アフター18 「混迷の女子会」
「どうだった?澪と穂波に挟まれて」
デロデロに酔っ払った穂波のお世話を澪と篝だけに任せるのも忍びなくて結局学校に泊まった翌日の朝。
アタシは創司の二の腕の裏を摘んだ。
「どうって別になんもねえぞ?」
「なんにも?」
「なんにも」
おかしいな。あんなに日照り過ぎて干からびそうって言ってたから創司と寝ていいって言ったのに。
「穂波はともかく澪ちゃんはシラフのときにしたいんだと」
「ふうん?そんなに酔ってなかったと思うけど」
「ん。私もそう思って聞いたら、思い出したらジタバタしちゃうくらいの経験が欲しいって。よくわかんないし、普通逆だと思うけど」
思い出したらジタバタしちゃうねえ。
大のオトナがそんな理想を持ってるなんてちょっと意外。
「まあ、澪ちゃんだからわからなくはないけどな」
なんて創司は言って伸びをした。
学校に登校してくる子たちの横を通ってアタシたちは駅を目指す。
次に来るのはたぶん半年後。澪と穂波にはその前に1回くらい会いたいなあ。
アタシはそう思いながら歩を進めた。
「ん。ソウくん1日行使券発動」
家に帰ってお昼を食べてちょっとしたくらいに雫がアタシに言ってきた。
「今から?明日じゃなくていいの?」
イブでも当日でもないタダの平日。
丸1日。つまるとこ24時間独占できるのを今から使うらしい。
「ん。いい。どうせ明日は混んでるから」
雫の雰囲気的に前から考えてたっぽい。
「別にいいけどさ。なんもしなくていいから」
ってことでアタシは手早く出かける準備をする。
ん~……今日は涼んとこかな~。
一応、麻衣と乃愛にも声をかけておいてっと。
時計に目をやるとちょうど短針が2を指して長針がてっぺんに来ていた。
「んじゃ、あしたのこの時間までね」
「ん」
アタシはスマホとちっちゃいバッグだけ持って外に出る。
「ごゆっくり~」
手を振る雫がドアの向こうに隠れるまで見届けると、アタシはマンションを出た。
「さって。んじゃ、どうしよっかな」
真っ直ぐ涼の家に行っても面白くないし、と思ったアタシは駅前まで出る。
と、前に見知った2人の背中が目に入った。
女の子同士なのにやけに距離が近い。
アタシはそんな2人に近づく。
「あれ。霞?」
「やっほ~」
最初に気付いた葵に手を振る。
「ん?彼氏くんは?」
一緒にいると思ったんだろう。葵はアタシの周囲を見回した。
「彼氏?」
首を傾げるアタシに葵も首を傾げた。
「彼氏じゃないの?」
「彼氏……う~ん?」
そういえばアタシと創司の関係ってなんだろう?
幼馴染といえばそうだけど、でも幼馴染と言うにはその一線を越えてるような気がする。
じゃあ、彼氏彼女の関係かって言われればなんか違う。
別に好きとか言ってないし、創司から聞いた覚えもない。
「あれ?ちょっと?どうしたの?」
「や、付き合ってる……わけじゃない……と思う」
「はあ?」
葵が怪訝な顔をするのも無理はない。アタシだって今の状況をほかの人から聞いたら同じ反応するし。
なんか隣で肩を揺らしてるバカがいるけど、今は無視。
葵に聞かれてスッと答えが出なかったのが腑に落ちなくてモヤモヤが溜まっていく。
「なんだろね?わかんないけど」
「ええ?」
「霞だなあ」
と、そこで楓がようやく声を出した。
なんかまるで全部わかってますよって感じに頭をポンポンしてくるのがひっじょーにムカつく。
「学校でキスしまくってデレ100パーセントかと思ったらまだ余力が残ってたんだ」
「は?」
「は!?ちょっと何それ詳しく」
楓の一言に目を輝かせた葵に引っ張られてアタシは近くの喫茶店に入れられた。
「ふーん?もう付き合ってんじゃん。ねえ?」
気付くと最初から最後まで吐き出していたアタシに葵は言った。
「や。付き合ってないでしょ。おまけがいるし」
雫が聞いたらブチ切れそうだけど、ここにはいないから大丈夫。
「創司くんのとこは複雑なんだよ」
楓がアタシをフォローするように葵に言った。
「中学で離れ離れになって高校で元通り、かと思ったらその上を超えて同じ屋根の下だよ?朝から晩どころか、おはようからおやすみまで一緒」
「それよ。ぶっ飛び過ぎじゃない?いくらなんでも」
「そうかなあ?」
そう言われるとそうなのかな?って思うけど、別にウチならあり得ない話でもない、ってか実際にあった話なので、アタシは首を傾げた。
「ってか、高校男子が女子2人の間に挟まれて何も起こらないって方が不思議なんだけど」
「起こらないってか起こる気力も湧かなかったんじゃないかなあ」
アタシが倒れるギリギリまで練習に付き合わせるから、なんていう暇はなく。
「……あ。そっか」
「おい。悟んな。今どこに目を向けた」
少し間をおいて視線を少し下に落とした葵の足を蹴った。
「いった!」
痛がる葵に楓も苦笑い。
「言っとくけど創司くんは板でも丘でも山でも気にしないよ?」
「え?でも高校男子ってそこくらいしかなくない?」
「そこが創司くんが創司くんたる所以だよねえ」
「ね」
頷きあう楓とアタシに葵は首を傾げた。
「ええ?違うの?」
「違うね」
「ぜんっぜん」
「意味わかんないんだけど」
クスクス笑いあうアタシたちに葵は頬を膨らませた。
ひょんなことからはじまった女子会に麻衣と乃愛が加わったのはそれからしばらく経ってから。
「涼から連絡あった?」
「あった。大丈夫って」
パタンとスマホを閉じてカバンの中に入れた乃愛。その横には葵と楓と同じくらいの距離感な麻衣がいる。
この前ふと気になって付き合ってるのか聞いたら、お互いに顔を見合わせてケタケタ笑い出したんだよね。
そういえばあのときの答えってなんだったっけ?
「や~涼んちか~久しぶりだな~」
「って言って1か月経ってないでしょ」
葵は2杯目のフラッペを吸い込んだ。
……豚骨ラーメンと同じくらいのカロリーだったと思うんだけど、どこで帳消しするんだろ?
ふと、アタシにそんな疑問が湧き上がる。
「いる?」
「や。いい」
アタシは向けられたストローを返した。
「雫はどこまでするって?」
「聞いてない。ってか、聞いたらどこまでしていいか聞かれるでしょ」
「たしかに。ん~……ここは最後までに1ステーキ」
乃愛が言い出すと、麻衣が考え始めた。
「1ステーキ?そんなに?」
「ちょっと?」
「手堅過ぎない?コスプレも入るに5食べ放題」
楓がスッと手を挙げた。
「コスプレ!?あるのっ!?」
「雫はある」
なんか葵の目が輝いてんだけど。どこにそんなスイッチあった?ってか、なんで楓は知ってんの?
「ミニスカナースからロングスカートのクラシックメイドまで一通り揃ってる」
「……マジ?」
「マジ。今度借りてこようか?」
楓は葵の耳元でささやくように言った。
「……うん」
ちょっと?なんでそこ赤くなってんのかな?
「楓はステーキじゃなくて葵を食べて」
「言われなくてもおいしくいただくよ。ね?」
だから。なんで真昼間のこの時間にそんな話に行くわけ?
ってか、楓もドヤ顔で返すんじゃないよ。
――って言いたいけど、言ったらからかわれるのが目に見えてるからここは黙っておく。
「ん~ステーキ……や、フラッペくらいかなあ」
麻衣はまだ考えてるし。
真昼間の喫茶店の一角でアタシは天井を見上げた。
「どうしてこうなった……」
パッと見れば美人にかわいい子まで揃ってるこのテーブル。
でもその実態は一人の男子に一喜一憂してる女子4人とそのうち一人の女子と付き合ってる女子。
あまりにカオスすぎて笑ってしまう。
「霞。考えるだけムダだよ。みんなアンタほどじゃないけど直感で生きてるだけだから」
「知ってる」
この中で一番マトモな乃愛だって人のこと言えないもんね。
「はあ……」
でもこれでいい。付き合ってるかどうかがうやむやになったし。
ただ、アタシの中には少しだけモヤモヤしたものが残った。
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