うのかな!?
『アッハッハッハ!』
笑い事じゃないはずのほのかの笑い声が聞こえてあたしたちは冷静になった。
「だから言ったでしょ。身内だって」
ブスッと頬を膨らませて彼女が言った。
「だったら最初っからそう言えばいいじゃん。ウチなんかこれだよ?愛人の1人や2人、ビックリはするけどそこら辺の人より遥かに寛容なくらいわかるでしょ」
「……」
めんどくさいな、とでも言いたげな霞に言われて彼女は目を逸らした。
『や〜ムリムリ。夏海姉ぇはそんなこと言えないよ』
「なんで?」
『そりゃあ――』
「ん。挑んだくせにボロ負けだった。すっごいいっぱいシたのにボロ負け」
ほのかの声を雫が遮った。まるでわかってたみたいに。
あんまりにも平然な顔で言ったからあたしも面を食らってしまった。
「え?マジで?」
と声を出したのは麻衣。「なんか同類な気がする」と言ってた麻衣もさすがにビックリしてる。
「ん。だから麻衣より穂波に似てる。穂波もソウくんにボロ負けだったし」
いや、あたし負けてないんですけど……。そもそも勝負なんてしてないし……。
完全に濡れ衣だけど、ツッコんだら脱線しすぎるので黙ってる。大丈夫。あたしは大人。できる大人。うふん。
創司に視線を向けたけど、洗い物しててスルーされた。ちくせう。
「負けてない!あんなの!別に……別にぃ……」
みんなのなんとも言えない視線に耐えきれなかったのか、簀巻きの夏海は声を大にして叫んだ。けど、それも一瞬。顔が歪んだと思ったら目から涙が落ちてきた。
え?ちょっと。なに?なんかいきなり泣き出したんだけど。情緒不安定すぎない?大丈夫?
とりあえず簀巻きの布団から解放して慰めてあげる。抱きしめてあげると、あたしの服にしがみついてガチ泣きし始めた。買ったばかりの服にヤンツンデレな女子の涙が染み込んでいく。
にしても、この子――。
「ん。穂波、弱みにつけ込んでオイタは禁止」
おっと。
きゅっと引き締まっていてくびれてる腰に触ろうとしていた手を慌てて引っ込めた。
『穂波ちゃん。夏海姉ぇ、この前も光次に結構な勢いでわからされたくらいヨワヨワだから、そっちのノリで遊ばないようにね。特に穂波ちゃんは涼よりタチが悪いから絶対にダメ』
「あ、はい」
2人に止められたあたしは両手を上げて何もしないよアピール。
「って、ちょっと待って。タチが悪いって何?涼よりはマシでしょ」
「ん。手癖の悪さは涼以上」
そんなバカな……。
雫に言われるってことはマジで涼より手癖が悪いってことじゃん。おかしい。なんでこうなった……?
「だから!ケツを揉むなつってんでしょうが!!ケツを!!」
「痛っ!?何すんの!?」
バレー部仕込みのスナップに手をはたかれた。痛い……。
「弱ってるところに付け込んでセクハラをすんなっての!まったく……」
……え?今、夏海のお尻揉んでた?ヤバい。完全に無意識だった……。
手に意識を向けると、たしかになんか柔らかいモノに触れていたような感触が残ってる。くっそ。なんで無意識でやっちゃうかな。揉むならちゃんと感触も楽しまないといけないのに。よし、じゃあ次はちゃんとパンツの中に手を入れて――。
「ん。全然反省してない」
「穂波ぃ〜?」
「冗談!冗談だって!」
雫、なんでわかったの……?エスパーかよ。コワ。雫様怖い。ついでに物理な霞も怖い。
創司はよくこの2人を相手にできるなぁ。
事あるごとに思うことだけど、今回ばかりはつくづくそう思ってしまう。
「っていうか、あたしだって揉まれてるんだけど?」
と、顔を埋めてる夏海を指した。コイツ、谷間の上の方に顔を埋めることで身体でうまいこと隠してあたしのおっぱいを揉んできやがる。
まあ、ヘッタクソすぎて気持ちよさなんてまったくないんだけど。
「ん。傷心だからしょうがない。妥協して」
「……」
なんだろう?このなんとも言えない、なにかに負けたような気持ちは。
傷心ならあたしもコイツらの乳揉んでもいいってか?ならあたしだってこの理不尽に傷心だから夏海のちょうどいいサイズのを揉ませてもらおうかな。
「アンタさぁ。考えてることが丸わかりだっての。そんなにソレがいいなら順番すっ飛ばそうか?」
「それとこれとは違うでしょ。ってか、ほぼ毎日してるの知ってるからね?ほのかが的中したんだから、アンタらもそろそろ的中するんじゃないの?」
この双子、就活が終わったことをいいことに創司が空いてる隙を狙っては引っ張り込んで朝だろうと昼だろうとお構いなしに大人の大運動会を繰り広げてやがるのだ。まったくもって羨ま――げふん!けしからんとは思いませんかね!
「ん。それは大丈夫。卒業するまではみんなと一緒。その先は……こう」
と、雫は自分、霞、あたし、麻衣と指していく。なんの、なんて聞くのも言うのも野暮ってなモノなわけで。
「澪ちゃんは?」
「ん。霞と穂波の間。そのあとは頑張った順。ってことでソウくん、頑張って」
「何を?」
洗い物を終わらせた創司があたしの隣に座った。ちょうどいいところに座ってくれたから寄りかかっちゃお。
「ん。ちょっとアブナい幸せ家族計画」
「なんだそれ?初耳なんだけど」
「ん。今思いついた。名前だけだけど」
『今さらだけど、創司くんも大変だねえ』
順番でざわつく女性陣に混じってほのかの呟きとも取れる声が部屋に溶けて消えた。
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