第2話

「ととさま、かかさま、泣かないでください。サチはここにいます、もうすっかり元気です」


 悲しみに暮れる両親に、サチは必死に呼びかけた。

 紺地に赤い文様の入った絣の着物を着て、赤い鼻緒の下駄を履いて。

 けれども、サチの両親は、サチの位牌を眺めては、毎日泣いて過ごしていた。


「ごめんね、サチ。元気な体に産んであげられなくて」

「大きくなったサチを、見たかったよ」


「ととさま、かかさま!」

「そろそろ、いきましょう」


 気づくと、知らない人がサチのすぐ隣に立っていた。


「どこに?ととさまも、かかさまも、ここにいる。サチのお家は、ここだよ?」

「いいえ。ここはもう、あなたの居るべき場所ではありません。あなたはもう、いかなければならないのです」

「いやっ」


 サチは、差し伸べられた手を振り払い、言った。


「サチは、まだ誰も幸せにできてない。ととさまもかかさまも、泣いてばかり。サチはここにいるのに、こんなに元気になったのに」

「いけません、これ以上ここにいては」

「サチはどこにも行きたくないっ」


 本当は、サチにも分かっていた。

 ずっとここにいてはいけないと。

 この人と一緒にいかなければいけないのだろうと。

 それでも、サチは頑としてその場を動こうとはしなかった。


 しばらくするうちに、いつのまにかその人は、サチの前から姿を消した。


「ととさま!かかさま!」


 それからも、サチは必死に両親へ呼びかけ続けた。

 どうしても、両親に笑って欲しくて。幸せになって欲しくて。

 けれども、サチの呼びかけが両親に届くことはなく。

 失意の中で父が、そして母までもが亡くなるのを、サチはただ見ている事しかできなかった。

 そして。

 サチは独りぼっちになった。

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