アフター44 「口から漏れてたなんて気付かないよ!?」
「こういうのとかどう?」
立ち寄ったショップで試着してみた服を創司くんに見せてみる。
「う〜ん……いや、見てるしなあ」
思った通り、創司くんの反応は芳しくない。
「そもそも薫さんが持ちすぎなんだよな。なんであんなに持ってんだよ」
「作ってるって言ったじゃん。冬の祭典?戦場?に行って着るんだって」
「あ〜……そういやそんなこと言ってたっけ」
試着室のカーテンを閉めて着替えて来てきた服に着替える。
「今年も行くんだって?」
「みたい。去年は『終わらない〜』って言ってたのに、今年は『もう終わった』って」
「やっぱ暇人大学生は違うな」
「って言われたくないから就活やってるんだって」
カーテンを開けて試着済みのカゴに試着した服を入れて、創司くんのところに戻る。
ちなみにその薫さん、すでに4ゲットして次のターゲットの品定めをしてるとか。
私の感覚だと、一人あたり2回戦はしてるはず。だからすでに少なくとも8回戦?体力がヤバすぎて笑えるレベルを超えて真顔になっちゃいそうだ。
「就活じゃなくてママ活だっけ?じゃねえの?面接ってなんの面接してるのか知らねえけど」
「かなあ?ママ活ってのがよくわからないけど、なぜか貢がれてるって言ってたね。あ、これとかどう?」
クリスマスだからコスプレしてみようと思って立ち寄ったんだけど、思った以上にフツーのしかない。
ミニスカサンタとかトナカイなんて着すぎて飽きちゃったし。
「もう市販のレベルは一通りやってんだろ。それこそ全身タイツ以外は」
「全身タイツかぁ……」
ない、って言ったらウソなんだけど、正直面白味もなんもないから着たくないんだよなぁ〜。
「着て欲しい?」
「いや、全く」
「……」
じゃあ、なんで言ったの?
って思ったけど、たぶん創司くんが思いついたのがそれしかなかったんだろうな。
「別にコスプレなんかしなくていいんじゃねえの?ハロウィンじゃないんだし」
「え〜」
サンタコスのコーナーを見てもホントに長袖長ズボンか、ミニスカサンタくらいしかない。水着っぽいのもあるけど、ついこの前みんなで着たばっかりだし、なんだかなあ。
「ミニスカじゃなかったら?」
「あ〜……それはないかもな」
着たらパンツが見えそうなくらい短いミニスカサンタの服を見ての逆転の発想。これならウチにあるバスローブでできそうな気がする。スカートじゃなくてパンツタイプでもいいかもしれない。
「でもいい感じのあるか?この中に」
「……」
手に取って見てみるけど、やっぱりフツーなんだよなあ。まあ市販品だからしょうがないと言えばそこまでなんだけど。
「全裸に絵の具で塗るのはほのかがやったんだっけ?」
「そうそう。最初すっごいくすぐったくてしょうがなかったんだけど、途中からなんか気持ち良くなってきたって」
「アイツ、まだ引き出しあったんだな」
私も聞いたときは、開発され尽くされたほのかに?って思った。けど、その後何かで「再開発」って見て納得したのを覚えてる。
「いくらでもあるんじゃない?ほら、ずっと工事が終わらないとこみたいにさ」
「都会のターミナル駅かよ」
一通り見てみたけど、やっぱり目に入ったものでいい感じなブツは見つからなかった。
「どうしよっかな~。妥協する?」
「着るのは涼だろ」
「そうだけどさあ~。――って、ん?」
私の目に気になるポップが目に入った。
「わ。『人をダメにする』シリーズだって!」
「ダメってもうダメだろ。いろんな意味で」
創司くんの手を引いてそのポップのコーナーに近づいてみる。
「わあ~……!」
なんていうか、真っ黒。ベッドも机も、ラックもぜーんぶ真っ黒。唯一、真っ黒じゃないのは、ベッドの上にどーん!と鎮座してるおっきいクッションだけ。ホントにそれ以外はぜーんぶ黒。
なんならベッドに横たわってる人形さんも黒だし、着ている服も黒。よく見ると、アタマから手のつま先、足のつま先までこれ一つで完結してる。
もしかして最高の部屋着じゃない?
「トイレとかどーすんだ?これ」
「あ、後ろにチャックがあるよ」
腰を横にぶった切るようにつけられたチャックを指すと、創司くんがそのチャックを開けた。
腰の部分だけ開けられたその服は重力に従ってまるで座ってるかのような体勢に早変わり。なにこれ、すごい!
「よく出来てんなあ」
「ね。すごくない!?」
「これで外は歩けねえぞ?」
「わかってるよ!?」
そのくらいわかってる。この服で外なんか出たら確実に不審者だもん。
「ああ。みんなでコレやりたいってことか」
創司くんはそう言ってポップのキメポーズをしてる人のところを指した。
「そうそう!」
「不審者戦隊ダメレンジャー、か」
「酷すぎない!?」
良いところ1つもないじゃん!
「でも上下まとめて1つになってこの値段か。意外と悪くないかもな」
「でしょ?」
値段を見た創司くんは私を見た。
「でもいいのか?全身タイツでもない、サンタでもなければトナカイでもないけど」
「だってほかに選択肢ないじゃん」
「これでプレゼントは私って?」
「やんないやんない」
そんなことしたら確実に笑いものにされてしまう。ただでさえ見た目がアレなのに。
私は首を振って否定した。
「あ、でも2人で一緒にダメになるのはいいでしょ?」
「いや、勝手に俺もダメにするなよ。俺はそっち側じゃない」
「え~?そんなことないと思うけどなあ」
「違うっての」
創司くんは2着手に取って片方を私に渡した。
「とりあえず試着だな」
「ん」
買い物を済ませた私たちは目的のイベント会場に向かう。
「やっぱ考えることはみんな一緒だな」
列の一番後ろにつくと創司くんが言った。
「この中のどのくらいが暗闇に紛れてやるのかね?」
「やらないよ!?」
プラネタリウムまで来てその後ちょっとリッチなホテルに行くんだよ?そこまで段取りしてあるのに、プラネタリウムでするわけがない。……ないよね?
創司くんのコートの中に入ったままの手に創司くんの手が絡まる。
「っ!」
「――気が早いんじゃね?」
「っ!?」
あ~……もう!なに反応してんの!?身体!!
指先も耳も実は弱いってバレてるからこういうことされるとホントに困る。
「カップルシートまで予約しちゃって」
「そんなつもりは1ミリもないんだけど!?」
いや、まあ?手をつないで……くらいは?考えたし、なんなら抱き着いて見ようかな~くらいは考えてるけど……――ハッ!?
「なるほどなぁ~。つまりイチャイチャしたいと」
「い、言ってない!!言ってないから!!」
なんで!?なんでバレてんの!?おかしいよ!?
寒いはずなのに、私の服の中は真夏くらいに暑い。コートのボタンを開けて冷たい空気を送り込む。
「ふ~……なんかヘンな汗かいちゃったじゃん!」
そう言ってみるけど、創司くんはケラケラ笑って私の頭を撫でるだけ。
「まあまあ。いいじゃん」
「全然よくないんだけど!」
なんて言ってると、列が動き出した。
いよいよ、待ちに待ったプラネタリウム。クリスマス限定の回ってことで結構人気で予約じゃないと入れないって知ってすぐに予約を入れたら取れちゃったんだよね。
映画館とは違う、天井まで広がるスクリーンが見えるようにレイアウトされたシートに腰を下ろす。
「おお……」
まだなんにも映ってない、真っ白な天井を見上げて創司くんが声を出した。
「すげえな。これ」
「ね。んしょっと」
コートを脱いで創司くんをイス代わりにするようにして座ると、すぐにお腹に創司くんの手が回ってきた。
「気が早いんじゃない?」
「ちょうどいい抱き枕が乗っかってきただけだろ」
「もう……」
私は掛け布団代わりに脱いだコートを自分の身体にかけた。
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