アフター25 「廊下で油を売ってます」
乃愛が女子会とは名ばかりの合コンでやさぐれてるほぼ同時間。
なぜかアタシは涼の家に呼び出されていた。
「……ねえ。マジでやんの?」
「やる!だってこの機会逃したら次はゴールデンウイークか、もしかしたら夏休みまで先になっちゃうし!」
「はあ……」
いや、まあ、そうなんだけどね?
せっせと準備をしてる薫を横目にアタシはため息を吐いた。
「だからってアタシを呼び出さなくてもよくない?」
「審判!今日は薫もやる側だし!最後?までやったからいいじゃんって薫が」
「ふうん」
よくわかんないけどそう言うことらしい。や、マジでわかんないんだけど。
「って薫も?」
「うん。なんか面白そうって」
「ええ?」
何をやろうとしてんのかわかってて準備してるんだよね?アレかな。姉妹丼ならぬ主従丼?創司のヤツ、枯れるんじゃないの?
そこはかとない不安がよぎるけど、今さら引き返せない。
「いいけどさ~。別によくない?どうせアンタはこのままでいけば3番目でしょ?やんなくても――」
「や。そこはちゃんとしとこうかなって」
涼からそんな言葉が出てくるとは思わなかったアタシは驚いてしまった。
「ってことで準備手伝ってくる!」
「はいはい」
ステテテーと薫の方に向かう涼に手を振った。
「……3番目の座はもうないんじゃないかなあ」
誰もいなくなった涼の部屋でアタシはつぶやいた。
にしても最後までやった、ね。
覚えてないわけじゃないけど、言われて改めて実感する。
創司のモノになったんだなあって。
「ふふ……」
ヤバい。嬉しくて頬が緩んじゃう。
「んん!……ふへ」
咳払いでごまかしてみるけど、ダメ。思った以上に受け止めてくれた創司がかっこよくってもうダメだわ。
アタシは顔を手で覆って天を仰ぐ。
「は~……ダメだわ。ま~じでダメ」
「やーだ。にやけちゃって。見ました?奥さん」
「見ました見ました。あの霞がねえ。恋する乙女ってヤバいね。は~早く恋しないと」
「っ!?」
絶叫が喉元まで出かかった。
「創司くんにツンケンしてたのって好きの裏返しだったんだねえ。知ってたけど」
「家だと違うらしいよ?特に創司くんが寝てるとき」
「え~?なにそれ?寝込みを襲う的な?」
声がする方に視線を向けると、ドアの向こうから顔だけ出してる麻衣と花音の姿があった。
「や。そこはホラ。チキンな霞だからできないの。精々腕枕とか抱き枕?でしょ?」
「……」
「で、雫が見かねて最初を譲ったって話なんだけど、知ってた?」
「……」
ドアの向こうから麻衣がアタシに向かって指をさした。
「アンタらいつから……」
無意識で出た言葉に麻衣が首を傾げた。
「ん?いつからって涼が出てったところから?」
「バッチリ証拠も押さえたよ!」
そう言って花音がスマホの画面を向ける。近づいてみると、メッセージアプリの画面。
アタシは花音のスマホを握る。
「送った?」
ギシッとスマホからは聞こえるはずのない音が聞こえた気がするけど無視。自分が見ても気持ち悪い顔してるのに、そんなの創司に見られたら死んでしまう。
そんなアタシに花音はニヤっと悪い笑みを浮かべた。
「もち。創司くんの返事も来てるけど見る?」
相変わらず手が早い花音にアタシは睨むしかない。
「なに?もう送っちゃったの?」
「だってこんな霞早々見れないよ?麻衣にも送っとく?」
「送っといて」
「ほーい」
花音は手早く操作して麻衣にも送った。
「ちょっと。なに人の顔送ってんの」
「いいじゃん。減るモンじゃなし」
「ね~」と花音と麻衣は揃って肩を抱き合った。
「ね~じゃないし。ってか、麻衣。アンタ彼氏は?」
つい最近付き合いはじめたって聞いたのに、麻衣には男の気配みたいなのがなくなっていた。
「捨てた~」
「は?」
「だって聞いてよ!」
そこから麻衣の愚痴が延々1時間以上続くとはこのときのアタシは想像もしなかった。
「ほい。準備できたからはじめるよ~」
麻衣の愚痴の嵐から救い出してくれたのは、薫の一言だった。
薫の声を聞いた麻衣と花音はさっさと部屋を出てしまい、薫とアタシだけが残された。
「ふ~ん」
「なに」
上から下まで舐めるようにジロジロ見てくる薫にアタシは怪訝な顔を向けた。
「や。べっつに~」
明らかに何かありそうだけど、聞いても答えてくれなさそうな薫も先に部屋を出た。
なんとなく心当たりが見つかった気がしてアタシは部屋を出て先を歩くメイドに向かって声を出してみる。
「もしかしてアンタもまだ――むぐっ!」
薫の手がアタシの口を塞いだ。珍しい薫の反応にアタシの方もビックリしてしまった。
「気にしてないから。そう、別に先に行かれたとか思ってないから」
文字通り一歩間違えれば口と口がぶつかりそうな距離でアタシに向かって薫はそんなセリフを吐いた。
「だったら――」
「わたしが3番目になれば少なくとも同時。だからセーフ」
なにがセーフなのか聞いてみたいけど、目がぐるぐるの薫に聞くのは悪手な気がしてアタシは自分の口に両手でバツを作った。
なんとなくキスを意識してるような仕草になってしまったのを薫が見逃すわけもなく。
「ん?なあに?して欲しいの?」
「ち、ちがっ!」
創司としてから容赦がなくなった薫の手がアタシの耳元に伸びてくる。
気付かなかったけど、背中には壁が、足と足の間に薫の足があって逃げようにも逃げられない。
スッと耳元に入ってきた柔らかい手。ちょっと気持ちいいなって思ってしまうのがタチが悪い。
「ふ。大丈夫。優しくしてあげるから」
「そういう問題じゃ――」
ヤバい!ヤバいって!!
薫の瞳に映るアタシの顔がどんどん大きくなってくる。
もう逃げられない!
と思ったところでアタシは目をつぶった。
「はいかーっと!」
あと数ミリってところでスパーン!といい音が廊下に響いた。
「いった~……なにすんの!あとちょっとだったのに!」
薫の声に目を開けると、麻衣と花音、涼の3人がいた。
「ぜんぜん来ないからどこで油売ってんのかと思ったらこんなとこで――!」
すぱーん!と2回目の快音が響いた。
「いたー!痛いって!ってかそのスリッパどこの!?」
聞いたことないくらいいい音が出るな、と思ったら振りぬいた涼の手にスリッパがあった。
「教えるわけないじゃん!ばかっ!」
3回目の快音と4発目の構えに薫はついにアタシから離れた。
「惜しかった?」
逃げる薫に追いかけるスリッパを力が抜けたアタシに麻衣がニヤニヤしながら聞いてきた。
「んなわけないでしょ」
麻衣の手を借りてアタシはなんとか立ち上がった。
――ちゅ
ほんの一瞬。目の前が暗くなったと思ったら聞こえた音。
「ふ。これって間接キスになるかな」
「は……」
してやったりの顔をしてる麻衣にアタシの頭は真っ白になる。
「あれ。まだ欲しい?しょうがないなあ」
真っ白で何も考えられないところに今度は花音が近づいて奪ってく。
「ふあ」
「あ~あ。もうとろけちゃって。その顔で創司くんに言ったの?」
腰砕けになったアタシを麻衣が後ろから抱えながら聞いてくるけど、アタマが真っ白で相手をする余裕はない。
「創司くんの理性ヤバすぎだね。こんなんで寄って来られたらムリでしょ。ってかわたしがムリ」
ぷちぷちとなにかが外されていく。
「ちょっ……なに……」
ああ、ダメ。こんなんじゃ火が付いたコイツらに油を注ぐだけだ。
わかってるのに抵抗できないカラダが恨めしい。
「はいはい。優しくしますからね~」
花音の優しい言い方とキスにさらに力が抜ける。
「こんなの趣味じゃないのにぃ~……」
「はいはい。知ってる知ってる」
なんとか絞り出したのに、花音は服と一緒にあっさり流してしまった。
審判?それどころじゃないっての。まったく……。
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