アフター30 「ごちそうさま」

「あっ!ちょっ!」


抱き着いてきた涼の手から抜けようと零奈はもがく。


「よいではないか~よいではないか~」


高校時代なら難なく抜けられたはずなのに、気付いたときには時すでに遅し。


まあ、抱き着かれるだけならいい。ヘンタイバレー部に限らず抱き着くなんて女子同士なら別に何とも思わないし。というか、自分だってやる。


ただ。そう。ただ、ここ最近の涼は話が違う。


「あ!?ちょっ!そこはっ!!んんっ……!」


抱き着かれたら満足するまで身体のあちこちを触ってくるのだ。しかも、結構シャレにならないところまで。


「気持ちいい?」

「そんなわけないでしょ!!」

「正直になろ?ね?」


ふっ……と耳に息を吹きかけられると、身体が反応してしまう。


そんな趣味ないのに、反応する身体が恨めしい。


高校のとき散々弄ばれたからって自分まで巻き込まなくてもいいじゃない。


そう思う零奈だが、涼の手はその言葉を出す余裕すら与えてくれない。


「ん!んん!!」


真っ白になりそうな意識をなんとかとどめて、口から出そうになった声を手で押し込む。


創司にされるならいいけど、涼にされるのは納得がいかない。


「ほらほら、もうちょっと。創司くんに見せてあげて」

「だれっ!がっ!んん!!」


おのれ、薫さんめ!自分は楽しいからってこんなこと吹き込まなくても――!!


「んん〜〜〜!!!」


3回目。


――もう!見てないで助けてよ!!


わたしはソファーに座ってる創司を睨んだ。


「ラブホに行ってみたいって言うから何かと思ったら、本来の目的で使うつもりだったのかよ」


と創司。テーブルに頬杖をついてわたしたちを眺めてる。


「そうだよ?3番目は私って言っておいたのに、約束破っちゃうんだもん」

「そんな約束してねえだろ……」


むくれる涼に創司はため息を吐いた。


「つーか、ここでいいのか?」

「いいよ。自分の部屋だと片付け大変みたいだし、ホテルとか旅館はなんかアレじゃん」

「アレ、ねえ。零奈は?」

「……今さら変えられる?」


はあ……はあ……と漏れる息に混じって出てきた言葉は実質上のギブアップ宣言。


寸止めを5回もされて積み重なったところに立て続けに飛ばされたらさすがに力も入らない。


もうどうでもいい。涼に見られるのはシャクだけど、背に腹は変えられない。


……っていうか、涼はこんなの毎日やられたの?


「零奈ちん。これでへばってたら薫さんにあっという間に食べられちゃうよ?」

「ほのかにもな」

「……」


ほのか、かあ。


久しぶりに出た名前に懐かしい気分になる。


バレー部の中でぶっちぎりの変態枠。


かわいい顔な上にスタイルもいい。なのに、服の中は――うん。深くは突っ込まない方がいいかな。


彼氏について行ったけど、そういえばどうしてるんだろう。


「ほのかね〜。なんかこの前彼氏が逃げようとしたって」


涼がわたしの頭を膝の上に乗せて言った。


「へえ。ムリだってわかってるのに?」

「わかってるのにって。たまにはまともな子がいいって」

「……気持ちはわからないでもない、な」


創司の目が遠くなったのがわかる。


「ね。しょうがないからウチで染まってない子を引っ張ってあげたんだ」

「かわいそうに」


創司はヨヨヨ……と袖で目を拭うマネをした。


「せっかく脱出できたと思ったのに、行き先がアレか……」

「泣いて喜んでたよ?」


さも自分は悪くないみたいに言う涼。師匠がアレなら弟子もアレないい例が垣間見えた気がする。


「それいつの話?」


だいぶ落ち着いてきたわたしは涼に聞いてみた。


「いつだっけ?」

「去年の秋くらいじゃなかったっけ?ほら。霞にアラートメッセージが来たって言って」

「そだそだ。秋だ」

「アラートメッセージ?」


詳しく聞くと、ほのかの彼氏とバレー部のみんなはいつも使ってるメッセージアプリとは別のアプリで繋がってるらしい。


普段は使わないけど、どうしても限界になったら使うように、ってことで用意された専用回線だとか。


今までも何回か使われたらしいけど、詳しくは聞かなかった。なんとなくだけど、聞いたらよくない気がする。


「で、さっき近況を聞いたの」

「近況?彼氏のか?」

「ん〜ん。連れてった子」


なんかイヤな予感がする。


涼はまだ気怠さが残るわたしの服のボタンを片手でプチプチ外しながらもう片方の手でスマホを取り出した。


「これかな。はい」


と、涼は創司にスマホを渡した。


「あ?え〜……ん?あ?『最高の空間でした。ありがとうございました』って……」

「薫さんはすっごい悔しがってた」

「あの人屈服させるの好きだもんなあ」


創司はそう言いながら立ち上がってわたしたちがいるベッドに近づいてきた。


「で、4番目も譲るのか?」


創司の手がわたしの頭に触れた。涼の手とは違う、硬くて分厚い手。触れるだけじゃなくて撫でて欲しくてわたしは頭を動かす。


「まさか。これ以上はダメに決まってるじゃん」


涼はそう言って創司の唇を奪った。


水音がするくらい深くて濃いキス。


「うわ……」


見ちゃいけない、と思えば思うほど、釘付けになってしまう光景。


創司の手が涼の腰に回ると、さらに深くなる。


「ふあ……」


漏れ出た涼の声は今まで聞いたことがないくらい甘い。


しばらくして2人は離れた。2人を繋ぐ銀色の線が艶かしく光る。


「ふ。霞があーなるのわかるかも」

「そうか?」

「ぜんっぜん違うもん。もう一瞬のヤツじゃダメかも」

「勘弁して――うむっ!?」


潤んだ目で涼はさらに口付ける。


勢いがついてたみたいで、創司が押し倒された。


「はあ……はあ……」


と涼の熱を帯びた息遣いと深いキスの水音が部屋の中に充満していく。


膝枕が動いてのしかかられるような体勢になって動けなくなっていた零奈は2人の間からなんとか抜け出す。


「ふう……」


一息ついて2人の方に目を向けると、涼が創司の上に乗っかったまままだキスをしてる。


その光景を見て零奈は思う。


――ズルい。


と。


自分は散々わたしの身体をいじくり回したくせに、と。


零奈は突き動かされるようにキスに夢中になってる涼のスカートに手を伸ばす。


めくっても涼はこっちに気付かない。


そこで零奈の思考はフル回転。


――これってもしかしてイケちゃうんじゃない?


導き出した答えに従って手を伸ばす。


まずは創司。別に気をてらう必要はない。準備は涼がしてくれた。


想定どおり創司の方はすぐ終わった。


次は涼。


パンツ丸出しになったお尻を指でなぞる。


「んん!?」


ビクビクッ!っといい反応を返してくれた。


涼がこっちを見ようと顔を動かそうとしたけど、創司の後ろに回したまま倒れてしまったせいで動けない。


チャンス!とばかりに零奈はパンツの真ん中ちょっと下、楕円の形に色が変わってる場所の境目をなぞる。


「んんっ!!」


涼の身体が跳ねる。


零奈の手はさらに追撃を重ねる。さっきやられたことをそのまま返すように。涼が焦らして焦らして腰が動いちゃうくらい我慢させるくらい弱い刺激を与え、限界が来そうなタイミングで創司が強い刺激を与えた。


「んん〜〜〜〜!!」


涼の声は創司が飲み込んでくれる。


3回ほどやったところで零奈は涼の上に乗っかって創司と短いキス。


言葉はない。


視線で聞いてきただけ。


――いいのか?あとで怒られても知らないぞ。


と。


零奈は視線で答えた。


――そんなの今さら。最初に手を出した方が悪い。


そんな会話をしてる間も零奈は涼への攻撃を止めない。


「んん〜〜〜!!」


涼のくぐもった声が響く。


そろそろいいかな。


零奈はビクビク跳ねる涼の耳元に顔を近づけて一言。


「ごちそうさま。」

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