第67話 ふたりでひとつ

 side.カリン


 ミトと手を繋いで、強制ログアウトまで天体観測をした日の翌日、私はひとり、作業場で作業を進めていた。

 そんな私から少し遅れて、「お、おはよう、ございます……」と、ミトが姿を現す。

 その顔と声が、少し恥ずかしがっているように聞こえて、私はなぜか安心した気持ちで「おはよう」と返していた。


「あ、あの、カリンさん! 昨日は、ご迷惑をおかけしました……」


「よく寝れた?」


「え? あ、はい」


「なら良い。始めよう」


 自分の作業を止めて、ミトの作業スペースである台所へと向かう。

 そんな私に「え? え?」と困惑しつつも、ミトも台所へとついてきた。


「その、カリンさん?」


「見る」


「あ、はい」


 ミトに任せて、待つこと。

 それが一番良いと思って手を出さなかったけれど、それがミトをあそこまで苦しめてしまった。

 ……だから、もうしない。

 一緒に、隣で進んでいこう。


「『黒の染色液』は、『紫の染色液』を錬金術で重ね合わせて、色の性質を変化させることで作れます。その時に、一緒に効果も付けることが出来るんですけど……」


「ん」


「えっと、材料は、東アルテラ森林で取れる『紫の根』と、水です。根を刻んで煮詰めるだけなので、作るのは難しくないですよ」


「ん」


 トントントンと根を刻み、水を容れた鍋に投入、そして鍋を火にかける。

 そしてかき混ぜながら煮詰めていき、水全体が濃い紫になったところで火を消して、少し冷ましてから瓶へ移し替える。

 手順としては全く難しくはない。

 それに、品質自体も……全然問題ない品質だ。


 やはり単純に【錬金術】のレベル不足?


「出来た『紫の染色液』を3つ……【錬金術】のスキル内スキル『三種融合』で重ね合わせて」


「ミト、可視化」


「あ、はい。えっと、これで見えます?」


「ん」


 ミトに生産ウィンドウの可視化をお願いし、表示されている情報を読み取っていく。

 通常の二種融合よりも成功率が上がる『三種融合』を使用したとしても、紫から漆黒へ色を変えるだけで、融合成功率が27%まで下がる。

 そして更に、消音の効果を付けると……成功率は2%まで下がった。


 2%って。


「あはは……。実は二種融合だと、成功率は1%なんです。でもたぶん、表示上1%になってるだけで、1%未満なんじゃないかなと」


「ん。多分」


「だから、それよりは成功する確率はあるんですけど……」


 確かに1%が2%に増えるだけで、確率は二倍になる。

 ……もっとも、表示が2%なだけで、1.5%より少し上、程度の感覚でいた方が良いとは思うけれど。


「とりあえず試してみますね」


「ん」


「……【錬金術】『三種融合』」


 ミトが集中するように呟くと、作業台の上に置かれていた『紫の染色液』が光り始める。

 そして、その形が揺らぎはじめ……3つが1つに重なり……。


「おはようございます、ミトさん。カリンさん」


 セツナが作業場に入ってきた瞬間、パキンと音が響いて消滅していった。

 ……あー。


「あ、えっと……その、もしかして、私やっちゃいました?」


「……」


「ひ、ひぃ! ごめんなさい!」


「だ、大丈夫です! セツナさんのせいじゃないですから!」


 私が無言でセツナへと顔を向けると、セツナはガタガタ震えながら謝り始めた。

 最近、怖がられている気がする。

 私別にこわくないよ?


「……でもやっぱり2%じゃ成功は難しいですね」


「ん」


「でも、『紫の染色液』は十分色も出てますし、品質としても問題ないはずなんですけど……」


 確かに、ミトの言うとおり、『紫の染色液』の品質は、普通に使っても問題ないくらいに高品質だった。

 つまり作り方も問題は無いということだろう。


 そういえば以前、父が水彩画を描くときに、何か言っていたような……。


「……水?」


「え? 水ですか?」


「ミト、水どこ?」


「見てたと思いますけど……今使ってるのは、そこの台所から……」


 ミトの言葉を受けて、私はすぐさま台所へと向かい水を手に取って……ごくんと飲んだ。

 ……少し喉に引っかかる感じがする。

 もしかすると、ここの水は硬水なのかもしれない。


 そうと分かれば、やることは自ずと決まってくる。

 困惑したような顔をしているミト達を置いて、私は机に地図を広げた。

 第一層と第二層の地図だ。


「セツナ、水」


「え?」


「たぶんセツナさんに、水を取ってきて欲しいってことだと思います」


「ん」


 ミトの補足に頷いて、私は地図上で三カ所を指で叩く。

 ひとつは第二層の大河。

 そして、アルテラの噴水広場の水と……東アルテラ森林奥の湖だ。


「セツナ、お願い」


「えっと、その三カ所? 湖は行ったことないんだけど……」


「湖へは、森林の入り口から続く道をまっすぐ行けば大丈夫です」


「ん、分かった。じゃあ行ってくる」


 嫌そうな素振りひとつ見せず、セツナは作業場から出て行く。

 なんだか使い走りみたいなことをさせてしまった……。

 また今度、何かでお礼しないと。


 でも今はとりあえず……。


「ミト、水以外試す」


「あ、はい!」


 セツナが帰ってくるまでの間に、水以外の試せることを試しておかないと。

 まずはー……根の切り方かな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る