第3話

 サチは泣いた。

 毎日、しくしくと泣いた。

 独りぼっちのサチを慰めてくれる人は、誰もいない。

 サチは独りで、毎日泣き続けた。

 長い長い年月の末、人手に渡ったサチの生家せいか古民家こみんかとして手入れをされた後、宿として生まれ変わり、客が訪れるようになった。

 すると、次第にある噂が立ち始めた。

 あの宿に泊まると、どこからともなく子供の泣き声が聞こえてくると。

 怖いもの見たさで客足は伸び、宿はたいそう繁盛した。

 けれども、どれだけ人が訪れても、サチの悲しみは一向に晴れず、変わらずに泣き続ける毎日。

 そんなある日。

 サチの履いていた赤い鼻緒の下駄が、サチの足から突然するりと脱げて、部屋の外へと向かい始めた。

 あんまりにも驚いたからか、溢れ続けていたサチの涙が、ぴたりと止まった。

 下駄がひとりでに歩く姿など、サチは今までに一度も見たことが無い。

 不思議に思ったサチは、こっそりと下駄の後をついて行った。

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