アフター50 「その夜、彼の叫びは止まらなかった」

「――って感じかな」


双子に挟まれた私はクリスマスの一部始終を話した。


クリスマスタイムが終わり、みんなとパーティをするってことで今は創司くんたちが住んでるマンション。その中でも一番広い、創司くんと双子が住んでる部屋にいる。


食べ物は全部用意できていて、あとはみんなが飲み物を持ってくるのを待ってるだけ。私と創司くんも来る道中で飲み物を買って持ってきてる。


「それで?午後は?」


霞が創司くんに話を向けた。


「別に飯食ってブラブラして〜ってだけだぞ。ずっとホテルに引きこもって2日間ぶっ通しで盛ってたどっかの誰かさんたちと違ってな」

「あ、アレは……――!むぐっ!?」


顔を真っ赤にしてなにか言おうとした霞の口に雫が海苔巻きを突っ込んだ。


「んー!んー!!」


目を白黒させながら霞が創司くんの肩をバシバシ叩いてる。


「ん。楽しかった?」


そんな二人を無視して雫は私に聞いてきた。私は大きく頷いて返す。


「ん。ならよかった」


いつも無表情な雫だけど、このときだけはふんわりと笑った……ような気がした。


「よくねえよバカやろう。夢の国で枕投げなんかしやがって」


雫がいるときの定位置――雫のスカートの中から創司くんの声がした。


「ぷはっ!あ〜……いいでしょ。別にアンタに迷惑かけたんじゃないんだし」

「ん。それに負けたら順番が変わる仁義なき戦い。ソウくんには関係ない」

「……順番?」


勝負とは聞いてたけど、そういえばなんの勝負か聞いてなかったことを思い出した。


「そういえばなんの戦いだったの?順番って?」

「涼はもう終わった話だから気にしなくていいでしょ」

「え?終わった?」


海苔巻きを食べながら言った霞に私は聞き返した。


「ん。次のクリスマス。誰がソウくんと一緒に過ごすか」

「あ〜」


雫に言われて納得。たしかに私には関係ないや。


「ってことは二人も関係ないじゃん。なんで行ったの?」

「ん。審判」

「ってこと。当たり前でしょ」


今まで別に審判なんていなかったと思うんだけど。っていうか、その審判ですら勝負に参加してたりするんだから審判が理由な訳がない。


「ん。ルールはシンプル。ベッドから落ちたら次回の勝負に持ち越し。物を壊したり、ぶつけたりしたら最下位。2個以上やったらその分だけ通常の順番も1回ずつ飛ばす」

「で、最後まで残ってた人が次ってわけ」

「ベッド、ねえ?」

「ん。これ」


そう言って、雫から対戦ステージになったベッドを見せてもらった。


比較のためだろう。雫がベッドに横になってくれてる。


サイズは〜……う〜ん。私の部屋にあるのより少し大きいくらい?


双子と私以外がベッドに立ったときの画像も見せてもらったけど、枕投げにはちょっと狭そうな気がする。


っていうか、それよりも重大な問題があった。


「なんでみんな裸なの!?カーテン全開だし!!」

「酔ってたからね〜。ウェーイ!って気分をやってみたくって。えへ」


いや、霞?てへぺろ、みたいな顔しても意味ないんだけど。


「って、酔ってた?お酒はダメって話じゃなかったっけ?」


この双子、酒癖がめっちゃ悪くて、雫は音もなく近寄ってあっちこっちいじくり回すし、霞は霞で無邪気に近寄って絡んでくるんだよね。


オッサンか!って言いたくなるくらいしつこいし、セクハラもしてくるんだからホントにタチが悪い。


「ん。この前にシャンパンファイトもやった。ソウくんがいないからいいかなって。えへ」

「……」


いや、雫さん?無表情でそれやられると怖いんですけど?


っていうか、なに?完全に女子会のノリで楽しんでんじゃん。


「ああ、事後報告って送ってきたアレか」

「ん」


スカートの中の創司くんの声に雫が頷いた。


「お風呂場がめっちゃ広くってさ。お湯も張ってなかったし。全身ずぶ濡れになっちゃってもう服着なくていいか〜って話でね?」

「ん。そう」


それでカーテン全開の全裸で枕投げ?まったくもって意味がわからない。


ちなみにその「仁義なき戦い」の模様は例のクラウドに上がってるんだとか。いや、誰が見るんだよ。


「ふうん。で勝者が乃愛と」


雫のスカートの中から声。けど、雫がその声に首を振った。


「ん。そのはずだった」

「はずだった?」

「バカだからさ〜。乃愛のヤツ、ウチらに勝負吹っかけてきたんだよね」

「ん」

「乃愛が?珍しい」


そんな好戦的なイメージなかっただけにちょっと意外。


「酒が入って変わったんだろ」

「そうかな?」


そんなことないと思うんだけど、と思いつつ、あのバレー部だからなあ〜って思いもありつつ、続きを促した。


「勝てると思ったんじゃない?で、ほら、お正月明け一番最初がウチらだから譲れって言ってさ」

「あ〜……」


もう話はわかった。要はその勝負に負けて乃愛はぜーんぶ後回しにされたんだ。


「で?繰り上がりは?」

「ん。花音」

「……大丈夫なのか?」

「ん。死守するって」


看護系の短大に進んだ花音は一足先に社会に出る。病院って簡単に休みが取れるとは思えないけど、どうなんだろう?


「ダメだったら?」

「ん。繰り上がりで麻衣」

「ふうん」

「先生たちって選択肢もあるよね」

「ん。そういえば」


そうそう。そういえばすっかり忘れてたけど、澪ちゃんと穂波ちゃんもウチらの順番の中に入ってる。


って言っても、二人は完全に社会人だし、時間的にも経済的にも余裕がなさ過ぎてがまったく来ないらしい。


「あの二人はいい加減、休みを入れたほうがいいだろ」

「ん。でも篝と呑んだくれてる方が性に合ってるって。あと穂波はつい最近オモチャを捕まえたって喜んでた」

「……またやり過ぎて怒られないといいけどな」


穂波ちゃんはたまにこうやって発散してるって聞くんだけど、どこまでホントなのかはわからない。


一方で、澪ちゃんは相変わらず潔癖のままらしい。


創司くんとの時間を作るためにせっせと働いてるって聞いてはいるけど、終わる端から仕事が入ってきてなかなか時間が作れないって嘆いてたなあ〜。


「夜は来るんだろ?」

「ん。その予定。穂波は追加してきたら毛という毛を毛根ごとむしり尽くすって息巻いてた」


いや、怖過ぎでしょ。


「あ、それで思い出した。篝さんにガムテを2人に渡しておいてって伝えとかないと」


霞は手を叩いて席を離れた。


「え?冗談だよね?」

「本気と書いてマジなやつだ」

「ん」


私の問いに二人はそう答えた。


「教頭先生ってツルッツルだったよね?」


あえてどこ、とは言わないけど、私はペシペシと自分の頭を叩いた。


「ないヤツはしょうがないから全身ガムテの刑に処すんだと」

「ん。上から下まで全身くまなく」

「ひぇ……」


想像しただけで痛そう。


「んしょ、っと。ちゃんと証拠写真も残すんだって。薫が楽しそうに高校に来たって。篝が」


戻ってきた霞が創司くんの脚がある方に座った。


「薫さん、社会に揉まれるのもう飽きたのか」

「薫の目的はアッチ。社会なんかに揉まれるようなタマじゃないっての」


スマホをいじりながら霞が言った。


「5人食って物足りないってさ、涼」

「私に振らないでよ」


ホント、薫さんを制御するのは無理。好きなように野放しにしておくのが、私的にもストレスがなくていい。


っていうか、5人ってどういうこと?今日は4カ所だけじゃなかった?


イヤな予感しかしないけど、薫さんは関わったら巻き込まれてヒドい目に会うので、深追いはしない。


そんなことを考えてると、玄関のドアが開く音が聞こえた。


「ただいま〜!」


聞こえてきたのは乃愛の声。遅れてほかの子たちの声も聞こえてきた。


「さて、じゃあ準備するかね」

「ん」

「はいはい」


創司くんが雫のスカートから出てきて動き出す。


と、雫が足を止めた。


「わぷっ」


急に止まった雫にぶつかってしまった。


「ん。クリスマスは夜まで。みんなが寝たらソウくんとしていい」

「え?いいの?」


耳打ちで言った雫に思わず聞いてしまった。けど、雫はちゃんと頷いた。


「ん。いい。代わりに私も参加する。大丈夫。ちゃんと動けなくなるように仕込んである」


私はクスッと笑ってしまった。


さすがみんなの胃袋を握る正妻様、抜け目がない。


「いいよ。共同戦線ってヤツ?」

「ん。任せて」


私と雫は合意のハグをした。

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