アフター16 「ピタゴ〇スイッチ」
「なになに?どうしたん?」
遅れて来た麻衣がアタシの後ろから声をかけてきた。
「セクハラだよセクハラ!私の胸を揉んでなんかショック受けてるみたい!」
「あ~……なんか急におっきくなったもんね」
麻衣は知ってたみたいな口ぶりで言った。
「揉まれておっきくなったんだったら90パーセントはわたしのおかげだね」
「アンタね……」
ドヤ顔を決める楓に頭を抱えてると、乃愛も来た。
「ごめんごめん。お待たせ~」
待ち合わせ場所を高校の校門前にしたからなんとなく通ってたときのことを思い出す。
あのときはこんな感じで待ち合わせをしてたから懐かしい。
違うのはみんな制服じゃないのと、アタシたちがこの学校にとっては部外者なことだけ。
「んじゃあ、行くか」
創司が時計を見て歩き出すのを見て、アタシたちも付いていく。
久しぶりの校舎だけど、前に来たのは半年前ってこともあって思ってるより久しぶりの感覚はなかった。
「卒業してもう1年かあ」
そう漏らしたのは麻衣だった。
「もうってまだ3ヶ月残ってるんだけど」
「ゆーて3ヶ月なんてすぐでしょ」
反射的に口から出ただけだけど、麻衣はそう言って肩をすくめた。
ペタペタとスリッパが擦れる音が響く。冬休みに入ったばかりだから吹奏楽部の練習の音や近くの教室で何かやってる声も聞こえてくる。
「ん。入り口は変わってないって?」
「ああ。ただなんかちょっと小技が必要らしい」
「小技?」
「ん。テクニック。ちょっとした工夫」
「誰も小技の意味なんて聞いてないんだけど」
ドヤ顔で説明した雫にジト目を送る。と、涼が創司のところに行って袖を引っ張った。
「小技できるの?」
「ん?ああ。一応聞いてきたからな」
創司はそう言って涼を離すと、保健室横のドアと倉庫のドアの横になにかをやった。
――ガコン
「うし。これでジェットコースターを使えるようになるらしい」
「あ~……あったっけ。そんなの」
普通の学校だったらあり得ないと思うんだけど、この学校にはジェットコースターがある。しかも普通なら一方通行のはずだけど、ここのはなぜか往復するタイプ。誰がどうやって作ったのか知らないけど、考えた人マジで天才じゃないかと思う。
見覚えのあるコースターに乗ると、カウントダウンがはじまった。
「ねえ。こんなに凝った作りしてたっけ?」
目の前にある電光掲示板を指すと創司は首を傾げた。
「……最近追加したんじゃね?まだ新品っぽいし」
「ん。私もそう思う」
後ろから聞こえてきた雫の声にアタシは「ふ~ん」と返す。
アタシたちよりここに来た回数が多い2人が言うならそうなんだろう。
カウントがゼロになると、コースターは急発進。シートに押さえつけられる感覚に懐かしさを覚えながら地下倉庫の住人たちのもとに向かった。
「来たな。久しぶり」
「ん。ちょっと遅くした?」
「ああ。スリルが足んねえってうるさくてね。少しだけコースをいじってコーナーを増やしたんだ。Gを感じられただろ?」
「へえ」
全然気づかなかった……。
周りを見渡すと倉庫の中も随分変わっていて、全然違う場所に来てしまったような気になる。
まあ、ここの管理者は相変わらず黒の下着に白衣って意味わかんない恰好してるのだけは変わってなくて安心するけど。
「ふうん?」
あちこち見ていたらスッと寄ってきた篝がアタシの顔をのぞき込んでいた。
「なに?」
「ふ。そうかそうか。アイツらはまた先を越されたか」
「はあ?」
篝はうんうん頷くと奥に向かって歩き出した。
「そんなわかるもんかねえ?」
「ん。霞は結構顔に出る」
「の割にはアイツら何も言ってねえな」
「ん。聞くまでもないってことだと思う。聞いたところで惚気られるだけだし」
「なるほどね」
なんか失礼なこと言ってる雫の言葉に創司が納得してるんだけど。
「ちょっと?別に惚気てなんかないでしょ?」
「ん。言葉では」
「あ~……そういうことか」
「たしかにたしかに」と創司が頷いた。
え?なんかヘンなことしてる?別にいつもと変わんなくない?
篝についていってしまった涼たちを追いかける。
校舎の中とは思えないくらいの距離を歩くとようやく篝の居住スペースに出た。
「あ!来た!やっほやっほー!」
向こうからもアタシたちが見えたらしく、手を振ってるのが見えた。
「ん。もう出来上がってる?」
「言うまでもなく、な」
篝は肩をすくめた。
「ん?んん?」
「なに?」
倉庫にあるのは明らかにおかしいコタツに入ると、穂波が寄ってきた。
「涼のもビックリだけど、霞もなんかあったでしょ?」
「は?」
「しかもつい最近。ビッグイベントが」
「なに急に」
穂波がずいっと近づいてきた。鼻につくアルコール臭に顔が歪む。
「ちょっと。臭い」
「はあ!?先生に向かって臭いってなに!?」
「ん。穂波。臭い」
雫なんか鼻摘まんでるんだけど。
「え?そんなに?」
「ん」
「臭い」
と、そこに涼が来た。
「お菓子とかいっぱい持ってきた!」
涼はドサドサと天板の上に落とした。で、そのまま創司の膝の上に座った。
「はふう~……なんか久しぶり~」
なんか見てる以上にスッポリと収まってる涼に何も言えなくなる。
「ねえ?どのくらいおっきくなったの?」
満足気な涼に酔っ払いが絡んできた。けど、涼はそんな酔っ払いをたった一言で粉砕する。
「なんかくさっ!?」
「ぐふっ!?」
トドメを刺すには十分すぎる一言だった。
「しっかし、マジでホンモノか?って聞きたくなるくらいおっきくなったね」
澪が近づいて来て涼の胸を突っついた。
「ん。霞といい勝負だったのに」
「ちょっと?アタシだってサイズ変わってるんだけど?」
「涼のに比べたらお前のは誤差だろ。誤差」
そう言って創司は後ろからすくい上げるように涼の胸に触れた。
「ん。どう?」
「ホンモノだわ……」
「だからホンモノだって言ってるでしょ!?なに言ってんの!?」
涼は背もたれにしてる創司に頭突きをかました。
「雫とは違うな」
「ん。そう?」
「ああ。なんかまだ固いってか張りがある?ってか」
創司はそう言いながら涼の胸を揉んでる。
ってか、ちょっと待って。
「アンタ、雫のを揉んだことあるの?」
アタシが聞くと、創司は怪訝な顔をした。
「揉むも何も毎日締め上げられてんだろ。寝起きに」
「ん。そうだっけ?」
雫は心当たりがないような顔で首を傾げてるけど、そう言われて見ればそうか、とちょっと納得してしまった。
「こんな感じで触ったのは……ねえな。たぶん」
「そうなの?じゃあもっと触っていいよ!」
「涼……アンタ……」
絶対わかってないで言ってるでしょ。まあ、涼がアタシ以上に感覚で生きてるのは今さらだから別に何か言うつもりはないけど。
「むう……」
ってか、この後ろから抱きしめるの、なんでアタシにはやってくんないかな。
雫もやってるし、乃愛もやってるのを見たことある。なのに、なぜかアタシだけにはない。
なんだか仲間外れにされた気分になってアタシは創司の脇腹を突っついた。
「ちょっ!なんだ!?」
「うっさい。リア充め」
「お前だってリア充だろ」
「違うし」
アタシは即座に否定して脇腹を攻める。
「ちょっ!おまっ!」
「んっ」
脇腹を突っつかれて手に力が入るのか、涼から漏れる声がなんか変わってきた。
「ん」
「雫もかよ!?」
「ん。ズルい」
創司を挟んでアタシと雫の目が合う。
それだけで通じ合う。
この場は共同戦線だ、と。
「んっ!んんっ!」
アタシたちの突っつき方で創司の身体が反応して涼から声が漏れる。
なんだか面白くなってきた。
アタシと雫はペースを上げる。
アタシたちは涼の身体が大きく動くまでずっと続けていた。
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