(11)加護持ちの大盤振る舞い

「全員、武器を捨てて直立不動!!」

 唐突に、甲高い女の声がその場に響き渡った。それと同時に、カイルを含めたその場全員が、手にした武器を地面に落として姿勢を正す。しかしそれは、当人達が意図した行為ではなかった。


「え?」

「なんだ? 体が動かん」

「あ、どうして……」

「うあっ、いてて……」

「なんで立たなきゃならないんだよ!」

 騎士達、特に先程矢を射かけられて負傷した者達まで勢いよく立ち上がり、あちこちで呻き声と、やり場のない怨嗟の声が上がる。そんな中、立ち上がったロベルトと向かい合いながら、メリアが背後にいるはずの人物に向かって怒声を張り上げた。


「シーラ! あなた、今の今まで何をやってたの!? こっちは色々大変だったのよ!? 出てくるのが遅すぎでしょうが!?」

 身体が動かせないため、ロベルトに視線を合わせたまま、メリアはシーラを叱りつけた。それにシーラの謝罪の言葉が続く。


「ごめんごめん。でもこの騒ぎで、さすがに子供達が目を覚ましちゃって。まかり間違って乱闘騒ぎとか流血騒ぎを目撃させたりしたら、小さな子供にはトラウマものじゃない。慎重に一人ずつ寝かしつけていたら、意外に手間取ってね」

「それにしても……、少し前から話は聞いていたけど、ここまで予想外の事態が重なるとはね……。伯爵、取り敢えず信用できる人間を指定してください。シーラ姉さんに拘束を解いて貰いますので」

 視界に入らないながらも、シーラに続いてディロスも自分に近付いているのが分かり、カイルは彼らに指示を出した。


「あ、ええと……、取り敢えず私の側近達全員。それと、そこの野盗集団とランドルフの配下以外の、騎士全員を解放して貰えるかな? 騎士達に関しては、アスランとサーディンが保証してくれるだろうし」

「了解しました。シーラ姉さん!」

「聞こえてるわよ! はい、あなたは自由に動いて良し。あなたもね」

 シーラは自分の近くにいる騎士から順番に歩み寄り、その腕や肩に触れながら声をかけていく。それと同時に身体の自由を取り戻した騎士達は、呆然自失状態に陥った。


「あ、動ける」

「一体、どういう事だ?」

「まさか、彼女も加護持ち?」

「どうして希少な加護持ちが、ゴロゴロいるんだよ?」

 指示通り自分達の味方だけ動けるようにしながら移動したシーラは、最後にカイルとメリアの所にやって来た。


「お待たせしました、カイル様。メリアもご苦労様」

 にっこり笑いながら腕を掴んできたシーラに、メリアは剣呑な目を向ける。


「あんた……、わざと私を最後にしたわね?」

「嫌だわメリアったら、それって被害妄想よ?」

 そんなやり取りをしている二人の横にディロスが立ち、深々と頭を下げた。


「すみません。荒事になったら僕が役に立つ筈がないので、今までおとなしく引っ込んでいました」

 真っ正直な謝罪の言葉に、カイルは笑顔で頷く。


「君の判断は正しい。子供達の面倒を見てくれていたしな。子供達は怖がったり怪我をしていないな?」

「はい、大丈夫です」

「それなら良かった」

 そこでディロスが、すぐ傍で静止した状態のロベルトを眺めながら尋ねてくる。


「ところで……、大声で話していたので大体の内容は聞こえていましたが、この野盗さんが、本当に《他人の加護を無効化できる加護》の持ち主なんですか?」

「本人はそう言っているが……」

「単なる大法螺吹きよ」

 カイルは困惑を露わにし、メリアは冷たく断言した。しかしロベルトが、微動だにしないまま盛大に言い返してくる。


「違う! 俺は本当に他人の加護を無効化して、あいつらの人生を滅茶苦茶にしちまったんだ!!」

「はぁ? あいつらって誰の事よ?」

「…………」

 メリアの問いかけで我に返ったらしく、ロベルトは口を噤んだ。そこでディロスが、確認を入れてくる。


「伯爵。ここで発言と言うか、僕の推察を口にしても良いでしょうか?」

「勿論構わないが、何についての推察かな?」

「仮に、この野盗が真実を言っていると仮定します。そうするとこの人は、これまで本当に他人の加護を無効化してきたわけです。ですがついさっき、他人からの物質的攻撃を無効化するメリアさんの加護を、無効化できずに攻撃できなかった。この事態を、的確に説明できる仮説があります」

 ディロスが真顔で語った内容を聞いて、カイルは驚きながら話の続きを促した。


「本当か? 一体どういう理由で?」

「この場にいる人間の中で、僕が内容を把握している加護持ちは、シーラ姉さん、メリアさん、リーンさん、ダニエルさんの四人。ですがその他に、加護持ちはもう一人いますよね?」

 そこで意味ありげな視線を向けられたカイルは、本気で困惑した。


「その……、確かに私も加護認定を受けているが、どんな加護なのか判明してはいないが? それは君も、知っていると思っていたが」

「ええ、そうですね。ですから伯爵が授かった加護が《他人の加護を奪える加護》だとしたらどうですか? そう考えると、この状況に説明がつくと思います」

「…………は?」

 その場が静まり返り、誰もがディロスが語る内容を聞き逃すまいと固唾を飲んで見守る。そんな緊迫感満ち動揺が広がる中、ディロスの解説が続いた。


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