第69話 魚人槍術の使い手、サッハギーン

「てなわけで、やって来ました魚人退治! 朝日が目に染みるぜ~」


 言いながら朝日に向かって目を細めるケート。

 ねえ、誰に向かって言ってるの?


「そして、あちらに見えるのが、今回の相手。サッハギーンです!」


「本当に魚の体に腕と足が生えてるだけじゃん……。気持ち悪っ」


「あの体、すごい動きにくそうだよにゃー。真正面が攻撃の死角になりそうだぜー」


 言いたいことはすごいよく分かる。

 というかあの腕って、ちゃんと動くの?

 肩らしきものが見えないんだけど……。


「それじゃ行くかにゃー。開幕速攻よろしくー」


「はいはい。そっちこそ、上手いところ見せてよね?」


「にゃはは。任せんしゃい!」


 お互いに、気負うことなく頷いて、私が先導する形でサッハギーンに近づいていく。

 大きさは約2メートル半程度。

 刀の間合い2個分ほど近づいたところで、サッハギーンの眼がギョロリとこっちを向いた。


「……っ!」


「ギョギョギョ、キサマラ、ニンゲンダナ?」


「しゃ、喋ったァ!?」


 カタコトのような発音ではあるものの、サッハギーンの声は、確かな意味をもって、私達の耳へと届いていた。

 しかし、それを私達が理解するには……ちょっとばかりの時間が必要だったけど。


「ワガナハ、サッハギーン。コノタイガヲスベシ、スイセイチョウオウガヒトリ!」


「スイセイチョウオウ? なにそれ?」


「たぶん、水生超王とかだと思うにゃ」


「なるほど」


 分かったけど、それがなに?

 水に生きるモンスターの中でも、すごいやつ! ってこと?


「ミタトコロ、キサマラハスデニ、ドロノチョウオウ、キングフロッグヲタオシテオル。ナラバ、アイテニトッテフソクナシ」


「キングフロッグ? ああ、あの王様蛙?」


「アレも超王だったんだにゃー。初めて知ったぜ」


 私も知らなかった。

 むしろ、蛙はこんな風に喋ったりしなかったし。


「ケイイヲヒョウシ、サイショカラツカワセテモラオウ! コイ、カオウノモリ!」


「カオウノモリ? あ、銛か!」


「魚が漁に使う銛を持つとか、意味分からんにゃー」


「デハ、ジンジョウニ……マイル!」


 タンッと軽い音を鳴らしながら、奇形魚人が近づいてくる。

 動く度に揺らめく尻尾が、絶妙な気持ち悪さを醸し出しつつも、差し込まれた銛の速度は、戦闘イベントで見た誰よりも速かった。


 ……へえ、面白いのは見た目だけじゃなさそうね?


「よっ、と」


「フセグカ、ソレデコソッ! ギョジンソウジュツ『シブ」


「一点集中『プチフレイム』!」


「ヌウッ!?」


 なにやら技を出そうとした瞬間、ケートが魔法で横から、文字通り横槍を入れる。

 最下級とはいえ、八個の魔法を集約して放たれた魔法は、さすがに避けるしかないのか……魚人は、見た目からは想像できない速度で、私から離れていった。


 ……移動速度だけなら、ケートより速いかもしれない。


「タダノマホウツカイカトオモイキヤ、ナカナカニヤル」


「へっへっへ。なんてったって天才だからにゃー」


「オモシロイ! フタリガカリデアロウトモ、ワガモリ、イッテンノクモリナシ! マイル!」


 この魚人、見た目は気持ち悪いのに、なんだかかなり武士道極まってる感じがする。

 なんていうか……暑苦しい感じの性格だー。

 ナインと同じく、出来れば近寄りたくないタイプってことで……。


「先手必勝。【蝶舞一刀】水の型『水月』!」


「アマイ! ギョジンソウジュツ『ウチシオ』!」


「ッ! 銛の一撃で弾くとか、ちょっと冴えすぎでしょ」


「にゃはは。ぶっ飛べ、連射『ウィンドブロー』オォォォォラオラオラオラオラァ!」


 『水月』による刹那の斬撃を、まるで打ち寄せる波の如き銛の一撃で弾く魚人。

 しかし、その直後に放たれた不可視の弾丸に、「ヌウ!」と苦悶の声を上げ、吹っ飛ばされた。


「ナイス、ケート」


「うひひ。一気に攻めるぜー! 【魔法連結】『クリエイトゴーレム』、モードチェンジ【魔法連結】『スピニングランス』! シュート!」


「ギョジンソウジュツ『ウズシオ』! ヌゥン!」


「うひゃー。銛の回転でランスの軌道をねじ曲げるとか、うひゃー……」


 驚きつつも、ケートは攻めの手を緩める気がないのか、すぐさま「モードチェンジ【魔法連結】『ギガントハンマー』!」と宣言する。

 それに合わせ、私も一足飛びに接近し……『旋花』を放った。


「アマイッ!」


 魚人がそう叫んだ直後、ガギィンと鈍い音が響き……『ギガントハンマー』が噛み砕かれた。

 そして同時に、私の放った『旋花』も尾にはたかれる。

 えー……そんなことってあるー?


「ミタカ、サメノヨウニスルドキ、ワレノハヲ!」


「鮎でしょ?」


「鮎だにゃ」


「ソシテ、カジキノヨウニオオシキワガオヲ!」


「だから、鮎だよね?」


「うむ。鮎だぜ」


 もっと、自分が鮎の魚人だということに、誇りをもって欲しいかな?

 鮎だって、塩焼きとかすごい美味しいんだからね?


「そういえば、カリンさんって魚はどうなの?」


「魚はあんまり興味ないみたいだったにゃー」


「やはり肉が一番かー」


「うむうむ」


 それならば仕方ない。

 鮎の塩焼きは、私達だけで楽しもうかな。


「ギョッギョッギョッ! ワレヲクラウツモリカ、ニンゲンドモメ! ソノイキヤヨシ!」


「唯一の懸念は、あの鮎はあんまり美味しくなさそうってことくらいだよね?」


「だにゃー。そもそも魚人の中身がどうなってるのかが、分からないからにゃー」


「その辺はまぁ……バラせば」


 刀の柄に手を添えて、そう呟けば……ケートが「こわっ!?」と声を上げる。

 そして、ほぼ同時に、魚人の方も「オソロシイムスメダ……」と、私から距離を取っていた。


 こわくないよー?

 ただの女子高生だよー。


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 名前:セツナ

 所持金:105,040リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.8】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.10】【秘刃Lv.2】【符術Lv.1】

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