アフター38 「ドヘンタイな大騒ぎは突然に」
――バタン
ドアが閉まると、創司くんはわたしの方を見て言った。
「忘れ物はないよな?」
「うん。バッグから出したのさっきのメイクだけだし。っていうか、そういうのって出る前に聞くんじゃないの?」
創司くんからカードキーを受け取って、一番奥の部屋からエレベーターホールに向かって誰もいない廊下を進む。
「出る前は自分でイヤってほど確認するだろ?」
「まあそうだけど」
いつも双子もそうやってるのかな。乃愛と一緒にいると、あの子、何でもかんでもわたしに任せるから毎回何かする度に確認が当たり前になってるんだよね。
「ふ。そっちは苦労してそうだな」
ため息が出そうになったのを創司くんに見られてた。ホント、乃愛は誰かいないと危なくてしょうがない。
「ホントにね」
創司くんの腕に抱き着くように絡めて進むと、誰もいないエレベーターホールにたどり着いた。
「あんまこういうとこって来ねえけど、マジで誰とも会わねえんだな。フツーのホテルとかだと誰かしらいるのに」
エレベーターのボタンを押して創司くんがつぶやいた。
「こんなとこで鉢合わせしたら気まずいでしょ。ここでほのかとかと鉢合わせしたって考えてみな。すっごい気まずいから」
「……たしかに。アイツのヘンタイプレイを語られるのは勘弁願いたい」
プレイって……言い方。まあ、口を開けばそのことしか言わないようになっちゃったからなあ。
――……あの2人。ちゃんと続けられるのかな。不安になってきた。
「ほのかか~。あの2人、仲良くやってんのかね?」
創司くんも同じことを思ったらしい。エレベーターのボタンを押してから聞いてきた。
「どうだろ?たまに連絡は来るけど」
ほのかも大学に進んだけど、わたしたちが通う場所からは結構離れている。涼や零奈と違って、実家からも通える距離でもなく、ここからも通えない距離ってこともあって、今は彼氏と同棲してる。
「そろそろ彼氏が就活って言ってたっけ」
「あ~……そんなくらいか。前に聞いたときは院に行くって言ってたけどな」
「そうなの?」
ほのかとウチらが繋がってるように、創司くんは創司くんでほのかの彼氏とやり取りをしてるらしい。
なんでも「別れることは許さない。開発したんだから責任は持て」とかなんとか。双子も揃って彼氏に迫ったとかで彼氏はビビってたみたいだけど……。
「あのヘンタイ、さらに症状が進んでなきゃいいけどな。彼氏もどこまで行けばいいかわかんねえって言いはじめてるし」
「……コメントに困る言い方はやめて」
あの2人の救いどころは「まだ」子ども騒ぎをしてないってところかな。ウチらもウチらで若干、誰が最初か問題はありそうだけど。
まあ、そこは雫が何とかしてくれる……はず。
ふと、そういえばほのかが何か言おうとしてたのを思い出した。
それが通話だったか、メッセージだったかは忘れたけど、何か言いかけてたっけ。
それがなにかを確認しようとスマホを出そうとしたところでガタガタッ!と建付けの悪いエレベーターのドアが開いた。
1階に着いて部屋のカードキーを機械の中に入れたらそのまま外へ。朝の眩しい光が目を刺してくる。
「ん~~~~~!!」
思いっきり伸びをして朝の空気を身体に入れると、なんだか新鮮な気分になった。そういう場所なだけあって道路は汚れてるし、ビルの前にはおっきなゴミ袋が置いてあってスッキリとは程遠いけど、気分はいつもよりいい。
「朝飯どうする?」
と創司くん。
「ん〜……」
いつもなら創司くんと双子の部屋に行ってみんなで食べるんだけど、外泊したとあってまだ何も食べてない。
さすがに2回もお腹の音を聞かれたくはないわたしは近くのファストフードのお店を指した。
「軽くあそこで食べて、帰ったら雫に食べさせてもらお」
「あいよ」
――雫に食べさせてもらう……?
なんの意図もなく言った言葉だけど、ふと夜の出来事が頭をよぎった。
「それにしても創司くんにあーゆー趣味があったなんて知らなかったな」
「あ?」
一瞬言葉の意味がわからなかったのか創司くんは首を傾げた。
「まいーまいーっての。めっちゃかわいかった。またやろうね?」
「……」
創司くんの顔をのぞき込むと、逃げるように視線をそらした。
「やっぱノリでやるべきじゃなかったな」
「またまた~。その割には楽しんでたじゃん。ご主人様からお姉ちゃんまで」
「……」
創司くんと行く前に、バレー部のみんなで女子会として何回か使ったのが役に立つとは思わなかった。詳しいことは言わないけど、何事も準備って大事だね。
昨日開き直ったのもあっていつも以上に気分がスッキリしてる。
「……やっぱ経験者は違うな。ルームキーを返すときだって迷うことなかったし」
「まあね。そりゃそうよ」
高校時代を含め、このあたりでそういうことをしようとしたら場所なんて片手で数えるくらいしかない。ハジメテのときこそ当時の彼の家だったけど、それ以外はほとんどがこの辺界隈だった。
ぶっちゃけ、庭。勝手知ったるなんとか?ってヤツ。
って、そうか。はじめてならカードキーの返し方だって迷うか。
改めて自分の経験の多さにモヤッとする。
「別にいいだろ。おかげで俺は満足したし」
ポン、とアタマに手を置かれてわたしは顔を上げた。
「そう?」
「なんか誘導された感はあるけど、悪くなかった。アイツらはそういうのナシで欲望のまま襲ってくるから」
「あ~……ね」
双子もなんだかんだ付き合う前はセーブしてたし、お嬢様ズは色欲に興味深々だったもんねえ。特に涼は高校で散々弄ばれたし。
「でも零奈はそんなでもなかったんじゃないの?」
「って思うだろ?でも涼より先に全部脱いだからな。やっぱ抑えつけるのはダメだな。次が怖すぎる」
「へえ~」
あの子もやるときはやるんだねえ。お姉さんちょっと感心。
今度会ったときは褒めてあげないと、と思ってると、バッグの中から振動してるのを感じた。
すぐに収まったからメッセージだと思うけど、ちょうどお店に着いてしまった。
「何食うか決めた?」
「まだに決まってんじゃん」
スマホのアプリからクーポンの一覧を呼び出す。と、またメッセージの通知。
「どうした?」
「ほのかからメッセが来てるんだけど……」
「見ればいいじゃねえか」
「いや、だってまだ決めてないし」
と言ってる間にもさらにメッセージが入ってきた。連投なんてほのかにしては珍しい。
「別に飯は後でもいいだろ。麻衣の腹が悲鳴を上げるだけだし」
「だけって言うな!」
バシッと叩いたけど、創司くんはケタケタ笑うだけ。
くっそ、ムカつく~!自分は恥ずかしくないからって笑いやがって!
「ほら、いいから早く見ろって。その様子だと面倒ごとだぞ」
「はいはい」
わたしは積み上がる通知をタップしてほのかからのメッセージ画面を開いた。
「――え?」
「どうした?」
スマホの画面を見たまま固まってると、創司くんがのぞき込んできた。
「『アイツと別れた。そっちに行くからよろしく』……?なんだこりゃ?」
冗談だと思った。けど、その先に続くメッセージが冗談にしてはちょっと笑えない雰囲気を感じ取った。
「来てんのって麻衣だけ?」
「……みたい」
送られてきたメッセージはバレー部のグループではなく、わたしとの個人用。明らかにみんなに知られたくない様子。
「こっちに来るって言われてもな。乃愛がいるの知ってるだろ?」
「――のはずなんだけどね。どうしよ。」
「とりあえずテキトーに買ってくるから連絡してみれば?その方がいいだろ」
「……そう、だね。わかった」
わたしは創司くんを残してお店を出た。
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