アフター23 「鳥肌モノの合コンとあったかな寒空」
「はい!じゃあ、みんな揃ったので、かんぱーい!」
「「カンパーイ!!」」
と、グラスを持った手を上げたけど、すでに早く帰りたくなってきた。
あ、どうも。乃愛でーっす!
年明けに大学の子たちと女子会をやろうって話で来たんだけど、目の前になぜか呼んでもない、というか邪魔な男子が5匹ほどいてガン萎えしてまーっす!
乾杯だからってしょうがなく一口チビっと口に入れたけど、クッソまずでした~!
「はあ……」
もうね。ため息しか出ない。
創司くんはクリスマスに親子丼ならぬ姉妹丼、というか、双子丼を食べさせられて、「じゃあ、次は誰?」ってなってるときにこんなクソ……ゲフン。ゴミみたいな集まりに参加させられてます。
「はあ……」
涼と霞とそのほかの愉快なドヘンタイたちは雁首揃えて「3位は誰だ選手権」とかいう意味が分からないけど、ちょっとおもしろそうな大会を涼ん家で開いてるって言うのに……。
ため息を吐きながら主催者の方を見る。向かいの男子と楽しそうに笑っててまーじでムカつく。
目的は男なのが丸わかりで気持ち悪さしかない。ついでに男もそっち系だから送られてくる視線がまとわりつくようで鳥肌が立ちそう。
周囲を見てみると、私と同じように居心地が悪そうにしてる子がチラホラ。
どうやら私以外にも女子会って名目で誘われた子がいるっぽい。当然だけど、その子たちの雰囲気も最悪。いつ帰る?みたいな視線を送りあってる。
あれ?合コンってそーゆーのだっけ?いい男を見つけてあわよくば~ってヤツじゃなかった?
まあ、わたしはそんなの関係ないんだけど。
揃いも揃って何か話そうとしてる男子のことは無視。女子だけが固まって輪を作って男子の方には顔も目も向けない完全な城塞が出来上がっていた。
「はあ……」
つっまんな。いや、あの輪に入れば面白いのかもしれないけど、合コンに来てまで女子だけで話すってなんだかなあ。しかも知らない子ばっかだし。知ったところで興味ないし。
もうね。疎外感とかそういうレベルじゃない。完全アウェー。少しでも興味も出ればまだマシだけど、もうゼロ。タダ飯だから来たけど、もうこの際何も食べずに一刻も早く帰りたい。
会話よりもクソみたいなモノローグがほとんどを占めてるって何?こんなんじゃ読者逃げちゃうんだけど。
――なんか誰か急用を作ってくんないかなあ~。
と、ぼんやり外に目を向けた。
「ん?」
「なに?どうかした?」
あれ?なんか見知った顔が見えた気がしたんだけど、気のせい……?
「あれ?ちょっと。乃愛ちゃん?」
横で誰かが呼んでる気がするけど、無視。正直今のわたしは香水臭いガキを相手する余裕はない。
テキトーに受け流してからもう一度目を凝らして窓の外に目を向ける。
背中を向けてるカップルのような雰囲気の2人。ともすると夫婦にすら見えるんだけど、明らかに誰かを待ってるようだ。
「外に何か?」
急に耳元近くで聞こえてきた声にとっさに距離を取る。
「ビックリした~……急にやめてください」
「ごめんごめん。なんかずっと一人だったから気になってさ」
なんか相手してあげました感が強いセリフ。ただでさえ気分的にささくれ立ってんのに、さらに火を注いでくれる。
けど、こう見えても一応オトナ。
顔に出ないように気遣いつつ、返事をしておく。
「あ~……あの子に呼ばれたから来たんだけど、ほかの子たちと面識なくてね~」
まあ、こう言いながらジリジリ距離は取るんだけどね。
あ~……マジでキモい。ついでに香水付けすぎで臭い。こんなヤツと一緒にご飯なんて食べたら吐きそうになるんだけど。
と、カバンの中から振動を感じた。メッセージの着信ではない長い振動。電話?
「あ、ごめんなさい。ちょっと電話っぽいんで……」
「どうぞどうぞ~」
一応いるよアピールのためにマフラーだけ置いてカバンとスマホを手に外に出る。
「もしも――」
「ん。お姉さん今ヒマ?」
「し」と最後まで言う前に女の人の声が聞こえてきた。
言葉だけ見れば新手のナンパのようにも聞こえるその声にわたしはため息を吐いた。
「雫……」
ひらひら振ってるだけなのになんだか助かった気分になる。
「ん。呼ばれてないけど飛び出てジャジャジャジャーン」
そう言って雫は私の目の前に来た。はっちゃけたセリフなのに無表情なのがシュールすぎてちょっと笑ってしまう。
「ん。目論見通り」
そんな雫の頭に後ろから手刀が落とされた。
「呼ばれてねえのに飛び出んなよ。迷惑だろ」
「ん。痛い……」
頭を押さえる雫にケチを付けたのは創司くん。
クリスマスイブとクリスマスに双子の襲撃を食らって年末を筋肉痛で棒に振ったみたいだけど、ようやく動けるようになったっぽい。
「大丈夫?」
「ん。ソウくんのは地味に痛い」
雫は頭を押さえながらそう答えるんだけど、まったく痛そうに見えない。
「雫じゃなくて創司くんに聞いたんだけど」
「むう……」
コートの袖でバシバシやってくる雫を止めながら創司くんを見る。
「一応、な。次はもうダメだ」
そう言って創司くんはおじいさんみたいに腰をトントン叩いた。
「ん。ダメじゃない。がんばれば何でもできる」
「そうか。なら、じゃあ、ガマンをがんばれ」
両手で小さくガッツポーズをしてふんすと鼻息を荒くしてる雫に創司くんは静かに返した。
「ん。それとこれとは話が違う」
「まあ、お前は1万歩譲っていいとしても、霞はねえわ」
「あ~……」
たしかに。霞は運動バカだから体力が尋常じゃないもんね……。
「ってかマフラー取ってこい。寒いだろ」
創司くんはそう言って私の手にカイロを当てた。
コートは出る寸前に着たけど、やっぱり寒いものは寒い。冷えた手が創司くんとカイロに挟まれてじんわりと温かくなる。
「も、もうちょっと」
ちょっとしたことなんだけど、こーゆーのでも滅多にない機会なので、わたしはちょっと欲張りになってみる。
「そのもうちょっとってのが長えんだよなあ」
なんて言いつつも創司くんはそのままにしてくれる。
や~。これですよ。これ。わかる?さっきの男子との差。もうね、比べるのもおごかましいのよ。
なにより触られてるのが気持ちいいし、あっためようとこすり合わせてるのも乃愛的にポイント高いですね~。あ、フツーの男子だったらそもそもこんなことさせませんけど~。
「む……。ソウくん――」
「お前は自分のがあるだろうが。俺からぶんどったのが」
「むう……」
雫もやってほしかったんだろうなあ。と思うんだけど、普段ずっと一緒にいるせいでバレバレな雫がかわいい。
創司くんの手から少しだけ離れて両手のカイロで雫の顔を挟む。
「んむ?」
「創司くんの代わりってことで」
「んむむむ……!!」
ご希望通りにこね回してあげたら、不満そうな声が聞こえてきた。
それがなんだか可笑しくてつい気が済むまでやってしまった。
「じゃあ、マフラー取ってくるね」
「あいよ」
「むう。削り取られた」
十分とは言えないけど、ほどよく温まったところでわたしは店内に戻る。
「乃愛ちゃん――」
「ごめんなさい!ちょっと急用ができちゃったので帰ります!」
そう言ってわたしは自分が飲んだ分のお金だけ渡してさっさと店を出た。なんか聞こえたのは無視。もう永久に会わないし、会う気もないからいい。
「え!?ちょっ!」
後ろから声が聞こえた気がするけど、ドアが閉まればもう聞こえない。
「ふう。お待たせ」
「ん。待った」
「んでもって腹減った」
ぐぎゅるるるる~~っと雫のお腹からも文句が聞こえてきた。
「ん。ソウくん。今のは――」
「乃愛じゃねえな。騙されねえぞ」
「むう……」
創司くんの右は雫でふさがってる。左もふさがってるけど、今はそこに陣取る運動バカはいない。
これ幸いとわたしは創司くんの左側に立って腕に抱き着いた。
「創司くん。今日は鍋の気分」
完全に食べ損ねたけど、創司くんとならもっとおいしいものが食べられそうな気がしてオーダーしてみる。
「鍋?あ~……そういや掘りごたつで食える店があったっけ?」
「ん。ある。ここからだとちょっと歩くけど」
「じゃあ、そこにすっか」
外の空気はキンキンに冷えてる。
けれど、そんな外の空気とは対照的にわたしの心はどんどんあったかくなっていった。
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