アフター31 「原点回帰」
「も……う……ムリ……」
聞こえるか聞こえないかのギリギリの枯れた声を出して枕に顔から突っ込んだ。
白旗を上げる余裕すらない。
2人がかりなのにも拘らず、完全に体力で負けた。
「ふう……ふう……はあ……」
創司の息遣いが聞こえる。
「思ったよりタフだな。涼はすぐ落ちたってのに」
「当たり前……でしょ。タフじゃなきゃ弓道なんてできないっての」
仰向けになると、キスが落ちてきた。
「ん……」
ベッドのシーツはびっしょびしょ。不快感極まりないけど、今は動く気力すらない。
「ま、また……先越された……」
わたしと涼の間に創司が倒れ込んだところで真っ白な世界から戻ってきたらしい涼の声が聞こえてきた。
「策に溺れたな」
創司とわたしにツッコまれると、涼は「うごご……」とナゾのうめき声を上げた。
「自業自得でしょ。先に取らないでわたしを倒す方に意識が行ってんだもん」
「その方がゆっくり楽しめると思ったの!」
「俺は楽しめたけどな」
シレッと言った創司に涼はジトっと湿った視線を送る。
たしかに創司は涼の身体をあっちこっち弄り回して反応を楽しんでた気がする。……まあ、わたしも人のこと言えないけど。
「にしても涼の。急にデカくなったなあ」
「霞もだけど、まな板か壁、よくて丘だっただろ」と失礼この上ない言葉で胸を指した。
「んふ。でしょ?もうぺったんこじゃないよ!」
「ほれほれ」と涼は創司の腕を谷間に入れてドヤ顔を決める。
争奪戦になると度々話題になる胸の話題だけど、序列は結構入れ替わった。
トップは相変わらず雫。
この前触らせてもらったけど、思わず顔を谷間に入れてしまうくらい触ってて気持ちがいい。なんていうか……そう。魔性の柔らかさ。そんな感じ。
創司のお気に入り枕ポジション第2位。ちなみにいうまでもなく1位は雫の膝枕。3位はお尻だとか。太ももといい、お尻といい、創司は雫を枕にし過ぎだと思う。
けど、やってみるとわかる。どれもアタマを乗せただけで勝てる気がまるでしない。雫と比べられる霞が不憫に感じてしまうくらい絶対的な何かがある。
次が楓。
詳しいことは聞いてないけど、彼女?に揉んでもらったりなんかイロイロされてるから、とかなんとか言ってた。そんなのでそこまで大きくなるのか不思議でしょうがない。触ってみたけど、雫とは違ってハリがあって、揉むと指を押し返してくるような、弾力があった。
で、3番目が涼。
バレー部の面々を一気にぶち抜いて今は涼が3番目。散々弄ばれてその反動が出たとかなんとか。薫さんとほぼ同じくらいのサイズだけど、触った感触はソフトテニスのボールって感じ。触るか触らないかギリギリの位置で反応するからいじって遊ぶならやっぱり涼が一番かな、と思う。
あとは4番目にわたし、5番目に霞、そこから麻衣、乃愛と続く。
全員のを触ってみたけど、わたし的には雫より楓の方が好みかなあ。……いや、雫もなかなか……。
そんなことを考えてると、創司を挟んで向こう側で遊んでる涼の動きが気になってきた。
いや、正確には自在に形を変えてる涼の胸に。
上下に創司の腕を挟んでうりうりやってる涼だけど、弱点を攻撃されないように腕でガードしてる。
過去の経験がにじみ出てて思わず笑いそうになったわたしはダルさが抜けた身体を起こした。
「どうした?」
起き上がったわたしに創司が聞いてきた。涼も視線だけわたしに向けてくる。
「初心に帰ろう思って」
双子と一緒に暮らしてる創司。
周囲にいるのはあのヘンタイバレー部。ただれた生活をしてるとは思わないけど、一歩間違えれば落ちるところまで落ちてしまうみんなだから、ここら辺で原点回帰が必要な気がしてきた。
創司をお風呂に引っ張りこんでシャワーを浴びる。火照った熱を逃がすように、あえてお湯ではなく、水に近い温度の方で。
シャワーから出た後は、汗とよくわからないなにかでべとべとになった服を絨毯の上に置いて、ラブホに入る前に買ってきた服に着替える。
コスプレじゃない。ごくごくフツーでいつも着るのより少しオシャレなヤツ。
パンツもブラも奇をてらわない、いつも使っているのと同系統で日常の雰囲気をそのままに。
一連の流れに涼が生まれた姿のままぽかんとしてる間にベッドにわずかに残ったキレイな場所に座ってわたしは太ももを叩いた。
「なるほどなあ。たしかに初心を忘れてたかも」
そう言って創司はわたしの太ももに頭を乗せた。
ラブホって場所がアレだけど、創司にはこれだけで伝わる。
「あ~……浄化される~」
「なに言ってんの」
目を閉じてそんなことを言ってる創司に苦笑しながらわたしは彼の髪を撫でる。
「最近雫も押せ押せになってきててな。たぶん霞に感化されてんだろうけど」
「へえ」
あの雫がグイグイ寄ってくる?
珍しい、というか初めて聞く言葉にわたしは驚いた。
「どんなふうに?」
「あ~……なんだ?口では表現できねえ」
「どうして?」
「くっついてくるって言ってもわかんねえだろ?」
「いつものことじゃないの?」
「そうじゃねえんだよなあ」
ホントに口では表現できないらしい。
ただ、まあ……一緒に日課という名のスパルタ特訓に付き合わせてただけの霞が急にデレモードになってそれを見せられてる状況になってるのは想像できる気がする。
「ちゃんと雫も構ってあげてる?」
「一応な。それなりには」
わたしは思わずため息を吐いた。
「高校と同じかそれ以上には構ってあげないと」
「大学じゃずっと一緒だぞ」
「高校だってそうだったじゃん。霞を盾に、雫を剣にしてさ」
「はあ?そんなことしてねえけどな」
創司は知らないだろうけど、高校時代狙ってる子は結構いた。みんな1人になるタイミングを見計らって声をかけようとしてたけど、1人になりそうなタイミングになってはことごとく雫によってそのチャンスを潰されていた。
人によってはトラウマレベルのキズを負わされたみたいで、一時期は雫を視界に入れただけでビビってた子もいたっけ。
「ほのかとほのかの彼氏みたいに雫は創司じゃなきゃ制御できないから手放さないで。ウチらの心の安寧のためにも」
「あの2人と同レベルかよ……」
「やべえな」なんて言いながら創司はわたしのスカートの中に顔を入れた。
「あ~……懐かしい。これだよ。これ」
最初こそ恥ずかしかったけど、今となってはそこまででもなくなったこの膝枕。
「懐かしいってまだクリスマスから4カ月くらいしか経ってないよ?」
「そのくらい雫のヤツがヤバいんだよ。あ~……そうそう。やっぱ、こっちの方がいいわ」
真っ暗で何も見えないはずなんだけど、それのなにがいいのかわたしにはさっぱりわからない。
わたしからすれば、こうして無防備な姿をさらしてる方がちょっとかわいいかなって思っちゃうけど。
「このくらいいつもしてるでしょ?」
「してる」
即答。なんならちょっと食い気味なのがムカつく。
「なんか普通になり過ぎて新鮮味がねえんだよなあ。パンツが変わるって言ってもさすがに5年も見てるわけだし」
「……」
なんていうか、うん。言葉が出ない。
5年も見る方も見る方だけど、見せる雫もなかなかにイカレてるんじゃない?
「今はホラ。お前らもいるし。まあ、さすがにパンツの向こう側はアレだけど」
創司はそう言って文句、とまではいかないけど、モヤモヤを吐き出していく。
フツーに考えれば付け入る隙なんだろうけど、創司に限ってはそんな気にならない。というか、そんなことしたら雫からトラウマものの何かを植え付けられる。
そんな話をしてると、涼が寄ってきた。
その目はいつも以上に輝いていて、まるでいいことを思いついた子供のよう。
「それってさ」
涼が口を開く。
「私たちで膝枕すればいいってことじゃない!?」
わたしの口からはため息しか出なかった。
……涼は一度雫にトラウマを植え付けてもらった方がいいんじゃないかな。
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