アフター21 「プレゼントは――」

爽やかな昼。


雲一つない澄み渡った青い空を見上げたアタシはそんな風に思った。


「……」


や、そんなことないわ。


ってか、昼ってなに。朝じゃないの?こーゆーのって。


浮かんできたモノローグにセルフツッコミをし、さらに昨日の夜の出来事を思い出して頭を振った。


マジで何をやったのか覚えてない。覚えてるのはあっちこっち触ってきた涼の手を麻衣に移したとこまで。その先はモヤがかかったみたいになってて思い出せない。


ただ、気になるのがあって。なんかみんなに言われたんだよね。


「すみませんでした。勝てると思ってたウチらがおかしかったです」


って。


よくわかんないし、薫まで土下座しててちょっと気持ち悪かったのはここだけの話。


マジで記憶にないんだけど。なにやったんだろ?


そんなことを考えてるうちに気付いたらマンションの前まで来ていた。


雫が創司を独り占めする時間が終わる時間ぴったりになるまであと5分ちょっと。


エレベーターに乗って玄関のドアを開けるころにはちょうどいいくらいになってるだろう。


「さって。行くか」


アタシはエントランスに入ってエレベーターを呼ぶボタンを押した。


「ん。おかえり」


玄関のドアを開けて最初に会ったのは雫。昨日見たメイド服ではなく、部屋着にしてるワンピース姿でいつもの反応。


なんか拍子抜けするくらい普通で肩透かしを食らった気分になる。


「ん。どうかした?」

「別に。ただいま」


靴を脱いで定位置に置いてリビングに入る。


「時間ぴったりじゃねえか」


どこかから聞こえた創司の声を探してると、すぐそこのソファーに寝っ転がっていたのを見つけた。


「一応ルールだから」

「まあ、そうだけどよ」


創司の様子もいつもと変わらない。


もしかしてただ一緒にいたってだけ?


雫がキッチンから創司がいる場所に来た。


雫は創司の頭を自分の膝の上に乗せる。そのままでいるかと思ったら創司はワンピースのすそをめくってその中に入ってく。


高校時代からやってるナゾの習慣。


最初見たときには「何やってんだろう、このヘンタイは」って思ったけど、不思議なもので5年近く見てるとなんとも思わなくなってくる。


「ん」


雫がアタシになにか渡してきた。


「なにこれ」

「ん。プレゼント。クリスマスの」

「は?」


聞いてないんだけど。


そんなの今まで1度もなかったのに、急に渡してくるってなに?え?こっわ。


「ん。大丈夫。ちゃんとしたヤツだから」


アタシの反応が微妙だったのか、雫は付け加えるように言った。


「はあ」


大丈夫。ちゃんとしたヤツ。


不安しかないんだけど。


創司からはなんのコメントもない。なんなら寝息っぽいのが聞こえる。


もしかして寝てる?このタイミングで?


アタシはかわいいデザインのラッピングを丁寧に外す。


出てきたのは小さな箱。


手で包んでも隙間ができるくらいの大きさですごく軽い。


「空箱でしたってオチは――」

「ん。ない」

「ねえな。ちゃんと入れてたの見たし」

「ん」


雫のワンピースの中から創司の声が聞こえた。


寝てると思ってたけど、起きてたらしい。


「言っとくけど俺も雫も開けてねえぞ」

「そのくらいわかるっての」


どんだけ仕込みをやったと思ってんの。


そんな目を創司に向けたけど、ワンピースの中にいる創司には効果ナシ。


「まあ、開けてみろよ。話はそれからだ」

「そうだけど」


この2人のことだ。なんか仕込みしてるのは間違いない。


とりあえず振ってみる。


なんの感触もない。


「ふうん?」


ちなみに箱には何も書いてない。


まあ、書いてあればなにかわかっちゃうから当然と言えば当然だけど。


服を脱いでから開けてみる。


「なにこれ?」


中身を見たアタシの口から出た言葉はそれだけ。


「リボン?」

「ん。違う」


いや。違うってそれにしか見えないんだけど。


出してみると思ってたより長い。


ってか長すぎない?これ切って使うヤツじゃ――。


「ん。こうやって使う」


雫はそう言って手に取るとアタシの身体に巻き付けてきた。


「は?ちょっと?」


戸惑ってるアタシをよそに雫はどんどん進めていく。


「ん。そのまま」

「や。動けないんだけど」

「ん。そうなるようにしてるんだから当たり前」


意味がわからない。アタシを動けなくして何をしようとしてるんだろうか。この姉は。


「ちょっと創司?」

「あ?」

「見てないで止めてっての」

「いや、そこまでやって終わりって言っててな」

「はあ?」

「そういや昨日のアイツらどうなった?」


雫を放置することに決めた創司が話を逸らすように聞いてきた。


「昨日の?」

「昨日の。雫が蹴り入れてダンベル落っことしただろ?」

「ああ。3人組の?」

「そうそう」


そういえばそんなことあったっけ。


なんかいろいろあり過ぎて記憶の彼方に消し飛んでしまっていた。


「会長のお友達?が美味しくいただくって」

「会長?ああ、ハルさんか」


創司はそう言って少し間をおいて「そうか……そうか……」となんか遠い目になった。


「それがどうかした?」

「や。ちょっとな。薫さんからものすげえ感謝のメッセージが来てよ」

「はあ?」


「なにそれ?」と聞くと、創司はソファーから立ち上がってスマホを見せてきた。


「これ」

「なっが」


1画面に収まらないくらいの長文で何か書いてある。


「まあ、要約すると『感謝!圧倒的感謝!!』ってヤツだな。引き換えに人外を生んだ気がするけど」

「ん。尊い犠牲だった。でも、アレでソウくんが向こう側に連れてかれなくてよくなった」

「まあ、そう言われればそうだけど」


2人の間でアタシが知らない話をしてる。


ってか、創司が連れてかれるってなに?


なんか別の意味で怖い話を聞いた気がしてちょっと血の気が引いた。


「ん。できた」


雫はそう言ってアタシから離れた。


なんかガッチガチに縛られて動けないんだけど。


「雫。一応聞いとくけど、許可は取ってあるんだろうな?」

「ん。取ってると思う?」


「聞くまでもないだろ」みたいな反応しないで欲しい。しかもドヤ顔で。


「それにその話したとしても霞は素直になれないから結局変わらない。肝心なとこでツンを発揮してもしらける」


なんだか失礼なこと言われてない?


いや、まあ。肝心なところでやらかす可能性は否定しないけども。


ってちょっと待って?


「雫。アンタ、何の話してんの?」

「ん?」


雫はきょとんとした顔をした後、首を傾げた。


「ん。ソウくんへのプレゼントの話」

「は?ちょっと!?聞いてないんだけど!?」

「だよなあ」


だよなあ。じゃないんだけど!!なにこれ!?え!?プレゼント!?聞いてない!!マジで!!


「ちょっ!創司!?」

「いや、俺も知らなかったし。ってか、知らないうちに俺も用意させられてたんだな」

「ん。メインの後にちゃんとデザートも用意してあるって言った」

「……聞いたな。たしかに」


何を言ってるのかまるで理解できないアタシをよそに2人の会話は進んでいく。


「ん。ってことでデザート兼プレゼント」


雫はそう言ってアタシの背中を押した。


「は!?ちょっと!?聞いてないんだけど!?」

「ん。でも今聞いた。大丈夫。問題ない。ヨシ!」


大ありなんだけど!?全然ヨシ!じゃない!!ダメでしょ!!


創司はなんか考え込んでるし!!


どんどん進んでく展開に頭が付いていかない。逃げたいけど、ギッチギチに縛られて逃げるどころか動けない。


「雫!アンタ、まさか――!」

「ん。逃げられなければ覚悟決めるかなって」

「いや、プレゼントがデザートってどうなのよ?」

「……ん?」


考え込んでた創司の言葉に雫が止まった。


「プレゼントはわかる。デザートもわかる。同時に来てもまあわかる。別々ならな」

「ん。だから――」

「いや、それじゃこの組み合わせおかしくねえ?これじゃ霞だけプレゼントになるだろ」

「ちょっと待って?なんでアタシが――」

「ん。そう言われると思ってた。だからちゃんと用意してある。大丈夫。みんなが集まる夜まではまだ時間がある」

「ふうん?」


あれ?ちょっと待って?アタシの話は?


スッと影が出てきたと思ったら創司の顔が目の前に。


――ちゅ


それだけ。


たったそれだけでアタシの思考は吹き飛ばされた。


2回、3回とされて力が抜ける。


「ふあ」


ああ!ヘンな声が出た!逃げたい!!クッソ!動けない!!おのれ雫!!


「へえ。こりゃあいい」

「ん。でしょ?あ。これ邪魔だから取る」


ぷつっと何かの音が聞こえた。


「ん。ってことでソウくんどうぞ」

「ふあ」


雫に触れられてまた声が出た。


「創司」

「あ?」

「もっと」

「お前な……」


また触れる。


ほかの男子じゃこんなことできない。


どんなことをしても受け止めてくれる。加減が必要なくてそのままを受け止めてくれる。


そんな創司が好き。


言わないけど!絶対言わないけど!!


あ~……でも今はちょっと素直になろうかな。


「ん。たりなあい」

「煽り過ぎじゃね?」

「ん。まだ序の口。霞は私よりすごい」

「雫よりって……」


ちょっと。今はアタシのターンでしょ。


今度はアタシから。


雫のことなんか忘れさせてやる。


アタシはそう思いながら創司を引き寄せた。

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