犯罪者

@susukino12

あの日から

「主文、被告人を死刑に処する。」


ずっと待ち望んでいた。7年前のあの日から。






僕はある日、隆也と雫と一緒に渋谷のゲーセンに来ていた。

「おい、綾。お前大丈夫か?」

「なんだよいきなり。俺なんか変か?」

「いや...やっぱなんでもねぇや」

僕の家はそこそこの金持ちで、それは隆也と雫も一緒だった。ただ僕の家は他の二人と大きく違い、親の考えかたが古い上に厳しかった。ゆえに、高校2年生になった今でも年に3回ほどしか遊ぶことを許可されず、その度に1000円のみの小遣いをもらう。それ以外は常に勉強。スマホだって家の中じゃほとんど使わせてもらえない。別に自分に自由が無いことを親のせいにしたいわけじゃない。中学受験に失敗して第三希望の学校に行くことになったのは自分のせいだし、親からの圧に対抗できない自分も悪い。そんな僕でも流石に高校生ともなると反抗期に差し掛かり、親の言うことに忠実な子供ではなくなりつつあった。

「なんだよ気持ち悪りぃいな。お前の方がよっぽど変だぞ」

「いやだってお前なんでそんなに金持ってんだよ」

「...お前パチスロってしってるか?」

「お前にそんな度胸ねぇだろ」

「バレたか。親の財布からパクったんだよ」

「おー不良ぶってる綾くんかっくいー」

「殺すぞテメェ」

「マジな話どこでゲットしたんだ?」

雫が口を挟む。

「バイト」

おー、と二人は声を漏らして僕の財布の中を除く。

「どうやって親の監視を潜り抜けたのか、聞かせてもらおうか」

「別に図書室で自習してくるって言っといて位置情報でバレないようにスマホの電源切ってるだけだよ」

「今どき高校生の居場所をGPSで見る親ってどうなんだろな」

「結構過保護だよなー」

この二人の付き合いやすいところだ。人の親を悪く言うなんて普通の奴らからしたらなんとなくタブーだってわかる。でもこいつらはそんな遠慮は一切なく、物事をオブラートに包むってことを知らない。でも下手に同情して遠慮してくる奴らなんかより100倍心地良い。

「今貯金どんくらい?」

「20万くらいかな。大学入るまでに100万貯めて一人暮らししたいんだけど無理そうなんよ。溜まって70万が限界って感じ」

「まぁそんなもんだよなー」

「親にバレたら殺されんじゃね?」

「まぁ親の免許証パクって口座勝手に作ってんだから殺されるわな」

「通帳見られたときにはおしまいってわけだ」

「その通帳どこに置いてんの?」

えっとたしかー、と言いかけて気づいた。そういえば机の上に置きっぱなしではないか!

「やばい!!帰るわ!!」

そう言って僕は田園都市線の改札へと走っていった。



僕は帰りの電車の中でひどい胸騒ぎがして、2度も駅のトイレに駆け込んだ。そうしてなんとか家に着きドアの前に来た瞬間、何かが違うことだけは一瞬で理解した。明らかに空気が違ったのだ。僕はお金に関する何かであることを無意識に考えないようにした。大量の汗にまみれた手で恐る恐るドアを開けると、玄関には親に秘密にしていた僕の銀行通帳がおいてあり、中身を確認すると残高は0になっていた。頭のなかは真っ白になり、何も考えられなくなった。そしてこの瞬間、明確に自分の中にあったものは自分への絶望と親への殺意だけだった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

犯罪者 @susukino12

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ