第3話 遠距離
二人のデートは専らダーツバー。もしくはドライブ。
4回目のデートで初めてホテルに入った。
5回目は箱根旅行で初めてお泊まり。二人とももう学生じゃないし、悠々自適な付き合いだったけれど、その時で付き合ってから3ヶ月が経っていた。
夜、彼女と浴衣に着替えて旅行の写真を見返していた時。
「ね、晃さん」
「何?」
「言いづらいんだけど、遠距離っていつまで続くのかな」
「……それだよね。いや、考えてはいたんだけど」
まだ3ヶ月で、この遠距離の将来を決めることがどうなんだろうって、自分の中で天秤にかけていた。でも、ふと交際初日を思い出す。何の下心もない状態で彼女に会いに来て、こんなに心から話せる相手と巡り合えた。
そんな彼女に促されるまま、遠距離恋愛を謳歌している。それでも、よくある恋人達にできるようなことが、僕らにはまだない。
どちらかの家でテレビを見るだとか、ラグに寝転がってスマホのアルバムを見せ合うだとか、寝慣れたシングルベッドで一緒に寝るだとか。
彼女の恋愛遍歴は知らないけれど、僕は多い方じゃない。だから怖がって、知らない内に彼女を値踏みしてたのかもしれない。
「普通なら3ヶ月って、まだ付き合いたてでいろいろ考える時期かもだけど、私はもう、晃さんと1年以上一緒にいる気持ち。なのに、実際はまだ数回しか会ってないのが、勿体なくて仕方ないの」
「そうだよね……うん、わかった」
僕は決意した。別に失敗したっていいじゃないか。目の前にいる彼女は、既に大切な人なんだから。
「来月か再来月、東京に越してくるよ。今の仕事が移れそうになかったら、転職する。だから、それまで待っててくれる?」
そう言うと、彼女は初めて驚いたような顔をして見せた。
「……いいの?」
「いや、てっきり楓は僕にそうして欲しいのかなって」
「ううん、そこまで強いるつもりなんてなかったよ? ちょっとは先のこと、考えてくれたのかな、って。だって、男の人の仕事って、大変なの分かってるから」
「いや、大変だけどそれくらいはしたいって思って。……もしかして、重い?」
しまった、と内心で頭を抱えた。いくらなんでも3ヶ月でそれは先走り過ぎたか。なんて後悔も止まないうちに。
彼女からタックルを喰らって、僕は床に寝そべっていた。
「重い、重過ぎ。でも、そういう所が好き」
彼女はいつも以上の笑顔で、僕は堪らなくなって彼女を強く抱きしめていた。
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