第68話 西側のボスは魚人らしい

「たっだいまー。ケートちゃんご帰宅でっす!」


 全ての場所で水を集め終わった後、作業する二人を見ながら、のんびりと過ごしていたところに、ケートが帰ってきた。

 って、もう日が暮れてる時間なんだけど……。


「あ、ケートさん。おかえりなさい」


「おかえり、ケート」


「ん」


「……リンはもっとちゃんと出迎えて欲しいにゃー。まあいいけど」


 良いんじゃん。

 なんて、心の中でツッコミを入れていれば、ケートはいつも通り、私の対面の椅子へと腰掛ける。

 そして、「ぐへぇ……」と疲れたような顔で机に突っ伏した。


「ケート、今日はどうしたの?」


「ちょっと調べ物ー。でも、大体分かったからもう大丈夫ー」


「調べ物って……。何を調べてたのよ」


「そりゃー、ボスですよ奥さん」


 誰が奥さん……ってボス!?

 え、どういうこと!?


「昨日、大河へ行ったときにさー。ちょっとばかし気になることがあるって言ったじゃん? で、空中神殿を見て、それがほぼ確信に至ったのじゃ」


「ふむふむ。それで?」


「たぶん、第二層のフィールドボスは東西の二体だけ。空中神殿が南とすると、この間私が見たスカラベが東のボス。なら西のボスがいるはずってね」


 にゃははと笑いつつ、ケートは話を進めていく。

 軽い口調で話してるけど……よく考えたねー。


「で、たぶん時間が関係してるなって思ってたんだよね。スカラベを見たのが夕方で、空中神殿は昼から夕方。なら、西のボスは午前中じゃないのかなって」


「へー。それで、どうだったの?」


「にひひ、大正解だったですじゃ。といっても、大河の範囲が広くて、時間切れギリギリにボスの姿を確認出来ただけだけどねー」


 苦笑しつつ、ケートは地図を取り出して、「見たのはココ」と場所を教えてくれる。

 街からは北西に当たる位置みたいだ。


「あの、ケートさん。どんなボスだったんですか?」


「えっとねー、魚人……?」


「魚人!?」


「たぶんあゆっぽい感じだった」


 いや、鮎っぽいって何。

 魚人って、こう……魚っぽさもありつつ、魚からかけ離れてたりするものじゃない?


「いやだってさー、鮎に手足がついてる感じだったし。こう、口を上にして、尻尾を下にして……横から手足が生えて二足歩行、みたいな」


「気持ち悪っ!?」


「肩とか骨盤っぽい関節部は見えなかったから、かなり動きにくそうなフォルムだったにゃ。ちなみに名前は『サッハギーン』」


 サッハギーンて。

 ロボットモノのまがい物みたいな名前してる。


「戦おうと思ったタイミングで、河に飛び込んでいったからにゃー。実際はどうか分からないぜ」


「なるほどねー。でもまあ……面白そうかな?」


「うむうむ! スカラベは日が暮れても徘徊してたから、ナイン君の装備が完成してからが良いかな。夜の戦いは、あの子いた方が楽だろうし」


「……まあ、そうかもだけど」


 ナインは苦手なんだよねー。

 あのテンションとか。


「にゃははは。セツナはホントに顔に出るにゃー。そんなにナイン君のこと、嫌い?」


「嫌いっていうか苦手。分かってるでしょ?」


「分かってるけどねー。生意気な弟って感じがして可愛い気がしない? まあ、女の子だから妹なんだけど、うちってお兄ちゃんしかいなかったから、弟とかいるの、ちょっと憧れなんだよねー」


 まあ、確かにそういう気持ちは分からなくないけど……。

 私だって、兄弟姉妹がいればなーって思ったりしたことあるし。

 でも、ナインはちょっと。


「大丈夫だってー。そのうち慣れてくるだろうし、あっちも落ち着いてくるさー」


「まあ、そうかもだけどー」


「にひひ。とりあえず、東側のボスは置いといて……西側のボス退治に行こうぜ!」


「え? 第三層には行かないの?」


 せっかく空中神殿っていう、第三層に繋がりそうな場所がみつかったのに。

 ケートのことだから、一番乗り! とか言いそうなのになー。


「それはもう少し要検証だにゃー。セツナの【符術】がもう少し使えるようになったら行こうぜ!」


「まあ、私は別に良いけど……」


「てなわけで、サッハギーン退治は明日の朝ってことで、ヨロシク!」


「はいはい」


 言うだけ言って、ケートは「疲れたから落ちる-」と、ログアウトしていった。

 なんていうか……自由だなぁ……。

 疲れてたのは本当なんだろうけど。


「た、台風みたいでしたね」


「だよねー。ま、ケートらしいって言えばケートらしいし、良いんじゃないかなー?」


「ん。ナイス台風」


 それはちょっと違うと思う。

 しかし、西側のボスかー。


「あ、そういえば……カリンさん、豚足っていります?」


「いる」


「即答だったかー。西側のモンスターに『イーリアスボアモドキ』って豚がいて、大量に狩ってきたんですよ」


「セツナ、何が欲しい?」


 話が早いっていうか、早すぎてちょっと怖い。

 豚足で釣れるトップ職人ってどうなのよ……。


「あはは……。さっきケートも言ってたんですけど、私【符術】スキルを取りまして、対応装備が欲しいかなーって。ほら、アイテムボックスから、毎回呪符を取り出すのもアレですし」


「ん。了解」


「素材は大丈夫です?」


「ナインのがある」


 それは良いの?

 いや、ナインからの報酬でカリンが受け取るモノだし……いいのかもしれないけど、正確にはまだカリンのじゃないよね?

 ……良くないよね!?


「ナインさんの素材を使うのは、納品してからに……」


「……仕方ない。納品後に」


「それでいいので、お願いします」


「依頼承諾」


 というわけで、一応先に一本だけ手渡しておく。

 プリップリの豚足!

 タレを付けて煮れば、絶対美味しいやつー!


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 名前:セツナ

 所持金:105,040リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.8】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.10】【秘刃Lv.2】【符術Lv.1】

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