第61話 見つからない理由

 サボテンの姿を求め、歩くこと更に数十分。

 私達はついに、群生地から旅立っていくサボテンの姿を捉えた。


「見つけたにゃ!」


「あと二十分くらいで群生地ってところまで来てるんだけど……ここまで一体も見つからないとは」


「でもこれでなんとかなるぜい! 倒されなければ」


「そうね。倒されなければ」


 話しつつ、遠くからストーキングするようにサボテンの後ろ姿を追いかける。

 しかし、当のサボテンはストーキングされていることすら気付くことなく、ポニョンポニョンと歩いていた。

 いや、もうサボテンが歩くのには慣れてきたけど、あの軟らかさはちょっとまだ……。


「ふむ、ルートが違う」


「そうね。私達が辿ってきたよりも南に抜けてる」


「それで見つからなかったのかもにゃー」


 サイやイーリアスドッグの間を抜けていくサボテン。

 なるほど、モンスター同士では攻撃しないのかな?

 あ、サイとイーリアスドッグは戦ってる……サボテンだけ特殊なのか。


「日がだいぶ傾いてきたにゃー。そろそろ戻らないと、死に戻りでしか街に入れなくなるぜ」


「だねー。間に合うギリギリで移動方法が判明すればいいんだけど」


 今の場所から街までは、走って三十分程度。

 まだ全然間に合う時間ではあるけど、サボテンの歩く速度がゆっくりで、どこまで進むのか分からない以上……死に戻りも覚悟しとくべきかもしれない。


 そんな話からさらに十分ほどして、サボテンは岩の多いエリアへと進んでいた。


「お、なんかそれっぽい場所に来たぜい!」


 ケートの声にサボテンの方へと思考を切り替えると、サボテンは岩と岩の間に入っていく。

 背の高い岩が三角形になるように三方を塞いでいて、遠くからだと奇妙なポーズをするサボテンの後ろ姿しか見えない。

 しかし、一瞬の後……サボテンが消えた。


「きえっ!? え?」


「なるほど。ワープ装置かー。そうきたかー」


 驚く私と対照に、メニューで時間を確認し、太陽の位置や島の位置を確認するケート。

 そのあまりにも素早い確認に、私は「ほへー」と口を開けたまま感心していた。


「発動方法が分からないけど、サボテンが発動できるんだし、そう難しくはないはず……」


「ケート、分かりそう?」


「まあねー。大体こういうのはどこかに仕掛けが、っとあった」


 中に入ったケートが、石を触りつつ何かを見つける。

 そして、発動させようとして……「あれ?」と首を傾げた。


「ケート?」


「発動しない。薄くなってるけど、石に書いてあるのは魔法陣のはず……」


「もしかして最後にサボテンが変なポーズしてたのと関係ある?」


「あ、そういうことか! セツナ、そっちのひとつに魔力をいれてもらえる?」


「え、うん」


 言われるままにケートと背中合わせになって、岩のひとつに手を伸ばし魔力を込める。

 すると岩りが光だし……一瞬の浮遊感の後、私達は全然違う場所にいた。


「ケート、ここってぇ、わわっ!?」


「おっと、お気をつけを。ここは天空、風が強いからさ」


「……あ、ありがと」


 ビュオォと吹いた風に押されて、コケそうになったところを、ケートに抱き止められる。

 そして、ニコッと笑ったケートに、なぜか少し拗ねつつも私は礼を言って立ち上がった。


「なにはともあれ、これで確定だにゃー。移動方法も分かったし」


「だね」


 目の前に見える景色は地上とはまるで違う、白く美しい景色だった。

 言うなれば、空中神殿って感じかな?


「で、ケート。あの神殿がダンジョンってことでいいのかな?」


「んー……見た目のサイズ的に、ダンジョンって言うよりも、あそこがボスの間って感じだけどにゃー」


「あれ、そうなの?」


「うむ。まあもしかすると、神殿から次の神殿に繋がる階段が伸びてて、十二の神殿で戦いを繰り広げなくてはいけない! とかかもしれないけどにゃー」


 なにそれ?


「にっひっひ。そんじゃ、今日のところは戻りますかなー。時間もギリギリだし」


「うん。そうだね」


 クルッと振り返った先には……魔法陣もなにもない。

 ついでに日も落ちて、もう夜になりかけていた。

 あれ?


「ねえ、ケート」


「にゃはは……どうするかにゃ」


「ど、どうするのよ!?」


 帰り道がない状況に、うーんと悩みだしたケートは「なら、ボスに突貫するしかないにゃ!」と、名案を閃いたように笑顔を見せた。

 いや、帰り道がないからって死ぬのはちょっと……。


「まあ、この状況だとそうするしかないんだよ。さすがにサボテンみたいに飛び降りるのはちょっとにゃー」


「……仕方ない、か」


「にひひ。それじゃ、ゴーゴー!」


 意気揚々と歩くケートに苦笑しつつ、後に続く。

 周囲は静かなもので、モンスターの姿ひとつない。

 たぶん、サボテンの移動経路になってるだけで、他のモンスターは生息してないのかも。


「これはボス戦のみが濃厚だにゃー」


「そうなの?」


「うむうむ。たぶん戦闘前のセーフティーエリア安全地帯みたいな感じなんじゃないかにゃー。まあ、サボテンが来るから完全なセーフティーじゃないだろうけど」


 なんでも、ボス前にはちょっとした休憩ポイントがあるものらしい。

 そういえば、第一層のボス前も門のそばとか、門に入ってすぐとかはモンスターの姿がなかったかも。

 あったらのんびり門を開けたりもできないだろうしねー。


「そんなわけで、この流れだとあの神殿に入ったらすぐにボスって感じじゃないかにゃー?」


「なるほど。なら準備だけはしておかないとね」


「うむうむ。いきなり攻撃されるかもだしにゃー」


 それは怖い。

 というわけで、刀の位置を調整したり、ポーションの数を確認したり……。

 数分程度、準備に時間をとってから、私達は神殿へと足を踏み入れた。


 ――来るなら来い!


 その想いに応えるように神殿の中央へと光が集まり……目が眩むほどの閃光が放たれる。

 光に目を閉じた次の瞬間。


 私達は、イーリアスの中央広場に戻っていた。


「え?」


-----


 名前:セツナ

 所持金:210,740リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.7】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.10】【秘刃Lv.2】【符術Lv.1】

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