アフター2 「重大な問題なので」

「場所が変われば変わるかなって思ったけど、そうでもない?」

「ん。何もしてこない。今までと一緒」

「スカートの中に突っ込んで寝てるのは『何かしてる』にはならないんだね」


神妙な顔をしてる私をよそに涼がずぞぞぞー!っと音を立てた。


「ぷはっ!は〜。まあ、高校のときも休み時間とあればやってたもんねえ」

「ん。膝枕ソムリエとか意味わかんない称号ついてたし」

「あ〜あったあった。麻衣が勝手に言い出したんだよね」


む。それは知らなかった。後で麻衣はこってり絞った方がいいかも。


涼も卒業して私たちとは別の大学に進学した。


ソウくんの脅し?とテレビでは放送できないくらい過激になった罰ゲームのおかげで最後は先生も目を見張るほどの成績を残した。


おかげで今は少しずつ家の仕事にも手をつけはじめてるらしい。ウソかホントか分からないけど卒業後はイケてるご令嬢様になってる予定だって。


「私も一緒にあのマンションに住めたらな〜。おのれ、じじいめ」


涼はベコッ!と持っていた紙コップを握りつぶした。


「ん。まだ解禁されない?」

「引っ越してもいいけど部屋が空かないんだって。んなバカなって話でしょ?ムカつくから最近ずっと探してる」


家のことと学校が両立できるなら、と条件を出されて仕事に手をつけたって話だけど、どうやらホントらしい。


今もテーブルの上にスマホを出してことタイミングを見計っては更新ボタンを押してる。


「もういっそのこと、楓のところに行こうかな」

「ん。魔窟になってるって」

「やっぱ?食い過ぎで腹壊すんじゃないの?」


涼はそう言ってテーブル端にあるボタンを押した。


「ん。この前ホントにお腹壊した。連れの子も一緒に壊したから大変だった」

「ぶ。バカすぎ」


楓も私とソウくんと同じ大学に進学した。さすがに学部は違って、楓は教育学部。


一緒に大学に行くことはないけど、それでもたまに大学であったときには一緒にご飯を食べたりしてる。


ちなみに高校で誰かに鍛えられたテクニックは磨きがかかってさらに凶悪になっていて、目についたかわい子ちゃんが尽く餌食になってるのはここだけの話。


ソウくんの周りにも女の子は多いけど、楓はそれを上回る勢いでいろんな女の子を侍らせてる。


「何人食ったの?10や20じゃ済まないでしょ?」

「ん。もう数えるのやめたって」

「うん。行くのやめよう。そうしよう」


店員さんに追加の注文を済ませると、涼は空になったグラスを手にドリンクバーに向かった。私も一緒についてく。


「ん〜……これとこれかな」


と、涼は2つのボタンを押した。大学になってもこういうとこは相変わらず。多分体型と一緒で一生変わらないと思う。


「……なんか失礼なこと考えなかった?」

「ん。気のせい」


私はバニラオレのボタンを押した。


「麻衣と乃愛んとこは相変わらずだよね」

「ん。麻衣に彼氏ができたって」

「マジ?聞いてないんだけど」

「昨日霞んとこに乃愛からメッセージが来た」

「へえ〜。どうせすぐ別れるんでしょ?なんだかんだガード硬いから」

「ん。私もそう思う」


と、涼が頼んだミートドリアと私が頼んだピザが届いた。


「半分こ」

「ん」


ピザを半分にして涼の分としてとっておく。残り半分をさらに半分にして私は頬張った。


「う〜ん。そうするとほのかか〜。あそこはあそこで違う意味で魔窟になってそうなんだよね」

「ん。着る服には困らないと思う」

「方向性がぶっ飛んでるじゃん」

「ん。それは否定しない」


私たちは顔を見合わせると、笑った。


「あれでデザイナーになる!ってねえ。どんなものを世に送り出すんだか」

「ん。でも手伝うんでしょ?」

「だってそうでもしないと知らない人に身内でーすって紹介されたら困るでしょ」

「ん。たしかに。首輪は必要」

「表現。喜ぶでしょ」

「ん。失言だった」


ほのかをアレにしたのは彼氏と楓。私と涼は関係ない。


「ん。でも、ほのかん家は一度行ってみて欲しい」

「行ってないの?」


私の言葉に涼が首を傾げた。


「ん。1回だけ。よく分からないのが散乱してた」

「……ゴミ屋敷?」


恐る恐る聞いてきた涼に首を振った。


「ん。本人曰く残骸」

「残骸……」


想像したのか、涼の顔がものすごい渋い顔になった。


「薫さんに言ってお掃除部隊連れてこうか」

「ん。その方がいい。整理できなくて困ってるって言ってたし。できれば常駐して欲しいって」

「そんなに……?」

「そんなに」


と、涼の隣に人影が現れた。


「ん。遅い」

「ごめんごめん。も~課題がワケわかんなくてさ~」


そう言って座ったのはちょうど話題に出ていた本人。


「課題でわけわかんないとかある?」

「あ~るある。もう横文字と専門用語のオンパレード。呪文聞いてるみたいだよ。まったく。こっちはズブの素人なのにさ~」


メニューを見ないでテーブルのボタンを押すと、流れるように店員さんに注文した。


「ってことで飲み物持ってくるわ」

「ん」

「いてら~」


私と涼が手を振ると、ほのかは席を立った。


「今日もアレなのかな?」

「ん。もう普通には戻れないって」


高校時代に植え付けられた性癖は罰ゲームという名の栄養をたっぷり吸い込んで、今ではどうなってるのか私にも把握できないくらいになってる……らしい。


「末期だね。彼氏クンには別れるなんて選択肢持たせないようにしないと」

「ん。でももう選択肢云々なんて言ってられないと思う」

「そう?」

「ん。地の底まで追いかける。こんな風にしたんだから責任取れって」

「……ホントにやりそうだから何も言えないわ」


涼がドリンクバーから戻ってくるほのかの方を見た。


「よいしょ~。注文したの来た?」


ほのかが涼の隣に滑り込むように座った。


「ん。まだ」

「じゃ、雫のコレもらうね」


私の返事を聞く前に持っていってしまった。


こんなんだったらタバスコをふりかけとくべきだったとちょっと後悔。


「今日の面子はこれだけ?」

「ん。あと3人」

「よく集まるよ。ホント」


ほのかがピザに乗っかったチーズをみょ~んと伸ばしながら言った。


おかしい。同じものを食べてるはずなのになんで私のは伸びないんだろう。


「そんな目で見てもあげないよ?」

「ん。いい。ほのかのおごりで違うの頼むから」


と、メニューを取ったところで横に衝撃。


「狭い。もうちょっと詰めて」

「ん」


薄い身体なのにバカみたいな力でグイグイ押してくるゴリラはほかにいない。


「霞ももうちょっと奥」

「わかってるっての。ほら」


霞はそう言ってグイグイ私を奥へ奥へ押し込んでくる。


「もう先にやってんの?じゃあ、わたしも頼んじゃおっかな」

「ん。私も頼むからちょっと待って」

「乃愛。こんなのほっといて先に頼んじゃお。アタシも腹減ったし」

「おっけ~。あたしも腹減ったからガッツリ系にしよっかな」


3人は店員さんを呼ぶとほのかと同じようにメニューを見ることなく、注文を済ませた。


「結局いつもの面子かあ。なんか変わり映えしないね」

「ん。」


頷いたところに私のスマホが震えた。


手に取ると、画面にはソウくん。じゃなくて、澪の文字。


「誰?センセ?」

「ん。何時までやってる?って」

「創司くんは何時までだって?」

「9時って言ってなかったっけ?」


テキトーなことをいう霞に溜息を吐いて、共有のカレンダーを開く。


「ん。9時まで。見送りもするって」

「9時ってことは閉店か。ちょうどいい感じでお開きになりそうだね」

「ん」


ちなみに今は午後3時。場所は高校時代に使ってたソウくんとウチの間にあるファミレス。マンションからはだいぶ離れるけど、使いやすいから自然とここになる。


勝手知ったる場所とあって、長居しても文句は言ってこないから何かと重宝してる場所。


ここでバイトしてたお姉さんは大学を卒業して社会人になってるけど、たま~に遊びにウチに来る。


私は8時半までと送り返すと、テーブルの上に置いた。


ぽこん!と音が鳴って画面を見ると、なんかのキャラクターが走ってるスタンプだった。


「あ。花音も来るって。ちょっと豪華になりそう」

「ん。私にも来た」


どうやら今回は全員集まるらしい。こんなに集まるのは年末年始くらいだと思ってたけど、やってみるもんだな、なんて思ってしまう。


「で?今日のお題は?」


と、ほのかちゃんが頼んだピザをくわえながら言った。


「ん。据え膳脱却」


重大な問題よろしく、神妙な顔で言った。

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