アフター17 「ブルーベリー」

んあ「わかってると思うから一応言っとくけどさ。ここ学校。不純異性交遊するなら学校の敷地の外でやってくんない?」


穂波が紙コップを握りつぶしながらアタシたちに向かって言った。


「ん。穂波の口からそんな言葉が出るとは思わなかった」

「や、これでも教師。わかる?指導する立場なの」

「ワイン片手に下着姿で言うセリフじゃねえな」


まだピクンピクン体を震わせてる涼の胸をまさぐりながら創司が返すと、ビシッと創司を指した。


「うるさい。別にこれはいいの」

「欲求不満なんだよ。最近ずっと忙しくてどこにも行けてないから」

「ちょっ!?」


あっさりバラされた穂波が顔赤く染めた。


「なんで言っちゃうの!?」

「隠したってしょうがないでしょ。ねえ?」


澪はワインを一口。


なんかの影響だと思うけど、妙に様になってる。というか、流し目を創司に送んないで欲しいんだけど?


「しかも自分より先に生徒に越されてるでしょ?焦ってんのよ」

「ああああああああ!」

「ん。クリスマスも近いし?」

「そっそ。ほら。ゆーてただの平日と変わんないし。なんなら子どもがいる先生の仕事を少し回されるから」


澪はまた一口ワインを飲んでチーズを口に入れた。


あまりに世知辛くてなんか当事者でもないのに涙が出そうだわ。


「去年もおととしもここで酒盛りしてどんちゃん騒ぎしてな。クリスマスのバカ野郎って叫ぶんだ。バカはどっちだって言いたくてしょうがない」

「そこ!全部バラすんじゃねえー!!」


コタツの天板が割れるんじゃないかってくらいの強さでバンバン叩く穂波。なんか一周回って可哀そうになってきた。


「えっと……順番変える?」

「や。そこは変えちゃダメ。若い子優先。ってか、この程度で譲られても惨めになるだけだから余計な気を回さないで」

「はあ」


なんてか……大人ってめんどくさ。


「霞」

「なに?」


創司に呼ばれてそっちに顔を向けるとほんの一瞬真っ暗になった。


「甘酸っぱ」

「ちょ……は?」


え?ちょっと待って?なにやった?


なんか麻衣の目が輝いてるんだけど。


「創司くん!わたしのときもそれやって!」

「覚えてたらな~」


創司はそう言ってアタシのチーズケーキを取った。


「レモンの味って苦くね?初キスがレモンはねえな。甘くて酸っぱい、じゃなくて酸っぱくて苦いだぞ。甘さはどこに行った」

「あたしも思った。レモン食べてすぐにされてさ~。にっがって」


そう言ったのは穂波。ちなみに彼氏とかではなく友達とやったらしい。彼氏……というか男子とやったのはあんまり覚えてないとか。


「ん。なんならいいの?」

「あ~……ブルーベリージャム?ほれ」

「むぐ」」


創司は雫の口にアタシのチーズケーキを突っ込んだ。


上にブルーベリーのソースがかかってるチーズケーキはたしかにアタシの理想の味だったかもしれない。


「涼。ちょっとそこチェンジ」

「ふえ?」


アタシと雫、それから創司につながるコンボを食らってぐったりしていた涼を創司の膝の上から降ろす。


「よっと」

「お」

「重いとか言ったらぶっ飛ばす」


ジト目を向けると創司は何も言わなくなった。


胡坐をかいてた創司の膝の上は思ったより居心地がいい。というか、妙にしっくり来て力が抜けてくる。


「ふうん?悪くないじゃん」


少し強がりが混じった気がするけど、こうでも言っとかないとフニャフニャになりそう。


創司の手がアタシの身体に回る。


「一気にボリュームが」

「ふん」


失礼なことを言いだそうとした創司の足にグーをめり込ませる。


「ん。そんなに違う?」


雫が首を傾げた。


「そんなに違う」と創司が返すと、雫は涼を膝の上に乗せた。


「ん。たしかに。持てる」

「霞は丘って感じだもんなあ」


お腹から創司の手が上に上がってくる。


「ん……」


ゾワッした感覚が身体を通り抜けて出たことがないような声が漏れる。


「ちょっと?そこ。甘い雰囲気にするなら外でやって」

「寒いからパス。ってか澪ちゃんといつもやってんだろ?」

「女同士はもういいの!少しは男成分が欲しいの!」


穂波はそう言って創司の横に来た。


「ここはしばらく変わんないけど?」


アタシの場所を狙ってそうな穂波をアタシは先に牽制しておく。


「いい。そこに座ったら最後までしないと足りなくなるから」


穂波の目が怪しく光る。なんだかアタシに当てられてスイッチが入りそうになってるっぽい。


「ん。順番を守らないともっと日照りにする。ほどほどに」


雫もさすがに触るくらいならいいらしい。


ってか、あ~……。ここマジでいいわ。今度からイスはコレにしよ。


アタシのチーズケーキを取った創司の手を掴んで自分の口に持っていく。


「うま」

「お前な……」


甘くて酸っぱくて、濃い。


――ちゅ


と、音がした。


目の前には創司の顔。


奪われたんじゃなくてアタシから。


「んふ」


ビックリしてる創司の顔がうれしくて声が漏れた。


「くっ――!順番!順番が……!」


なんか隣でギリギリしてるけど、アタシは気にせずもう一度。


甘くて、酸っぱくて、けど、飽きが来ない。


創司の手に力が入る。


ああ。絶対マネされるんだろうな。なんて頭の隅によぎったけど、それもほんの一瞬で消えた。


「ん~」


足りない。もっと欲しい。


「ちょっと霞?ほどほどにって」

「まだもうちょっと。来年からはしばらくできないから」


そういえばここ学校だっけ。まあいいや。


創司越しに誰かが叩いてきてるけど無視。


そのくらいは創司が後でどうにかしてくれる。


アタシは目を閉じて満足するまで創司にくっついた。


「ん~やっぱ序列制ミスった?」

「でもみんな賛成したでしょ」


創司から離れて楓と麻衣、乃愛が話してるところに来た。


「年一のイベント1回やったら次は結構先になるの忘れてたんだって」

「あ~たしかに」

「や、その前に霞が遅すぎだから」


と、アタシに3人の目が向けられた。


「なに。いいでしょ。別に」

「いいけどさあ。もうちょっと場所とタイミングをみてからにしてほしかったかなあ。砂糖吐きそう」

「それね」


べ、と舌を出した乃愛に麻衣が頷いた。


「でも霞でもあんなにフニャフニャになるんだね。かわいかったよ?ツンデレのデレ100パーセント」

「うっさいな」


麻衣に鼻先をちょんと突っつかれてアタシは顔が熱くなるのを感じた。


「ツンデレじゃないし」

「はいはい」


ニヤニヤして頭を撫でてくる麻衣がムカつく。


「アンタだって人のこと言えなくなるから」

「んふ。わかってるからご安心を」


反撃と思って口から出た言葉はあっさりと流されてなんとも言えない気分になる。


「澪と穂波は相当枯れてるんだね。なんかミイラが水分吸い取って復活したみたいになってるじゃん」


そう言って乃愛は創司がいる方を指した。


アルコール臭満載の飲んだくれの2人に挟まれてちょっと迷惑そうな顔をしてるのが面白い。


「先生たち!不純異性交遊はダメだからねー!ここ学校!」


麻衣が澪と穂波に向かって叫ぶ。


聞こえたのか聞こえてないのかわかんないけど、澪と穂波は反応なし。たぶん聞こえてるんだろうけど、無視してるんだろうな。


まあ、あっちには監視役の雫もいるし、いざとなったら必殺の脇腹アタックをみんなでやればいい。


「ふ」


たぶんこの関係はこのままずっと続くんだろうな。


そう思うと頬が緩んでくる。


「ちょっと、急に笑わないでよ。怖いじゃん」


麻衣の声がアタシの意識を引き戻した。


「はあ!?怖くないでしょ!?なに言ってんの!?」

「怖いって!アンタいっつもそれで物理攻撃してくるから!」

「へえ。ほー?ふーん?」


なんか失礼すぎなんですけど?


よろしい。ならどっちが上か見せてあげる。


「じゃあ、覚悟できてるってことね。おーけーおーけー」

「あ!まって!ウソ!冗談だから!あー!!!」


あ、アタシのターンはまだ続くからよろしく。

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