アフター6 「同じ部屋にするなら双子か同級生か」
「ふーん。そうなんだ」
「ああ。だからいちいち来られてもなあ……」
「茶しばくから来て」と呼び出された俺は、なぜかケーキの食べ放題に連行されていた。
周りを見渡す限り、このときを待っていたとばかりに欲望を解放した女子ばかり。
キャイキャイ楽しそうな声が聞こえるが、その手にある皿の上にはケーキが5個乗っかってる。っていうか、5個ならかわいいもんで、テーブルの横を通ってく女子の中にはどうやって乗せたのか、3枚の皿を使って数えられないくらい乗せてるのもいた。
俺を呼びだした女子もその例に漏れず、持ってきた10個のケーキをペロリと平らげ、次の10個に手を伸ばしてる。
「んま。あ。こっちも気になるな~ってことではい半分の半分」
「ペース早くね?」
「そう?まあいいじゃん。今日の目的の半分はこれだし」
目の前の女子はそう言ってケーキの周りについてるシートをはがした。
「やっぱこういうのは人海戦術に限るね。一口でいろいろ楽しめるし」
「ね。あ、これかわいくない?」
なんて言いながらスマホで写真を撮っては見せ合ってる。
「まあ、零奈にも双子にもなびかないんだからそうかな~って思ってたから予想は当たったね」
と、紅茶を口に含んだのは麻衣。
「物理的なダメージだからな。毎回」
「双子に至っては毎日でしょ?よく怒らないね」
と、モンブランを口に入れながら言ったのは乃愛。
「怒ったところでアイツらは変わらねえだろ」
「たしかに。寝相だしね」
乃愛は頷くと、俺に4分の1、麻衣に4分の1を渡した。
「麻衣もひどいんだよ?毎回乗っかってきたり、抱き着いたり」
「へえ」
同じ部屋の同じベッドで寝てるらしい2人の様子を想像してみる。乗っかってるってことは、全体か?絵面的には百合好きな人たちが喜びそうな気がするな。
「そんなこと言ったらわたしだって毎朝乃愛の唸り声で目が覚めるんだけど」
麻衣がイヤそうな顔で次のケーキに手を付けた。
「そりゃあんたが乗っかってるからでしょ。毎朝悪夢で目が覚めるこっちの身にもなってよ」
なんて言い出してなにやら流れが険しくなってきた。
「そういや彼氏ができたって?」
俺は素早く察知して流れをそらす。
「ん?ああ。創司くんのとこにも行ったの?」
険しい顔になってた麻衣の顔が緩んで俺の方に向いた。
「霞からな」
「ふうん。ま、別れたけどね」
シレッと何事もなかったかのように麻衣は3つ目のケーキにフォークを刺した。
「え?」
乃愛が口に入れていたフォークを置いた。
「聞いてないんだけど。いつ?」
「昨日。顔も見たくなくなったから」
「ええ……?」
「だって、会えばヘンなとこ触ってくるし、会ってなくてもコレだよ?」
と、スマホを取りだした。
「うわ……」
乃愛がドン引きした画面を俺も見せてもらう。
「……高校のときの霞か?」
と、思わず言ってしまうくらいの通知が来ていた。
なんだよ、+99って。久しぶりに見たわ。
「あれはみんなからでしょ。わたしは一人だからね?」
「よくそんなに送れるな」
「ホントだよ。まったく……」
そう言ってる間にも「いつ会える?」「ここに行ってみない?」とどんどんメッセージが送られてくる。
「別れたんじゃねえの?」
「別れたよ?わたしからはちゃんと言ったし。ってことでさようなら」
と、麻衣は自分の方に画面を戻して数回タップすると、一気に静かになった。
「ふう」
一息ついてケーキと紅茶を一口ずつ口に入れると、伸びをした。
「ん~……スッキリ!男はしばらくいいや」
麻衣は言葉通りスッキリした顔で立ち上がると、次のケーキを求めてショーケースの方に歩いていった。
「ま。そんなわけだから応えるも何もねえんだよな。付き合うったって今までと何も変わんねえし」
「そうかなあ?」
「だってどっか出かけるのだって一緒だし、泊まるのも一緒。雫なんか大学どころかクラスまで一緒なんだぞ?付き合うってったってもうちょっと距離があるだろ」
「あ~……」
乃愛が納得したようなそうでないような声を出した。
「そっか。高校からずっと一緒だもんね。近すぎるのか。ってそうなると、零奈は?」
「零奈もあんま変わんねえんじゃね?寝る場所が違うだけで毎日朝と夜来て飯食ってだぞ?まあ、1週間は実家に帰ってるからアレだけど」
「そっか~。一緒に住むってのもいいかと思ったけど、そうでもないか。まあ、麻衣と住んでても思うんだからおんなじか」
そう言って最後の一口を口に入れると、乃愛は席を立った。
「あれ、取りに行く?」
「うん。っと、よし。あ、創司くんはなにか食べたいのある?」
乃愛がショーケースを指して言ったが、何が何だかわからない俺は「テキトーで」と答えるのが限界。
「ん。じゃあ、取ってくるね~」
と言い残して乃愛もショーケースの方に向かった。
「よいしょ~」
乃愛がいた席に麻衣が座った。
この2人は食べ放題を効率的に回すため、入れ替わりになるときには場所を変えるという謎ルールを設けてる。
2人だけだったら向かい合わせに座るからいいけど、3人とか4人になると、こうして隣同士に座る。
「ふ~。なんの話してたの?」
持ってきたベイクドチーズケーキを半分にしながら麻衣が聞いてきた。
「今の状況じゃ付き合うもへったくれもねえよなって」
「あ~ね。双子はそうだよね」
乃愛とは対照的に麻衣は一言で納得したようだ。
「どっかに行くのも、寝るのも一緒だと付き合うってのとは違うな~ってわたしも思った」
「だろ?」
「ん」
と、頷いてケーキを口に入れた。
「わ。これ濃い」
「あ?濃い?」
「食べればわかるって!ほら!」
麻衣が俺の皿に半分のさらに半分にしたベイクドチーズケーキを乗せた。
「食べて食べて!」
「はいはい」
言われるがままに口に入れると、たしかに濃い。なにが?と言われると難しいけど、濃いものは濃い。そうとしか言えない。
口直しの紅茶を一口飲んでも余韻がまだ残ってる。
「すげえな。これ」
「でしょ!?もう1回持ってこようかな」
麻衣は残った半分を食べると、次のケーキを自分の皿に乗せた。
「よいしょ~」
そこに乃愛が戻ってきた。
「ね。今いいこと思いついたんだけど言っていい?」
乃愛が身を乗り出して言った。
「なに?」
「次の旅行は双子じゃなくてウチらと一緒の部屋にしない!?」
「は?」
「え!?」
ホントに思い付きだったらしく、麻衣が驚いた顔で乃愛を見た。
「どう?我ながらナイスアイディアだと思うんだけど!」
と、ドヤ顔の乃愛。そこに麻衣が待ったをかける。
「ちょっと!急になに言っちゃってんの!?」
「え~?いいと思うけどな。ダメ?」
「ダメでしょ!?どーすんの!?寝相悪いの見られるんだよ!?」
「別に今さらじゃん。寝相でケンカする双子よりマシだよ?たぶん」
「そーゆー問題じゃないっての!!」
「あー!もー!」と頭を抱える麻衣に乃愛が持ってきたケーキを食べさせる。
「ダメかなあ?近いから付き合うとかなんとかって言ってるならいいと思うんだけど」
「いやいや。創司だって男子だよ?どーすんの?カバンの中開けてパンツとか見られたら」
「んなことしねえわ」
俺をなんだと思ってんだ。
「見ないって。双子でどんだけ見てると思うの?」
「双子とウチらじゃ違うでしょーが」
「え~?」
「そうかな~?」と首を傾げる乃愛。
俺をそっちのけにしてあれこれ言い合いはじめた。
双子みたいにキャットファイトがはじまるレベルの言い合いじゃないので、このまま眺めていたいところだけど、さすがに俺もいろいろ見たくなってきた。
「ケーキ見てくる」
と一言言い残して女子がひしめき合うショーケースに向かって歩きだした。
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