第三章 転

 テレビをつければ、全てのチャンネルが同じ報道をやっていた。

「爆発事件の現場、水野場みずのば高校からは以上です」

 死亡者二名。その内の一人が犯人で、学生だったらしい。その事実が、今日はなぜか僕に考えさせた。死んだのが同い年の人間だったというのは、その行動に至る一つの原因かもしれない。しかし、それだけじゃない気もした。他の、人が死ぬニュースなら、悪いが何も思わなかったかもしれない。

 別の原因は見つからないまま、時刻は十時になった。

「こんばんは」

 今日も、僕から話しかけた。

「こんばんはー。何話す?」

「ニュース見た?」

 僕はつい訪ねてしまった。

「何か特別なことあったっけ」

「あっ、知らないのか。ごめん、暗いやつなんだけど」

「そうなの。大事なことだよ。何があったの」

正城まさき県の高校で爆発事件だって」

「えっ。あれ、何で知らないんだろう。何高校って言ってた?」

「水野場高校だって」

「は? 何で……って、言っていいのかな」

「知ってるの?」

「いや、知ってるっていうか、うーん、言っていいかな。私の行ってる高校なんだけど」

「え? ちょっと待って」

 僕はネットでニュースを確認した。『水野場高校爆発事件』の見出しが並んでいる。

「爆発してないの?」

「何その質問」

「いや、本当に」

「そっちでは確かにそうなの?」

「ネットで話題になってるし、僕がそれを知ったのはテレビからだから間違いないよ」

「どういうことだろう」

 伊坂幸太郎さんの小説をいくつも混ぜたような話だと思った。考えろ考えろ、マクガイバー、じゃないけど。

「ねえ」

 しまった余計なことを考えていた。でも、こういう時の方がアイデアが思いつくものだ。

「何?」

「それって今日の話? 昔のニュースを放送してたとかじゃなくて?」

「いや、日付も今日のだった」

 と言ったところでひらめいた。なるほど、松尾由美さんだったのか。もしくは東野圭吾さん。アニメだったら新海誠さん。

「ねえ、今日は何月何日?」

 僕は聞いた。

「え?」

何月何日?」

「……あっ、そういうこと、わかった。今日は六月二十七日」

「やっぱりそうだ。僕の方では、今日は七月一日なんだ。えっと、四日ズレてたんだよ」

「本当に?」

「つまり爆発は七月一日のことだったんだ」

 知らずのうちに時を超えていたのだ。

「じゃあ、止められるってこと?」

「場所がわかればできるかもしれない。調べてみるよ」

 検索すると、詳しく情報が出ていた。

「あ、あった。一号館の東側だって。わかる?」

「うん、わかる。ねえねえねえ、なんだか主人公みたいだね」

「それ思った。いや、もう僕たちは主人公だよ、たぶん。それで、時間は午前十時頃だって」

「授業サボるわ。最高だな」

「最低だね」

 そして、二人で笑った。もう十一時は過ぎていた。

「頑張るよ。マリオみたいにクリアするよ」

「じゃあね。あ、世界を変えちゃったら、明日はもう話せないかな」

「それでもいいじゃん。前にも言ったでしょ、いつか終わるって。未来で、同じ時間に繋がった時に、偶然会えるのを待つだけだよ」

「ありがちな展開を望むよ」

「じゃあね」

「じゃあね」

 そして連絡は終わった。僕はしばらく呆けていた。

 ニコちゃんとはもう話せないかもしれない。ショックだった。でもそれは仕方のないことだ。物語には終わりがある。




 次の日、午後十時、僕は「こんばんは」と言った。返事はなかった。

 予想通り、非日常は、終わった。

 僕は数学を始めた。

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