アフター53 「ブチ切れ案件はあっという間に解消してしまいました。まる。」
そんなわけで来る未来に胸を膨らませてクッソつまらないこと間違いなしなナゾの飲み会とやらに来てみたら、あ〜ら不思議。地下倉庫ではっちゃけてた皆様がカウンター席に勢揃いしてるではあ〜りませんか。
いや〜もうね。ビックリですよ。ビックリ。どこかで見たことある背中だなぁって思ってたけど、そりゃあそうだ。つい先月見たばっかりだわ。あ。女性陣の方ね。創司くんとはホントに半年近く会ってない。
しかも、別の彼氏がいるはずの麻衣さん、知らないうちにこっちの輪に入ってたんだけど。え?聞いてないんだけど?いつ入ったの?っていうか、いつ別れたの?まったく聞かされてないんだけど?
「――身近だとそういうのですかね」
「へえ。すごいですね!」
目の前に座ってる人の話はもうテキトー。っていうか、そんなの聞いてる余裕なんかない。興味ないし。それよりも向こうの方が気になってしょうがない。なんで!キミたちがそこにいんの!?そこ!!今日のわたしの席なんですけど!!
「趣味ですか?ん〜……仕事上の繋がりで本を読むことが多いですかね」
「へえ!どんなの読むんですか!?」
ときどき目の前の人に目を向けて質問に答えてるけど、あ〜……さっきから視線がキモい。仕事が終わってそのまんまだから別に大した服じゃないんだけど、まとわりつくような視線が向けられてる。主に胸に。
穂波ほどじゃないけど、それでも雫よりは大きいから普通に着てても目立つからしょうがないんだけどさあ。それにしたって見過ぎじゃない?わたしの顔、そこじゃないんだけど。
ここまで話したのは3人。み〜んな胸に話しかけててそろそろブチ切れそう。
隣の穂波もわたしと同じようでワンレンの髪で見えにくいけど、青筋が浮かんでる。いやね?別にその気ならいいんだよ?その気なら。違うから。こっちにはちゃ~んと相手がいるし、ぜ~んぜんこれっぽっちも興味ない人の視線はマジでセクハラ。アルコール入れてるから、なんて言い訳にだってならない。
「は〜い!そろそろ次の席替えをお願いしますー!」
いい加減終わってくれないかなぁ~、なんて思ってたら幹事の声が聞こえて、男性陣が一斉に立ち上がって1つ席を移動する。
幹事さんの声はカウンター席にも聞こえてるみたいで、振り返った創司くんと一瞬目が合った。けど、それもホントに一瞬。雫が創司くんの顔を両手で挟むとグキッてなりそうな勢いで自分の方に向けて、そのままチュー。ご丁寧に、しっかりわたしに見せつけるように。ちなみに2回目のときは麻衣が同じようにやってくれた。くっそ。それ、わたしがやるはずだったのにぃ……。
は〜。マジでブチ切れそうだわ。
貧乏ゆすりが発動しそうになるのを必死で堪えてるんだけど、止める方に力が入り過ぎて若干攣りそう。ビキッて来たら創司くんに背負ってもらおうかな。――いや、やめよう。足が攣っておんぶとか、そんな理由はダサすぎる。
「――商社のタチバナっていいます。よろしくおねがいします」
「こちらこそよろしくお願いします~」
さっきの男子より礼儀正しいご挨拶。見た目も雰囲気も人気がありそう。
でも、ここにいるってことは、たぶんどっかに難があるってことだよねえ。って思ったけど、一瞬の視線の交錯で悟った。たぶんこの人は「癖」がぶっ飛んでる。
これは予感、じゃなくて確信。
地下倉庫で騒いでたみんなが卒業したからって平穏な学校生活が送れるわけがない。その筆頭が場所を移したマンガ部。
みんなほどじゃないけど、変人の集合体のマンガ部がマンガを描くだけで収まるわけがない。目で見える範囲ではかろうじて合体するのだけは防いでるけど、合体しないでできることは何度も遭遇してる。そういえばほのかも学校でしてたって先週言ってたっけ。
見えるかもしれないって最高のシゲキなんだよ!とかなんとかって……――うん。深くは語るまい。あ。やめて。こっちを見ないで。わたしは
んんっ!それはともかくとして。学校は困るよねえ。ちゃんと片付けてるから強くは言えないんだけど、なにも学校でしなくてもいいじゃん。ねえ?
って考えたけど、よくよく考えたら家がダメだから学校ってこと……?いやいや。なに言ってんのさ。どんな理由でも学校はダメでしょ。ダメ。
まあ、でもそのおかげ(?)でこういうのは直感でわかるようになってしまった。もっとちゃんとした確証を得るならほのかを呼んだ方がいいんだろうけど、そこまでは必要ない。っていうか、知りたくもない。
興味を持たれないようにテキトーに話を合わせてこの人ともう1人もサクッと終わらせる。
「はい。それではここからはフリータイムとなります。自由にお話ししていただいて――20時半ごろ、また声をかけさせていただきます。それでは、どうぞ」
自由になってすぐ、わたしは隣に座ってる穂波の椅子を叩いて一時離脱。いや、戦線参加っていうべき?
「なになに?どったの?」
一緒についてきた穂波はトイレに行くと思ったんだろう。ぜんぜん違う方向に歩き出したわたしの背中に聞いてきた。
「トイレじゃないの?」
「じゃない。もっと重大な問題」
「なんそれ?」
ここまで来てまだ穂波は気づいてないらしい。まあ、しょうがない。薄暗いからね。
「――……ん?」
なーんて思ってるとようやく穂波も異変に気付いた。
「あれ。おかしいな。創司がいるように見えるんだけど。しかも、オマケ付きで」
「オマケどころかフルコンプ」
「え?マジで?」
さらに近づいてカウンター席まで来ると、雫が「やっほ」といつもの無表情フェイスで手を挙げた。
「な~んでいるのかな?」
って言ったのはわたしじゃなくて穂波。
「ん。ソウくんを放置してこんなとこに来てるって霞が言ってたから来ちゃった」
ぶい。と人差し指と中指を立てて勝利のブイサイン。無表情なのにかわいいのがムカつく。な~にが来ちゃった、だよ。呼んでないのに。
「で?麻衣もよ。なに?さっきの」
「わたし?あ。あー!あれ?そのまんまだよ?お先にいただきました~って。あは」
「は?お先に?どゆこと?」
話が見えてない穂波が麻衣に問いかけた。
「だからそのまんま。しちゃった。ね?」
と、創司くんの腕に抱きついた麻衣。
「しちゃった。っていうか、食われた、が正しいけど」
「へえ?ほおん?」
「ん。私も予想外。そのうち、とは思ってたけど」
カクテルグラスを傾けながら雫が言った。
「創司絡みで雫が予想を外すなんてねえ。珍しいこともあるもんだわ」
って言ったのは、雫の双子の妹、霞。一卵性の双子よろしく、同じようにカクテルグラスを傾けて、同じタイミングでテーブルに置いた。
「ん。でも参加してくるってのは予定通り。順番は変える気はない。参加した順。だから、麻衣は最後。今回は例外」
「でもさ。隙があったらやってもいいでしょ?」
麻衣の声に双子の目がスッと細くなった。
「ん。いい。いいけど、そのあとのこと、ちゃんとわかってるよね?」
「何のための順番かっての、わかってるでしょ。そんくらい。ねえ?」
あれ?双子の声のトーンがいつもより低くなってる?
と、袖を引っ張られた。引っ張られた方を見ると、創司くんがわたしの耳に近づけて一言。
「プラス1日だと。管理不足のお詫びってことで」
「1日?お詫び?」
「代わりに麻衣は次のターン飛ばし。ま、自業自得だな。目には目を歯には歯をってことで」
「あれ?でもウチらはもともとその日じゃなかったはずだけど」
穂波がそう聞くと、創司くんは「順番だよ、順番」と返してきた。
「日とかは関係ないんだと。順番が前後するとかもさ、お互いに認めてるんだったらセーフだけど、今回のは明らかな割り込みだろ?そういうこと」
「あ~……そういう?だから通ったのか」
「ってことで、プラス1日。ちなみに順番すっ飛ばして泊まり込みとかやらかすと2ターン飛ばしとか、ちょっと口では言えないコースも用意してるって話だぞ」
なにそれ。こわ。
このメンツで「ちょっと口では言えない」ってホントに文字通りの意味で「口では言えない」ヤツだからシャレにならない。
「それ、主催はだれ?」
「さあ?霞が用意しなきゃ!って『大人のデパート』って店に雫と入っていったのは知ってるけど……」
「ちょっとまって?それ、ガチのヤツじゃん……」
穂波の顔色が一気に青くなった。え、なに?なんかあるの?
「ま。やらなきゃいいってだけの話だし。やったら順次公表する形式だからここだけの話な。ってことで今日はノーカン。明日、明後日、ともう1日ってことで」
わたしは穂波と顔を合わせてすぐにスマホを取り出した。
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