アフター20 「この後なにがあったのかは覚えてないんだけど」
「うっま」
ちょうどいい塩加減にサイダーがドンピシャに合う。
「ふ。どーよ」
ドヤ顔を決める薫にアタシは目を向ける。
料理が作れてそのほかの家事もそつなくこなせて、見た目も結構いいはず。
なのに。そう。なのに、なんでこう……残念なのかなあ。
趣味が「涼『で』遊ぶ」と豪語してるメイドにアタシはため息を吐く。
「ちょっと?」
もしゃもしゃ食べながら残念なモノを見るような視線を送るアタシに薫が近寄ってきた。
「溜息吐きながらその勢いで食べないでくんない?」
1枚目のピザはすでに完食。2枚目が来る間の腹ごなしのフライドポテトだけど、コレがまたウマい。
別に勝負する気はないけど、何となく釈然としない。
「なんでこんなにウマいのにモテないの?」
たぶん告白とかされてると思うんだけど、薫からはそういう浮いた話を聞いたことは全くない。
あるとすれば武勇伝。
というか、武勇伝しかない。
「なんでってそりゃ今も進行中で黒歴史を積み上げてるからでしょ」
「黒歴史って言うほどじゃないけどなあ」
「じゃあ、大暴れした高校時代とあんま変わってないんじゃない?って話、する?」
乃愛の追撃に薫の動きが止まった。
「や、え?ちょっと待って?高校はちょっとやり過ぎた。うん。でも今はそうでもないよ?うん。そうでもない、はず」
「ホントに?5年後にやり過ぎたって言わない?」
さらなる乃愛の追撃に薫は目をそらした。
「……この話は止めようか」
そう言って薫は部屋から出ていった。
「心当たりあったね」
「むしろない方がおかしいと思うんだけど」
しばらくすると薫が戻ってきた。手には追加で頼んだピザとフライドポテトがある。
「ほい追加」
ドンと音がするくらい大きなピザ。4分割で違う具が乗せられていてこれまたおいしそう。
「うう……もう……ムリ……ダメぽ……」
手を伸ばしかけたところで涼がそんな声を出しながらフラフラと部屋に入ってきた。
「勉強辛い……もうイヤ……」
目の前のピザすら目に入らないくらいこってり絞られたようで、そのままアタシの膝の上に顔を突っ込むようにして倒れた。
「あ~霞だあ~」
涼はそう言ってアタシのお尻を撫でまわしてきた。
「ちょっと?食べてるのに撫でまわすの止めて」
「ふへへ」
聞いてないし。
ってか、撫で方が創司と同じでなんかアレなんだけど。
この中で一番変わったのは涼。
見た目、特に胸のサイズがぶっちぎりでサイズアップした、が変わったのもあるけど、中身も結構変わった。
今まではずっと受け身だったり、ドジっ子だったりってのが涼だったんだけど、薫によってそれが矯正された。
まあ、そのくらいだったらいい。けど、薫から別のも引き継いだらしく、その中でも特にヤバイのは――、
「ちょっ!パンツの中に指を入れるな!!」
「ふへへ……よいではないか。よいではないか~」
これ。
今までやられてたのをことごとく学習してたみたいで、下剋上よろしく隙あらばこうして触ってくる。
「んっ!?」
ヘンな声が出た。
ってか、こう……しかもタチが悪いことに力加減とかイロイロが絶妙で……うん。ヒッジョーによくない。
「あ~……やっぱ膝枕なら霞かなあ~。このスベスベの太ももとちょっと固いお尻。ずっと触ってられる」
「触んなとは言わないけど、今は止めて。あとパンツの中はライン越え」
「ムリ~」
手つきが創司のソレなんだけど、やってるのが涼なんだよねえ。はあ。なんで創司じゃないんだろ。
涼がどのタイミングで創司から触り方を教えてもらったのかは知らない。知らないけど、今その創司の触り方が涼に伝わって全員を腰砕けにさせてるのは間違いない。
「んっ!アンタ。いつ創司に教わったの?」
「教えなーい」
反応してしまう身体にムチを打ってアタシは涼に試みる。が、あっさり躱されて今度は胸を触られる。
「ちょっ!」
「ちっぱいだ」
「うっさいな!」
アンタもちょっと前まで同類だったくせに!!
「でも霞はこのくらいがちょうどいいと思うけどなあ」
ペタペタ聴診器を当てるように触れながら涼が言う。
「それはアンタが向こう側にいるからでしょ」
「そうだけど、ん~」
ひ、否定しないし……。いや、まあ、事実だからいいんだけど。
「創司くんも霞はそのままでいいって言ってたよ?」
「は?」
なにそれ。聞いてないんだけど。
「あ。これ言っちゃいけないヤツだった?」
「もう遅いでしょ」
麻衣のジト目が涼に向けられてるけど、本人は全く気にしてない。
「ならいっか。なんだっけ?大は小を兼ねないだっけ?」
「兼ねるじゃなくて?」
「じゃなくて。なんか創司くんがそんなこと言ってた」
「ふうん?なんだろね?」
乃愛と涼が首を傾げた。
アタシもなに言ってんの?って思ったけど、そんなのは一瞬。心当たりに行きついたアタシはつぶやいた。
「創司……アイツ。帰ったらしばく……」
創司の言葉の意味を理解したアタシは心の中で決意した。
おっきいのばっかだと飽きるからってことでしょ。はあ……。マジ切れそう。
いや、まあ、そんなことで別れるとかになるくらいならそれくらいいいんだけどさ。
ふと、毎日流れる芸能人のニュースで浮気だの不倫だの言ってるのを思い出した。
もしそんなので世間を騒がせてるんだとしたらあまりにバカすぎる。
「飽きられて捨てられたら元も子もないじゃんね」
「ふえ?」
「なんでもない」
まだ触ってる涼の手を麻衣に移してアタシは食べかけのピザを口に入れた。
「ふ……不意打ちはダメって言ったでしょ……」
一通り満足できるまで食べきったところで、涼の手で何回も身体をビックンビックンさせられた麻衣が息も絶え絶えにアタシを睨んできた。
「ちょうどいいところにいたアンタが悪い」
なんだか巻き込んだ言い方みたいになってしまったけど、ホントにたまたまそこにいただけだからしょうがない。
息を荒くして、涙目で顔を真っ赤に染めてる麻衣を見てるとなんだか誘われてるように見えてしまう。
「そんなに言うならアタシもやっていい?」
「いいわけないでしょ!?」
ふうん。なるほどね。
みんなが「麻衣は誘い受け」って言ってたのが理解できた気がする。
アタシが近づくと、麻衣は少し下がる。
嫌がってるように見えるけど、その目には何かを期待するような、そんな怪しい光。
「ふうん」
そう言ってアタシは一歩引く。
「へ?」
あまり経験がない反応だったらしい。
肩透かしを喰らったような声を麻衣が出した。
「なに?ダメなんでしょ?」
「ダメ……ってゆーか……」
麻衣にしては歯切れが悪い。
今までそんなこと気にしたこともなかったけど、見たことない麻衣の姿が新鮮に映る。
なんか新しい扉を開けた気がする。
涼が創司に倣ってやったならアタシだってやっていいよね?
「ひっ!」
創司にやられてるように麻衣のお尻を撫でると、麻衣の身体がゾワゾワ〜っと震えた。
「ちょっ!まっ!なんかヘン!!」
「はあ?」
脇腹をラインに沿ってゆるく撫でる。
「んんっ!?」
触れるか触れないか程度の力加減なのに、麻衣の身体は面白いくらいに反応する。
「へえ」
「ちょっ!もうムリ!ストップ!!」
「や。もうちょっとだけ」
「ムリ!ムリ!なんかヤバい!!」
麻衣がなんか言ってるけど無視。
アタシは麻衣がぐったりするまで続けた。
「はあ……はあ……薫」
「なに?」
動けなくなった麻衣が薫を呼んだ。
「霞が欲求不満みたい」
「は?」
欲求不満って。そんなんじゃないんだけど。
「ふうん?じゃあ。しよっか?」
アタシたちの様子を遠巻きに見ていた薫がアタシに近づいてくる。
「いいんだけど。ってかその手。気持ち悪い」
「大丈夫大丈夫。やるのは胸だけだから。おっきくなりたいでしょ?涼みたいに」
「ふえ?」
フライドポテトを口一杯に突っ込んだ涼が首を傾げた。
「いい。創司もこれでいいって言ってたし」
「まあまあ。そう言わずにね?」
「いいって――ちょ!?まっ!」
「隙あり!」
言い寄ってくる薫に気を取られてて乃愛に後ろから抱きしめられてしまった。
「さあ!薫!今がチャンス!!」
「あっ!ちょっ!あっ――!」
この後のことは覚えてない。
え?覚えてるだろって?
――……覚えてない。
覚えてないってば!!思い出させるなあ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます