アフター47 「止まらないネコ化」
露天風呂から出て身体を拭いていると、創司くんが「あ〜……」となにかを思い出したみたいに言った。
「どうしたの?」
「着替え。持ってくんの忘れたなって」
「あ、ホントだ」
そう言われてみれば、ベッドでイチャイチャしてそのままお風呂に放り込まれたから着替えのことなんかすっかり忘れてた。
「でもアレ着る?あっついと思うけど」
来る前に着るつもりで買った服はまだ袋の中。冬用の部屋着でモコモコのヤツだからお風呂から出たばかりの私たちが着たら2人揃って汗だくになる。
「まあ、今すぐ着なくてもいいだろ」
創司くんは身体を拭きながら部屋の中に入った。
部屋の中に入って時計を見ると、チェックインから4時間が経っていた。
「うわ……3時間も入ってたの?」
「出たり入ったりしてたからなあ。そんなもんだろ」
たしかに創司くんが言った通り、のぼせそうになったら温泉から出て涼んで、冷えてきたらまた入ってを何回かやった。
間に別のことをしちゃって、あったまる、を通り越して暑くなったこともあるけど……うん。まあ、全体的には結構あったまった。
正直、あったまりすぎてこのままじゃ寝れないくらいには。
「このくらいは着といたら?」
そう言って創司くんが渡してきたのは、ホテルには似つかわしくない浴衣。いや、まあ、室内温度的にはね?ちょうどいいんだけどさあ……。
なんとも言えない気持ちになりつつ、このままだと
「下着は……いいか。明日着る分なんて持ってきてねえだろ」
「あるけど」
「予備の予備の予備の予備は?」
「そこまではない、かな」
そんなにいる?って思うけど、高校のときの前科に心当たりがありすぎて下着事情について私は強く出られない。
「だろ。ってことでノーパンで」
「言い方っ!」
あんまりにあんまりすぎて私はツッコミを入れてしまう。
「ん」
手にドライヤーを持った創司くんがポンポンと座ってるベッドを叩いた。
「んしょ。じゃ、よろしく」
「はいはい」
霞がいつも乾かしてもらってるって聞いてやってもらうことにしたんだけど、これがなかなか気持ちいい。
「ん~」
正直いつもは薫さんだけど、これなら創司くんにやってほしいな、って思っちゃうくらいにはいい。セクハラしてこないし。
「ネコかよ」
「んにゃ~」
ほんと、至れり尽くせり。
高校のときは想像もできなかったくらい穏やかな時間が流れる。
双子はいつもこんな風に過ごしてるのかと思うと、ちょっと羨ましい。
「って思うだろ?霞に付き合わされておちおち寝てもいられんぞ」
「そうなの?」
雫じゃなくて霞……?
なんにも考えてないように見えて独占欲のカタマリみたいな雫じゃなくて?
「朝、目が覚めて3回」
「3回?」
「そっからベッドを降りて1回。んで、高校んときの日課に付き合わされて、シャワー浴びて1回。それでようやっと雫を起こす」
……なにを聞かされてるのか途中まで理解できなかった。
「雫を起こす」ってところまで来てようやく霞の
「……」
なんかもう、ね?って感じ。
「考えられんだろ。ここまでやって朝だぞ?」
「いや、う〜ん……」
高校時代の私も似たようなもの……って言いたくないけど、実際似たようなものだったからコメントしづらい。
ただ、正直薫さんよりもまだ常識っていうか、ブレーキがかかってるって思ってたから、意外といえば意外かもしれない。
「雫は?」
「アイツは朝じゃない。帰ってきてからだな」
「帰ってきてから?あ〜……帰ってきてからか。ご飯にする?お風呂にする?それとも私?って?」
創司くんがなぜか笑った。
「あったなぁ。それ」
「え?」
まるで「今は違う」みたいな言い方に私は耳を疑った。
「最初だけだったな、それ」
「最初だけ?今は?」
「1ヶ月くらいか。今は『ん。私?霞?両方?それとも誰か足す?』」
「……」
なんていうか、言葉が出なかった。
いや、まあ双子と一緒に住んでるんだからそうなるのはわかるんだけどさ……あれ?わかっていいのかな?……いや、うん、深くは考えないようにしよう。
この3人に常識は通用しない。そもそも他にもいるし。
「ん?ってことは霞も入ってきたり?」
「する。霞は夜声がガラッガラになるまで叫んだのに、次の日の朝、フツーにいつものルーティンでしてるからヤバい」
「いつもの、ってさっき言ってたの?」
「ああ」
――いや、それに付き合ってる創司くんの方がヤバいよ?
なんて言えるわけもなく。
私だってここに来てすでに3回。
お風呂から出たのは、これ以上したらお風呂が汚れすぎて大変なことになるのと、されすぎて意識をぶっ飛ばされたら後が大変だからって理由だから、まあお察しなところはある。
「雫より先に霞の方がデキちゃいそうじゃない?そんなにやってたら」
「どうだろな。合宿だなんだでいないときもあるからなんとも言えん」
「あ〜……」
そう言えばそっか。
「まあ、一応?対策?っつっていいのか知らんけど、アレはしてる。こんだけしてると気休めにしかならねえと思うけどな」
「だよね」
「雫は『ん。準備は出来てる。いつでもばっちこい』つってたけどな。どこまで本気なんだか」
……うん。言いそう。なんならウチら全員で面倒を見る未来しか見えない。
いや、いいんだけどね?いいんだけどさあ〜……。
「雫はどこまで計画済みなのかな」
ドライヤーの音が消えて、私はベッドに横たわる。創司くんはバスタオルとドライヤーを片付けにベッドを離れた。
「さあ?壮大な家族計画、ってのは間違いなさそうだけど」
「聞いたことないの?」
「ない。聞いたところで教えてくれるとも思えんし」
たしかに私が聞いても教えてくれなさそう。
創司くんがベッドに来た。ベッドの上に座った創司くんの膝の上に私は頭を乗せる。
「ん」
両手を伸ばすと、創司くんが屈んでくれる。首の後ろまで手が回ると、私はそのまま引き寄せて唇を合わせた。
「……ふ」
恋愛ドラマみたいに柔らかいキス。
ホテルに来る前に食べたレモンケーキの甘酸っぱい味がする。
初めてのキスの味を例えた人は、もしかしたらレモンケーキを食べた後だったのかもしれないな、なんて思いながら入ってくる熱に身を任せる。
「ん……はっぁ……」
ほんの一瞬、息継ぎのために離れてまた合わせる。
足りない。もっと、もっと――。
離れてはくっつき、くっついては息継ぎのために離れる、を繰り返す。
「霞も大概だけど、涼もキス魔だな」
「だってぇ……」
熱くなってきた身体に溶かされたみたいな甘い声が出てくる。
高校のときにみんなに遊ばれたときとはぜんぜん違う。ホントになんにも考えられなくなる。
恥ずかしい、とか考えてる余裕すらない。
だんだん水の音が混じってきて、私の力が抜けてくる。
「ふ……ぅあ」
遠くの方で衣擦れの音が聞こえた気がするけど、それよりも創司くんから離れたくなくて腕に力を入れる。
「はいはい。ちょっと待って」
「や〜」
首の下の熱がなくなって、少し硬い感触に変わった。
「これじゃない〜」
「わかってるっての。ちょっと待て」
「や〜」
冷たくて硬い感触が嫌で私は創司くんに抱きついた。
「ほれ。いいぞ」
「ん〜」
力を抜いて重力に従うと、少し硬い、けれど、あったかい枕に触れた。
「んにゃ〜」
「ネコ化が止まんねえな」
「もっと〜」
「はいはい」
手を伸ばすと、創司くんが近づいてきた。
最初はついばむように。熱が入ってきたら深く、深く。
「んぁ……」
離れて欲しくない。このまま、もっと深く。もっと奥へ――。
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