アフター54 「巨類と貧類の仁義なき戦い」

 フリータイムが終わるまで創司くんたちと話した後、わたしと穂波は席に戻った。


「知り合い?」


 ビックリして声がした方に顔を向けると、茶髪のお人形さんみたいな顔の女の人がいた。


「ずっと向こうの方に行ってたでしょ?」


 別に責めてるような雰囲気はない。単純な興味で聞いてきてるっぽい。


「ええ。まあ」

「ふうん。あれ?もしかして彼方かなたの妹?」

「え?あ、はい。そうです」


 いきなりお姉の名前を出されてビックリしたけど、頷いて返すと肩をバシバシ叩いてきた。


「な~んだ!だったらそう言ってよ!ビックリした~!ってことはそっちにいるの、もしかしなくても穂波!?は~……でっかくなっちゃって!!」


 スタスタ歩いて穂波のところまで行くと、そのまま後ろからおっぱいをすくい上げるように持ち上げた。


「ひょわああああ!?」


 あ~……これ、なんか見覚えあるなあ。っていうか、公衆の面前でやらないでほしいんだけど。


「なに!?」

「うっわ。天然物!?マジで?詰めてないの!?」


 たっぷんたっぷん揺らしながら穂波のおっぱいを揉む女の人。


「天然ですけどなにか!?」


 身をよじって逃げようとする穂波。だけど、脇から差し込むように腕を入れられてて、逃げようとしても逃げられない。


「くっそぉ!高校んときよりでっかくなりやがって!!少しは分けてよぉ!!」

「ひぃいいいい!?みみ!!みみはやめてぇ!?」


 たっぷんたっぷん!!


 あ~……なんか思い出してきた。思い出してきちゃったなぁ。高校時代の悪夢とでもいうべき存在。ここに来てまさか出会っちゃうとは……。お姉ェ……。

 

 でも、とりあえずこの乱痴気騒ぎを止めないと。


 手近にあったメニューを手に取って女の人の頭に背表紙が突き刺さるように落とした。


「あぐぅ」


 女の人が出しちゃいけない声が漏れた気がするけど、無視無視。激痛に頭を押さえてるお人形さんを席に戻して幹事さんに視線を送る。


「え~あ。はい。大丈夫ですかね?」

「いたぁ~い」

「はい。じゃあ、大丈夫そうなので、本日はここまでとします。二次会も予定していますので、参加される方は私に付いてきていただければ案内しますので、よろしくお願いします」


 幹事さんは「ありがとうございました~」とだけ言い残してさっさと席を離れてしまった。


 合コンが終わってわたしたちは創司くんたちがいるカウンター席へ。お店の外に出た女の人は誰もいない。


「あれ?あやは向こうじゃなくていいの?」


 お人形さんみたいな人が残った一人に聞いた。


「男5に私だけって行くわけないでしょ。ってか、今日のはもう終了!!」


 お人形さんみたいな人と残った人はカウンター席の一番端っこの席に座った。わたしも涼の隣に座ってメニューを開く。


「ん~……ブルドックを」

「かしこまりました」


 あの2人、さっきまで軽いのしか飲んでなかったのに、本性を出したみたいなお酒をチョイス。


「ふぃ~!おつかれ~!」


 乾杯をして一気飲み。そして流れるようにそのままカシスオレンジを注文した。すぐに来たから一気飲みするかと思ったら舐めるような一口でグラスを置いた。


「彼方から澪と穂波んとこがなんだかおもしろいことになってるって聞いてさあ。来てみたんだけど、1対……えーっと、8?」

 

 お人形さんみたいな人がカウンター席に並んで座ってるみんなを数えて言った。


「ヤバくない?持つの?」

「ん。持つとか持たないじゃない。満足するまで」

「へ、へえ……そ、そうなんだ」


 雫の返しにドン引きするとは思ってたけど、思った以上の反応をしてくれてわたしはちょっと安心。やっぱこれ、普通じゃないよね?


「多いよね~」

「いや、多いとかそういう話じゃないと思うんだけど」

「ん。でも、この人も同類だと思う」


 と、雫が指すと視線をそらした。さすが正妻。よくわかってらっしゃる。


「ちょっと、アンタ。初見の人になんてこと言うの?」

「ん。でも、事実は事実。たぶん3人くらい?いると思う」

「え。マジ?」


 双子の視線と一緒にみんなの視線が一斉に吸い寄せられるように向けられた。


「んんっ!まあ、そんなことはどうでもいいとしてさ」

「や、どうでもはよくないかな。っていうか、穂波ちゃん。いい加減だれか教えてよ。知ってる人なんでしょ?」


 隣に座った穂波に乃愛が聞いた。


「あ~……アタシよりセンパイの方がよく知ってると思うんだけど」

「澪ちゃん?」


 穂波に向いていた視線が一気にわたしの方に向けられた。


「え~っと。お姉の友達って言えばいいのかな。隣は知らないけど」

「そっそ!友達!親友とも言うけど!あ、こっちはワタシの友達の友達で、ヤトちゃん」

「谷にドアの戸で谷戸で~っす!」


 グラスを掲げてご挨拶。わたしたちもグラスを掲げるとそのまま乾杯。

 

 それにしてもややこしいな。っていうか、友達の友達なら他人じゃない……?

 

「ちなみにセンパイのお姉のお友達の苗字の高屋敷で――」

「ほなみぃ~?」


 そうそう。思い出した。この人、苗字がNGワードだった。

 

「待って!?ちゃんと聞いて!!呼ぶとこうやってブチ切れるからご注意!!って言おうとしただけ!!」

「だったら名前だけ教えればよかったでしょうが!!散々教えたのにぜ~んぶこの胸に行ったか!?ああん!?」

「あ~!!待って待って!!揉むな!またボタンが弾けるから!!直すのめんどくさいから!!」

「はあん!?!?ふざけんな!!ケンカ売ってんだろ!?マジで!!」


 そうそう。それでもって穂波と相性がメチャクチャ悪いんだった。懐かしいなあ。


「ちなみに名前はゆゆ。完全に名前が負けちゃってるけど」


 お店の中だけど、人がわたしたちしかいないからって騒ぎ放題の2人を眺めながらわたしもドリンクを注文。やっと美味しそうなヤツが飲めそう。


「クッソ生意気な胸しやがって!!」


 さっきまで座ってた椅子に穂波を座らせて脇から腕を差し込んでおっぱいを揉みしだくゆゆセンパイ。年上の貫禄とか一切ない。そこにあるのは大きいものに対する敵意だけ。

 

「あ~!!揉むな!!触るなあ!!自分が貧類だからって~!!」

「ひ、貧類!?こ、こいつ……!!」


 ホント、穂波って煽るの好きだよねえ。


 ゆゆちゃんはウチらの中で比べると、霞くらいはある。だから別に貧類って言ってもぜんぜんないってわけじゃないんだけど……まあ、穂波基準だったらほとんどが貧類になるよね。


「あっ!」


 と、ここで穂波の声が少し変わった。当然ゆゆセンパイがそれに気づかないわけもなく。


「ん~?ほなみ~?もしかして感じちゃった?」

「は、はあ!?ん、んなわけないでしょ!?」


 飛び跳ねるようにして穂波はゆゆセンパイから離れる。けど、上2つのボタンが外されて下につけてるパープルの下着がチラ見え。


 う~ん。やっぱあのサイズだとかわいいのないんだなあ。


 わたしのサイズもかわいいの減ってきたけど、穂波はもっと少なそう。なんかかわいそ。


「そんなこと言って!ゆゆパイセンの弱点は知ってるんだからね!!わき腹!!」

 

 ずびしっ!と指して、すぐ穂波は首を傾げた。


「ん?ん~??あれ?あれあれ?ゆゆパイセン?もしかして――」


 ゆゆセンパイに近づいた穂波がゆゆセンパイのわき腹をつまんで一言。


「太りました?」


 ブチッ!と音がした後の話はやめておこうかな。うん。やめておこう。


 強いて言うなら、穂波のスカートが大変なことになったり、反撃を食らったゆゆセンパイのシャツからぽろんってしたりしたけど、最終的にはお店の備品が一つも壊れてなかったのが奇跡だったとだけ言っとく。

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