アフター13 「それは奪うか、奪われたか」
「くっくっくっく……はあ~……おもしろ」
「全然面白くないんだけど。なんでアタシの部屋に入るかな。まったく」
単なる興味で見てただけなのに。
と続けるも、創司と雫にはまったく効果ナシ。
あ、ちなみにご飯を食べ終わったあと雫に全部バラされました。クッソ。
「別にいいだろ。なあ」
「ん」
「じゃあ、アンタたちのも言いなさいよ」
頷きあう2人を睨むと仲良く視線をそらした。
なんとなくだけど、創司より雫の方が守備範囲が広い気がする。というか、創司の趣味の方が気になる。いろんな意味で。
だって考えてみて欲しい。
スカートの中に顔を入れさせてる上に裸エプロンまでやってる雫と、服の締め付けがうざったいからって理由とはいえ、下着姿で家の中にいるアタシ。
傍から見ればどう見たって据え膳のはずなのに、この男ってば触るか揉むくらいしかしない。
たまにホントに付いてんのか不思議に思うけど、それを聞くのもなんだか負けな気がするんだよねえ。
ホント。どうしましょ?や、どうしようもないんだけど。
なんかさ。こう……アレよ。なんか、ハジメテはこうだといいなあ、みたいな理想ってあるじゃん。
それだとアタシは攻めじゃなくてどっちかっていうと受けなんだよね。おい、そこ。笑うな。誰だ。ムリだって言ったヤツ。アタシだって手が出かかってるのを何とか止めてんだぞ!
言っとくけど雫もアタシと同じだからな!おしとやかに見えて考えてることは「いかに創司においしくいただかれるか」だぞ!見た目と行動に騙されるな!
「んん!まあ、霞は結構な乙女趣味ってことが分かったな」
創司が咳払いをしてムリヤリ話を捻じ曲げた。
「ん。でも、ドラマの影響だと思う」
雫も自分に矛先が向かないように創司に乗っかる。
「うっさいな。その通りだけど」
もうここまでバレてしまったら開き直るしかない。
だからと言ってここでアタシから攻めても面白くない。ってか、そんなハジメテはアタシが求めてない。
あくまで仕掛けるのは創司。アタシはそれを受け入れるだけ。
言葉にするだけならこんなにカンタンなのに現実はふざけてんじゃないの?ってくらいの高い難易度で困る。
「だけどお前。そんな雰囲気になって耐えられんのか?」
「ん。私も思った」
「そこなんだよねえ」
創司の言葉にアタシは唸る。
今までそんな雰囲気が全くなかったかと言われれば、あったはず。少なくともゼロじゃないと思う。
でも、その先まで進まなかったのはアタシのせいだけじゃないはず。
「いや、お前がそんなだとなんか狂うだろ」
アタシが創司にそう指摘すると、創司は頭をポリポリしながら言った。
「は?狂う?なにが?」
「甘い雰囲気からそっちって言うより問答無用で実力行使するタイプだろ。お前は」
「……」
なんだろう。このわかられてる感。まったくもってぐうの音も出ないくらいその通りなんだけど、なんかわかられすぎてて悔しい。
「じゃあ実力行使に出ていいわけ?」
「いや、まあ、お前がそれでいいならいいけど……」
創司が言いよどむ。
たぶんアタシがそうなように、創司にも理想があるんだろう。
「言っとくけど、俺に理想はないぞ」
「え」
ないの?理想が?
風呂に入ってくると雫が言ってソファーから立ち上がると、創司はアタシの太ももに頭を乗せる。
「どーせお前らがぶっ潰すだろ。期待するだけムダ」
「はあ?そんなわけないでしょ」
「……お前。本気で言ってるのか?」
創司のジト目がアタシを責めるように刺してくる。
「雫はともかく、お前の理想はその瞬間だけ。んで、はじまったら最後。満足するまでぶっ通しでやる」
「そんなこと――!」
ない、と思ったけど、よく考えたらいつものバレーの練習がそっくりそのまま置き換えられてるだけのような気がして言葉に詰まる。
「まあ、雫もガマンしなくていいってなったら爆発するだろうな。間違いなく」
「それはわかる」
アタシは大きく頷いた。
「俺の体力がまだアイツより上だから……いや、たぶん先に枯れ果てるのは俺だな。アイツは攻め方を知り尽くしてるだろ」
「そうかなあ?いや、完全に否定できないけど」
「そうだって。お前が興味で見てるヤツだって雫にすればただの資料だぞ」
「は?資料?」
なんか考えもつかなかった言葉にビックリしてしまった。
「資料だよ。んである程度溜まったら実験すんだ。楓さんを犠牲にしてな。ちなみに楓さんが彼氏じゃなくて彼女を作った原因は雫だ」
「……」
思わぬところから知りたくなかった事実が飛び出て言葉を失ってしまう。
「楓はなんて?」
なんとか絞り出した言葉に創司は渋い顔をして答えた。
「『――男じゃ満足できないカラダになっちゃった……雫、許すまじ』」
「……」
反撃するつもりなんだ。楓。絶対敗けるのに。
「まあ、なんだ。アレを見せられた身としては、トリガーは外すとヤバいランキングでぶっちぎりのトップは雫。その次が楓さんってところだな」
「見たんだ。楓の」
「見たってか、見せられた。帰ってきてリビングに入ったらこっち向きでやっててよ。なんか浮気を目撃した瞬間!みたいな感じになったわ」
それは……なんというか、ご愁傷様。としか言えない。
まあ、楓本人は今のアレで幸せそうだからいいんだけどさ。
「まあ、その時点で楓さんを満足させられる男なんていなかっただろうけどな」
「そうなの?」
「雫に聞いたらわかる」
創司はこの話はここまでとばかりに太ももを撫でてきた。
「うむ。今日も正常」
ついでのようにお尻も撫でてくるけど、そこに期待するような甘い雰囲気なんてあるわけもなく。
これが普通ならショーツの端から入り込んでくるんだろうな。と思いつつ、そうはならない。
創司はただ感触を楽しんでるだけ。
アタシもそれがわかってるからもういちいち何か言わない。言ったところでやるし。
なんか触られてるうちにふと何かが降りてきた気がした。
雫がいなくて創司が膝枕していて――これってもしかして甘い雰囲気なのでは?
待ってたはずの思わぬ展開にアタシの頭は意識を引っ張られる。
下を見ると創司の手がいつものようにさわさわモミモミしてる。顔は太ももとお腹の間に突っ込んでるけど、ひっくり返してそのまま奪うことくらいアタシには造作もない。
頭の中でイメージはできた。あとは勢いで押し込めばイケる――!
そう確信したのに、いざ行動に移すとなると、なんか心臓がバクバクしてる。
アタシは創司の肩に手を伸ば――そうとしたところで手が止まった。
――いや。待て。これが求めてた初キス?
見てたいろんなドラマのキスシーンが頭をよぎる。
ちゃんと思い返すと、奪ったり奪われたりでどっちがいいとかなかった気がする。
――ヤバい。どっちがいいの?
急に迷宮入りしてしまったアタシの思考に戸惑う。
バレーの試合でもなかった思考にアタシはますます混乱してしまう。
天使と悪魔が出てきそうなワンシーンだろうけど、混乱してるアタシはそれどころじゃない。
虚を突くなら今だし、たぶんこれを逃したら次はいつ来るのかわからない。
けど、求めてたのがこれか、と言われればなんか違う気がするし……。あー!もー!!
――ちゅ
混乱してるアタシの思考を止めたのはわずかに聞こえた水が落ちたような音。
目の前には創司の顔。というか、目。
見開いててびっくりしてるのが手に取るようにわかる。
てか、なんか苦しいんだけど。なにこれ。
「んん!」
とりあえず声を出してみるけど、聞こえてきたのはくぐもったアタシの声。
え?なにこれ。どうなってんの?まじで。
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