第60話 サボテンダンサーの川上

 サボテンはぐにょんぐにょんと動きながら、大河へと近づき、足をつけた。

 ……まるで足湯みたいな感じ。


「ねえ、ケート。ここってサボテンは出る可能性が低いって言ってたよね?」


「ん? そうだにゃー。東の奥地にいるし」


「なら、アレはなに?」


「にゃ?」


 私が指差すケートの後ろ側に、ケートは体を向けて……「にゃ!?」と驚いた声を上げた。

 しかし、サボテンはその声には気づくことなく、目の前でのんびりと足湯……足水を楽しんでいた。

 気持ちよさそうだねー。


「で、でも、サボテンが東の奥地から、西の大河までくるとは考えにくいにゃ。かなりの距離があることを考えると、この時間に大河につくなら、昼前には移動を開始してないといけないはず」


「言われてみればそうかも。私達が歩いて向かっても、片道二時間から三時間くらいかかるから……普段のサボテンの速度的にはもっとかかるよね?」


「うむ、その通りにゃ。でも、東に向かう道中に、サボテンの姿はほぼなかったはず。それこそ奥地のサボテンの群生地までは全然といっていいくらいに」


 しかし、そうなってくると矛盾が生じる。

 サボテンはどうやってここに来たのか、ということだ。


「ねえ、ケート。サボテンの群生地が東以外にもあるとか、そういったのはないの?」


「そんな話は全くないにゃー。イーリアスNPCも、みんな東って言ってたし」


「むう。そっかー」


 その案が一番ありそうだったけど、違うのかー。

 でもそうなると、やはり東から西にサボテンが移動してるってことになるんだよねー。


「あ」


「今度はどうしたにゃ」


「サボテンがたくさんきた」


「……もう、訳わからんぜい」


 先んじて来ていた一匹……一本? の周りに、わらわらとサボテンが集まり、河辺に座り込む。

 なんだか、避暑地っぽいというか、海水浴場っぽいというか……主婦の井戸端会議っぽいというか……。

 主婦の井戸端会議するサボテンってなに……。


「ねえ、ケート。あのサボテンをさかのぼってみない?」


「ふむ。流れてくるサボテンの川上に向かうのか。それもまたよし」


「サボテンの川上ってなに……」


「むしろ、サボテンダンサーなら川上さんくらいいそうでござる。サボテンダンサーの川上」


 誰よ、川上。


「まあ、このまま南下してもあまり期待できないのは確かだし、サボテンの謎を解明する方が有意義かもにゃー」


「うん。気になるのを放っておくのもアレだしね」


「ですにゃー。それに、もしかすると隠された何かが見つかるかも知れませんぞ……」


「隠された何か?」


 そう言ってフフフと笑うケートに、私は首を傾げる。

 なにかって何よ。


「次の階層への入口とかダンジョンが見つからないってことは、隠されてるんじゃないかって思うんだよねー。だから、今のところ怪しいのは大河の底か、島だったんだけど……」


「大河にはワニがいるし、島も見える限りにはないよね?」


「うん。だから、その可能性は低いかなって思ってる。もちろん水中戦に慣れさせる意味合いも兼ねて、水中にダンジョンがあるって可能性もあるけどにゃー」


 なるほど、そういう考えもあるのか。

 でも、そうなってくると……かなり難易度が上がる気がするんだけど。


「そゆこと。だから、まだ水中戦は強いる段階じゃない気もするんだよね。むしろ、ここまでなにもなかったら水中だ! って勝手に調べ始めそうだし」


「それは……そうかも」


「でしょ? だから、あえて外してくる可能性もあるんだよねー。ってことで、ここまで考えた上でケートちゃんとしては、荒野のどこかに隠しダンジョンがあるんじゃないかなーってね」


「隠しダンジョン……」


 たしかに入口が隠されてる可能性はあるのかも?

 端から端まで走ってる人も、そんなにいろいろ試しながら走ってるわけじゃないだろうし。


「でも、ケート。隠しダンジョンがあるとして、いままで全く見つかってないっていうのも変じゃない?」


「うむー。それはそうなんだよねー。もしかすると見つかってて、でもいち早く抜けるために隠してるとかって場合もあるし、特殊な条件でしか出現しないとかもあるのかもなんだよね。だから、気になったことを調べていくしかなんだにゃー」


「で、今回はサボテンの早すぎる移動が気になる、と」


「そゆこと」


 にひひと笑って、ケートはサボテンの流れを指でなぞり確認する。

 そして、「少し離れた状態を維持して歩いてみよう」と、歩きだした。



 歩きだして数十分ほど経ったとき、私達は不思議な現象に遭遇していた。

 そう……サボテンが空を飛んでいたのだ。


「……ケート。サボテンって空を飛ぶの?」


「いや、それは聞いたことがない」


「だよね。そうだよね」


 空を見上げながら呟いた問いに、ケートもまた唖然としながらそう返す。


 空から舞い降りる時、あの軟らかな体をぐにょらせて華麗に着地し、何事もなかったかのように優雅に歩いていくサボテン。

 正直、意味がわからない。

 え、なんでサボテンが飛んでるの?


「あ、あれ飛んでるわけじゃないみたいだぜ? 空から落ちてきてるだけだ」


「いや、サボテンが空から落ちてくる時点でおかしいでしょ!?」


「まあそうなんだけど……。着地点がほとんど同じ位置なことを考えると、あのサボテン達ってほとんど同じ場所から落ちてきてるんだよね。で、思い出して欲しいんだけど、第二層にそんな高い山とか地面ってあったっけ?」


 そう言われて、はたと気づく。

 第二層は西側の大河を除いて一面荒野が広がっているエリアのはず。

 見上げるほどに高い場所から落ちること自体……不可能なはずなのだ。


「……あー、そうきたかー」


「ケート?」


「あそこの雲の上に、たぶん大地がある。巧妙に隠されてるけど、一瞬土みたいな茶色が見えた」


「えっ!?」


 ケートの言葉に、慌てて空を見上げる。

 するとたしかに……他の雲よりも動きの遅い雲があり、雲と雲の切れ目から、土のような茶色が覗いていた。

 え、ええ……?


「もしかして見つからなかったのは、空にあったから?」


「たぶんね。それに、あの浮島も動いてるから、タイミングが合わないと見つけることもできないし、行くことももちろんできないって感じかな」


「……サボテンはどうやって行ってるんだろうね」


「それはこれから確かめるしかないにゃー。とりあえずここからまっすぐにサボテンの群生地を目指して歩いてみるぜい!」


 楽しくなってきたのか、気合いの入った声で言い切ったケートに、私も頷いてみせる。

 でも、空の上、かぁ……。


-----


 名前:セツナ

 所持金:210,740リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.7】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.10】【秘刃Lv.2】【符術Lv.1】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る