アフター43 「双子には勝てそうもないなあ」
いい雰囲気の喫茶店を出た私たちは、雪が降る外に繰り出した。
「やー!クリスマスって感じ!」
地面に足を付けると新雪のふわふわした感触がブーツを通り越して伝わってくる。
「あんまりはしゃぐとコケるぞ」
「大丈夫だいじょ――っとぉ!?」
言われたそばから足を滑らせた私はとっさに創司くんの腕に捕まった。
「ほら見ろ。言わんこっちゃない」
「ふへへ……」
そのままさりげなく創司くんのコートに手を入れてみる。雫とか霞がよくやってるのを見てたからやってみたかったんだよね。
「あったか」
喫茶店から出たばっかりなのに、すぐに冷えてしまった手がぽかぽか。ついでに心もぽかぽか。
霞の友達って認識のときから手を繋いでたから、それ自体は慣れたものなんだけど、彼女ってなると気持ち的にはぜんぜん違う。
「そりゃそうだろ。ほれ」
「うぶっ!?」
ほっこりした気分でいると、ぺしっと顔に何かを叩きつけられた。白い何かでなにも見えなくなったけど……って!
「あつつ!?」
なに!?なんか熱いんだけど!?
「ん?ああ、熱かったか?ほれ」
白い四角いのが離れた。よく見たら使い捨てのカイロがあった。そりゃあったかいわ。
「ずっと持ってたの?」
「持ってねえと両腕塞がるからな。この間雪降っただろ?食材がなくなったから買い物に行くってんで出かけたら、帰りがけに雫がすっ転んで霞と俺も巻き込まれてなぁ〜。ヒデェ目にあった」
「『ん。痛い』って?」
創司くんは「そうそう」と頷いた。
双子は創司くんと恋人関係になってから一緒に出かけることが多くなったらしい。と言っても、ウチらと同じ順番の枠の中にいるから、順番じゃなければなにもしないで帰ってくるんだって。
1番の被害者(?)の創司くんが言ってるから、間違いない。
「もちろん霞はブチ切れ。雫は罰として見てるだけの刑に処された」
「うわぁ……」
霞っていつもハリセンボンみたいにツンツンしてるんだけど、創司くんだけにはデレてんだよね。
雫の話だともっとデロデロに溶けたみたいなデレを見せるらしいんだけど……それを見てるだけ?なんか想像するだけでなんていうか……。
「うわぁ……」ってなるよね。うん。
零奈と一緒のときだって私のターンじゃないときずっと見せられてたけど、零奈もずっとデレモードで、ずっとチュッチュしてたし。
……あれ?それってもしかして見せつけたのかな?違うか。違うな。ついで、みたいな感じじゃなくてガチな雰囲気のキスを私にもしてきたし。
創司くんのコートのポケットに手を入れて中でニギニギしながらそんなことを考えながら私たちは街の中を歩く。
「で?目的はまだ時間あるんだろ?」
しばらく歩いてると創司くんが聞いてきた。
「うん。それまではお買い物かな」
「……今回は下着コーナーに行かないよな?」
創司くんが恐る恐るって感じで聞いてきた。
「行かないけど、行く?すぐそこだよ?」
「いや、行かなくていい。マジで」
「でもこの時期はいつも行ってるんじゃない?」
「だからこそってのもある」
人通りが増えてきて、周りを歩く人もカップルが多くなってきた。仲良く手を繋いでる人たちはいるけど、私みたいに彼氏のコートのポケットに手を入れてる子はいない。
たまに通り過ぎていくカップルが私の手の先を見て羨ましそうな視線を送ってくるけど、羨ましいならやればいいのに。
あ、またこっちを見てきた!
目が合った子にドヤ顔を決めてみせると、闘争心に火が付いたみたい。彼氏の上着のポケットに手を突っ込んだ。急に上着のポケットに手を入れられて彼氏はビックリしてるのが面白くて笑ってしまった。
「見せつけなくてもよかったんじゃね?」
「――っ!?」
耳元で囁かれて私は飛び上がった。
っていうか、もしかして全部見られてた!?
「そんな顔しなくても全部見てたから安心しろ」
「ぜんぜん安心できないんだけど!?なんで見てるの!?」
あー!もう!!顔から火が出そうなくらい恥ずかしい!!
この場から今すぐにでも逃げたいけど、創司くんに手を握られてて逃げられない!
「くっ!なんで!」
創司くんはケラケラ笑って私を引っ張った。
「どこ行くってんだよ?帰っても何もないだろ?」
「う……」
そうだった。お昼もなんなら夜ご飯もいらないって言ったんだった……。なにやってんの、朝の私……。
いや、しょうがない。朝は久しぶりに創司くんに逢えるって浮き足立ってたし、帰るつもりだってぜんぜんなかったんだから。
「こ、コンビニが――!」
「雫が聞いたら締め上げられるな」
「ぐぅ……!」
ズルい!ここで雫を出すのはズルい!!
「ついでに逃げたら薫さんにも探してもらうことになるけど、それでもいいか?」
「……」
おのれ!おのれえええ!!!
薫になんか捕まったらなにされるかわかってて聞いてるでしょ!?
「なにされるかなあ?緊縛プレイが最近のトレンドって言ってたけど、クックック……」
「き、きんばく……?」
悪い笑みを浮かべてる創司くんになんのことかわからない私はつい聞いてしまう。
けど、創司くんはニヤッと笑うだけでそれ以上のことはなにも言わない。
――いや、なんでなにも言わないの?
って思うけど、逆だったら知らなかったとしても私も言わないから聞くに聞けない。
「ぐぐぐ……!」
くっそ!もう!
完全に八つ当たりってわかってるけど、創司くんにぶつけるしかない。
思いっきりグーで肩を叩いたけど、創司くんには全く効果ナシ。くそぅ……。モコモコの服なんて着やがってぇ!
ぽすっ!ぽすっ!と完全に無効化されてるけど、それでも叩かずにはいられない。
「それよりいいのか?時間。買い物するんだろ?」
創司くんが時計を見せてきた。次の用事まで少しだけ買い物をするつもりだったけど、あんまり時間がなさそう。
「行く!行きます!」
私は創司くんの手を引いて近くのデパートに入った。
繁華街のデパートってのもあって、中はたくさんの人でごった返していた。
「すげえ人だな、おい」
「ね」
人の流れに乗れなかった人たちにぶつからないように歩くのでやっとなくらいの人混み。はぐれないように創司くんの腕に抱き着くように掴まる。
通りすぎていく人は外と違って、カップルもいれば一人で来ている人もいる。
「で?目的の場所は?」
「3階!」
入り口から少し入ったところにあるエスカレーターに乗って私たちは3階へ。
「そういえば創司くんって冬はエスカレーターで触ったりしてないよね?」
「触る?ああ、これ?」
「っ!?」
するんっと私のお尻を撫でてきた。私もなんだかんだ結構触られるようになって慣れてきたけど、こういう不意打ちみたいなのには声が出そうになるくらい弱い。
「もうっ!今やれって言ってないでしょ!?」
「やってほしいのかと思ったんだけど?」
いや、まあ。そうなんだけど。いや、そうじゃなくて!ん?いや、そうなんだけど……今じゃないんだよ!!
なんて混乱しながら声に出したら完全にヘンタイ扱いされる言葉を飲み込んで私は創司くんの腕に頭突きで八つ当たり。
「地味に痛いっての」
「今じゃないんだもん!」
「……あーね」
創司くんに伝わったらしい。
「いや、だって涼はさ。冬はもっこもこじゃん」
「もっこもこ?」
「今もさ」
そう言われて視線を下に。ついでに触られたばかりのお尻にも手を当ててみる。
「で、霞を思い出してみろよ。カワイイはガマン!を地で行ってるだろ」
「あ~……」
もう一度触ってみる。たしかに、触っても上着でガードされてて触っても手に伝わる感触はほとんど上着だけ。
「雫は?違うよね?」
「アイツもアイツで店に入ったら前開けてるだろ」
そうだっけ?
自然過ぎてまったく気づかなかった……。ハッ!まさかもしかしてそこまでできて正妻になれるってこと!?
「なに考えてるか手に取るようにわかるけど、違うからな」
「違うの?」
「まったく違う」
あれぇ?おかしいな。
私は首を傾げながら、創司くんは笑いながらデパートの中を探索していく。
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