スカートの中で寝る。膝枕付き。しかも双子。AS

素人友

アフター1 「日常という罠」

ソウくんは私の。


所有権がどうとか、誰と付き合うとかは別に気にしない。


今も霞に「面白いから」と言われてドラマを見せられてるけど、タイトルと出演者が違うだけで中身は変わらず。くっついて離れて、またくっついて、「もう終わりの時期か〜」ってくらいになると、キスをしてジ・エンド。特番を2、3回やってまた繰り返し。


こんなのが面白いとか、全くもってわからない。


時計に目を向けると、残り10分ちょっと。


――来週に向けてなんかあるとすればここらへんからだろうな。


なんて予想ができちゃうくらいパターン化されてるのがわかっちゃう私は、心の底からドラマを楽しめない。


――あれこれやったってどうせ独り相撲。そんなに好きなら誰かのところに行けないようにすればいいのに。


なんて思ってると、ソウくんがスカートの中で動いた。


「膝枕でそれなりに寝れるならスカートの中で寝たら熟睡できるんじゃね?」なんてソウくんの素朴なギモンからはじまったけど、もう習慣になってしまって、これがないと落ち着かないくらいになった。


「――トウマ?」


テレビには新キャラと思しき女の人が写っていた。


「アヤ?どうしてここに?」


と主人公の俳優さんが言ったところでドラマは終わった。


「は〜……元カノが追いかけてきたってこと?奪い合いはじまっちゃうか〜」


霞はそう言ってソファーから立ち上がって冷蔵庫に向かう。


高校を卒業して2年経つけど、霞が飲むのは相変わらず牛乳。けど、サイズに変化はない。


穂波は大学に行けばサイズアップするって言ってたけど、現実は厳しいようだ。


下着姿でうろつくのも相変わらず。


霞は据え膳のつもりでやってるみたいだけど、ソウくんには全く効果なし。


せっかくの下着のファッションショーも空振りだったとか、ちょっと可哀想な気がしなくもない。まあ、テストでビリだったから自業自得と言えばそれまでなんだけど。


「アンタもなんか飲む?」


実家より少し狭くなったキッチンから霞の声が聞こえた。


「ん。麦茶」

「はいはい」


オレンジの上下で合わせた霞が麦茶を手にリビングに戻ってきた。


「どう?展開は?」

「下の下。どう見ても噛ませで可哀想」


珍しく原作のないドラマだけど、作りが雑すぎる。ヒロインの当て馬にするには足りない物が多すぎる。


「まあ、あんな女、アタシでも逃げるわ」

「ん。それがいいって人もいるけど、男の顔が引きつったのが答え。あと5話も続くならウソでも隠して欲しかった」

「だよね。ここまでは面白かったんだけどなあ。ハズレかなあ」


霞はそう言って私を道連れにソファーの背もたれを倒した。


「よいしょっと。あ〜……ちょうどいい高さ」


と、横になった霞はソウくんの足の上に自分の足を乗せた。


「おも」

「くない」


ソウくんの寝言に霞が否定の言葉を繋げた。


「いや、マジで重いから」


スカートの中から声がした。


「あ〜……あ?やべ。レポート残ってたっけ」

「ん。あとちょっと」


私とソウくんは同じ大学で同じ学部、おまけに同じ学科、さらに同じクラス。


同じ学科で一緒に通えると思ったのに、後でクラスが3つあると知ったときの絶望感は今でも言葉で表せないくらいだった。


幸い、同じクラスだったから事なきを得たけど、違うクラスだったらと思うと今でも震える。


「いつ提出だっけ?」

「ん。たしか今週中」

「じゃあ、まだいいか」


ソウくんはそう言って私と霞の間に横になった。


「あ〜まだもう少し〜」

「うっせえな。布団でも挟んどけ。クソおもてえ」

「うっさいな!高さが合わないの!いいからあと10分!」

「お前、それで寝落ちするだろ。うっ!」


図星を突かれたのか、霞はソウくんの脇腹に会心の蹴りを打ち込んだ。


脇腹を押さえてソファーに沈んだソウくんの背中に足を載せる霞。


「お、お前な……」

「ふん。最初から大人しくやってればよかったってことがわかったでしょ?」

「ああ。束の間の平和を今のうちに味わっておくんだな」


ソウくんが私の方に目で合図を送ってきた。今日は足、ね。


ソウくんの脇腹の痛みが引いてきたくらいのタイミングで私は霞の上に乗っかる。


「雫。アンタ、寝るんじゃなかったの?」

「ん。まだ日課が終わってない。今日は足。酸欠に注意」

「はあ!?ちょっと!!どけ!!」


霞が逃げようと必死に身体を動かそうとするけど、私の足が二の腕に乗っかってるせいで動かせない。


「よし。今日もいい仕事だ」

「ん」


ソウくんに頭を撫でられた。ポンポンされるのもいいけど、こっちの方がいい。


「さて。暴君霞、覚悟はできたか?」

「できるわけないでしょ!バカじゃないの!いいからどけ!雫はこっちにケツを向けるな!!重い!!」

「む。私はそこまで重くない」


夜なのもお構いなしにギャーギャー騒ぐ霞に反論しながら力を抜く。これで霞の動きはさらに制限される。


「よし。んじゃ、はじめるか」

「ん」

「ちょっと?今日はマジでダメなんだけど。聞いてる?」

「知らん。異論反論は受け付けん。脇腹に蹴りを入れた恨み、存分に味わえ」


ソウくんはそう言って霞の足を掴むと、マッサージをはじめた。


「あっ!ちょっ!ダメだって!ダメ!あ〜〜〜!!!」

「霞。うるさい」

「だっ!いだだだ!?痛い!痛い!!」

「ごめんなさいは?」


ソウくんは悪い笑みを浮かべてグリグリ押し込む。


「いだだだ!?言うわけないでしょ!?アタシ悪くないし!」

「ん。もっと強くしていいって」

「任せろ」

「いだだだだ――!!!」


実家にいたときはどったんばったんしてたけど、今は賃貸マンション。防音はそれなりのはずだけど、下に響くのは避けたい。


私はソウくんの注文に従って暴れる霞を抑え続けた。


「ん」


寝にくさに耐え切れなくなって目を開けると、目の前に零奈の顔があった。


「あ、起きた?」

「ん」

「おはよー」

「ん。おはよ」


膝の上に重さがある。ってことは朝。この時間に起こされたってことは、講義がある日かあ。


私の1日はこんな感じではじまる。


ご飯も食べてるらしいんだけど、いつも朝ご飯を食べた記憶はない。


「創司くん。雫起きたよ」

「ん?ああ。ふっ!」


ソウくんは腹筋の要領でスカートの中から抜け出すと、伸びをした。


「あ〜……めんどくさ。課題の残りやんぞ」


ソウくんが寝起き早々の私に課題の残りを見せてきた。


「ん。零奈は?」

「今日はオフ〜」


そう言ってソウくんの足を枕にして寝っ転がった。


零奈は卒業したあと、文系の大学に進学した。


進学したのは別の大学だけど、住んでる場所は私たちと同じマンション。


部屋は隣の隣だけど、朝になると通い妻よろしくウチに来る。


「はあ〜……やっと落ち着いた〜」


零奈はソウくんの膝枕で仰向けに寝返りを打った。


「テストだったんだっけか?」

「そー。2年からはちょっと早まるとか聞いてなかったからビックリしたよ」


零奈の大学は夏のオープンキャンパスに合わせて夏休みが少し早まるらしい。


「ってことは、もう夏休みか。いいなあ」


ソウくんは課題をテーブルに広げてペンを手にとった。


「ん。私たちはまだあるのに。ズルい」

「んなこと言われても。それ終われば夏休みみたいなもんじゃないの?」


零奈がソウくんの課題を指した。


「ん。そうだけどギリギリになるくらいまで課題を出すのはイカれてると思う。そんなだから毛根が死ぬんだと思う」

「やめてやれって。ギリギリ生きてるだろ」

「ん。往生際が悪い」


私はそう言ってリビングの端に置きっぱなしになっていた課題を取りに行く。


「そういや旅行は日本海でいいのか?」

「ん。いい。ってか、霞がもう宿取ってある」

「相変わらず手が早いことで」


ソウくんはそう言ってペンを置いた。


「ん。もう終わり?」


片付けはじめたソウくんに聞くと、「ああ」と短い返事が返ってきた。


「お前だってあと見直すだけだろ?さっさと終わらせて出しに行こうぜ」

「ん」


私はペンを取り出すと、課題の見直し作業に入った。

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