座敷わらしのしあわせ

平 遊

第1話

 昔むかし。

 ある夫婦の元に、赤子が生まれた。

 その赤子は、なかなか子宝に恵まれずにいた夫婦にとって、待望の子供だった。

 幸せな子になって欲しい。

 周りを幸せにする子になって欲しい。

 そう願いを込めて、両親は赤子に「サチ」と名付け、たいそう可愛がった。

 けれども、サチは生まれつき体が弱かった。

 しばしば高熱を出しては医者にかかり、外で遊びまわる子らをうらやましそうに眺めながら、床に伏せる日々。

 原因は不明、治る見込みは万にひとつも無いと、医者は両親に告げた。

 生きて10才とおを迎えることは、おそらく無いだろうと。

 それでも、両親はサチに惜しみなく愛情を注ぎ、必死に看病を続けた。

 5才いつつの誕生日を迎えて数日が過ぎたある日。

 両親に見守られながら、サチは息を引き取った。

 両親は、小さなサチの体に、紺地に赤い文様の入ったかすりの着物を着せ、小さな棺に横たえた。棺の中には、赤い鼻緒の可愛らしい下駄を入れた。絣の着物も赤い鼻緒の下駄も、元気になったサチが外で遊べるようになった時のためにと、両親が想いを込めて用意していたものだった。

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