アフター46 「いや、服くらい着なよ」
ホテルに着いた私たちはチェックインを済ませて36階の部屋に向かう。
正直、ホテルなんて寝て起きる場所なだけだからどこも変わらないんだけど、創司くんと一緒だとそんな考えは吹き飛んでしまう。
ちなみに晩ごはんは食べ放題。時間いっぱい使ってお腹いっぱいまで食べ切って少し散歩してからホテルに入った。
「まだ腹、膨らんでるな」
創司くんが後ろから抱きついて私のお腹を撫でた。
「ちょっと食べ過ぎたとは思ってるよね」
「あれだけ食べればなあ」
カルビにホルモン、ロース3皿ずつ、それにお寿司に石焼ビビンバ、ステーキもあったっけ。あ、パスタも3種類食べた。
もちろんそれ以外にもジャーマンポテトとか、ウィンナーのチーズ巻きとか細々したのも食べたから満足度はすごく高かった。
「あそこ、次行くときはみんなで行こうね」
「動けるくらいにはセーブしろよ?」
「それは……みんな次第かなあ」
エレベータを降りてカードキーと一緒に渡された紙に書かれた番号の部屋まで歩いていく。
「ここ?」
「みたいだな」
「あ、開けるの私がやりたい」
「はいはい」
カードキーをかざしてドアを開ける。
都会のホテルだけど、中は思ったよりも広々としていて、一晩しか泊まらないのが惜しいくらい居心地がいい。
とりあえずまずはベッドにダイブ。
「とう!」
ばふん!と飛び込んだ私の身体がスプリングで跳ねる。
「コートくらい脱げば?」
「ん」
ダブルベッドにごろんと仰向けにすると、創司くんがコートのボタンを外してくれる。
「ずっと気になってたけど、やっぱサイズ上がった?」
「ん?あ〜……うん。また上がった」
創司くんの手が私の胸に触れた。
「パッと見てわかる?」
「まあ、な。コートのボタンもそうだけど、セーターの主張がすごいことになってるぞ」
「え?そうかな?」
結構ぴったりしてるヤツだし、元々こういうデザインだと思ってたんだけど。
そう言われてみればこのセーター着てると、いろんな人の視線を感じるような気がしなくもない。
「着ない方がいい?」
「いや?似合ってるし、着たらダメってことはない」
「ふうん?」
てっきり「着ないで」くらい言われるかと思ったからちょっと拍子抜けしてしまった。
「やっぱり大きい方がいい?」
最近わかってきたけど、創司くんは結構好みがバラバラっぽい。
雫は全身安眠枕で、霞はお尻。麻衣はお姉ちゃんで、零奈はお嬢様。乃愛は……声?って言ってたかな。
私?私は……言わなくてももうわかるでしょ。
ふにふにと柔らかく揉まれていると、だんだん気持ち良くなってくる。
「ふあ……」
自分でも驚くくらいの甘い声も出てきちゃってなんだか恥ずかしい。
高校のときから散々みんなにいじられてきたけど、創司くんが触ると何かが違うんだよね。
「……先に風呂行くか。なんか止まらなくなりそうだし」
そう言って創司くんが胸から手を離した。
「……」
ここまでして?ってのと、お風呂には入りたいな、ってのが入り混じってなんとも言えない気分になる。
「そんな顔しなくても。一緒に入ればいいだろ」
「う……」
双子と一緒に入ってるからって自然に誘いやがって……!
……あれ?そういえば順番で麻衣も乃愛とも入ってるんだっけ?楓は……いつも違う女の子とっ捕まえて食べてるし、あ、そういえば花音もこの前一緒に入ったとか言ってたっけ?
あのマンションに住んでるヤツらみんな貞操観念ぶっ壊れてるんじゃないの!?
「ほれ、ぬぎぬぎしましょうね〜」
不幸なことに今は創司くんと2人きり。
いつものメンツの誰かがいれば文句の言いようもあるけど、ここには文句を言えそうな子は誰もいない。
「ほい。じゃあ、行くぞ」
行き場のない感情をどこに向けようか迷っているうちに、私は文字通り丸裸にされて客室内の露天風呂へ。
「ふ〜……」
あれよあれよ、という間に身体と髪を洗われ、ちゃぽん、と湯船に入ってしまえば、その感情も霧散してしまった。
「って!違うよ!」
「どうした?」
さっきは触れるくらいの力加減だったのに、私の後ろから抱きかかえるようにしてふにふにと優しい力加減で揉んでる創司くんの手を叩いた。
けど、叩いたのはいいものの、「どうした?」なんて言われたところで創司くんが悪いわけじゃない。どっちかって言うと、悪いのはウチらの方。むしろ創司くんは被害者だよね。うん、確実にそうだ。
ってことで、叩き落した手を元の位置に戻す。
「戻すんかい」
「ん。もっと――じゃない。んあ!?」
言った瞬間、創司くんの手に力が入って私の口から甘い声が出た。
「ここ、外」
「わ、わかってるよ!出ちゃうんだからしょうがないでしょ!?」
っていうか、耳元で囁くように言わないで欲しい。なんだか背筋がゾクゾクしてきちゃう。
「あんまりやるとのぼせそうだな。よっと」
「わっ」
肩までお湯に浸かってた身体が創司くんに引っ張り出されて湯舟のフチに座らされた。
冬のキンと冷えた空気が気づかないうちに火照った身体を冷やしてくれる。
「露天風呂だからほどほどにしないとな」
「ほんとだよ。『昨日はお楽しみでしたね。うふふ』とかフロントで言われなくないよ」
火照った身体が冷えてきて私はまた湯舟の中に身体を沈める。
「はふ~」
温まって冷やしてまた温まる。
この無限ループができるのが露天風呂の醍醐味だと思う。
創司くんは思い出したみたい身体を流しにシャワーのところへ。
「そんなに物欲しそうに見なくても」
「見てないよ!?」
「はいはい。あとでな」
ホントに物欲しそうには見てない。見てないったら見てない。
あっという間に創司くんは身体と頭を洗い終えて私がいる湯舟の方に戻ってきた。
「早くない?ちゃんと洗ったの?」
「男なんてこんなもんだぞ。気になるなら洗ってくれてもいいけど」
「……」
いや、待てよ。私。
一瞬、それもそっか。って思っちゃったけど、絶対それだけじゃ止まらなくなる。いや、止まるとか止まらないとかじゃなくて!
「くくく……」
戻ってきた創司くんがまた私を抱えて自分の膝の上に乗せた。
もう定位置と化してるから、双子もみんなも特に何も言ってこない。
創司くんの手がまた私の胸に伸びてきた。ふにふにと創司くんの指の動きに従って形を変える。
「飽きない?双子のも散々触ってるでしょ」
「不思議なことに飽きねえ。なんでだろうな」
まあ、私も自分のはアレだけど、雫とかぺったんに格下げした乃愛とかのを触って遊んでるから創司くんのことはあんまり強く言えないんだけど。
たまに先っぽを触られて身体が反応するけど、創司くんはそれもお構いなし。
下からすくい上げたり、たぷたぷさせてみたり、やわやわと揉んでみたりと、ホントにただ触ってるだけ。
もちろん、その先に進むことはあるけど、こうしてるときは別にそんな気にならない。
「ん……」
まあ?たまにこんな感じで声が出ちゃうことはあるけど。
「そういや」
「ん?」
創司くんがおもむろに立ち上がった。
私を抱えて。
「ちょっ!?」
「大丈夫大丈夫」
「なにが!?」
「ほれ。下。夜景」
ざぶざぶとお湯の中を歩いて創司くんはやや下に目をやった。
私も創司くんの視線を追いかける。
「……」
夜景なんかホテルに来ればいつでも見られる。
そう思ってたけど、この日ばかりは違った。
イルミネーションやビルの照明が舞い散る雪に反射して星屑のよう。さらに空もこれまた地上の光を反射して、まるで星の雲の中から流れ星が降ってきてるみたいな、幻想的な光景が広がっていた。
「あとで撮って送ってやるか。羨ましがるだろ」
創司くんの言葉に私は首を振った。
「ん~ん。これはこのままにしておいて」
なにも着ていないことを忘れて、私はこの光景をしばらく目に焼き付けた。
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